政治・経済

東京商工会議所の第21代会頭に就任し、上部団体の日本商工議所会第19代会頭にも選任された三村明夫氏(新日鉄住金相談役)。早くも〝三村イズム〟の本領を発揮している。〝遅れてきた財界総理〟は経済界の意思統一に意欲満々だ。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

日韓関係懸念の共同声明

三村明夫・日商会頭

三村明夫・日商会頭(写真:時事)

 11月1日午後、東京・馬場先門の東商ビルで行われた新東商会頭の就任会見には、三村体制を支える副会頭の面々が同席した。新任の旭化成の伊藤一郎会長、JTBの佐々木隆会長、資生堂の前田新造会長兼社長、IHIの釜和明会長、醍醐ビルの田中常雅社長の新任副会頭5人に、再任された三井金属鉱業の宮村眞平相談役、三和電気工業の石井卓爾社長、東京ガスの鳥原光憲会長、本田技研工業の福井威夫相談役、三菱商事の小林健社長の5人だ。体調不良で欠席したみずほフィナンシャルグループの杉山清次名誉顧問を除く10人は三村新会頭とともに、それぞれが胸を張って就任の抱負を語った。

 異例だったのはその後だ。新会頭の就任会見なのだから主役が代表して記者の質問に答えてもいいわけだが、消費税の軽減税率について聞かれた三村氏は「税の問題は自動車業界の方が詳しいから」と、本田の福井氏に説明をしてもらった後に自分の意見を述べた。昨年9月の尖閣諸島国有化以来、関係が悪化した中国への対応でも「一番詳しい人に助けてほしい」とまず資生堂の前田氏や三菱商事の小林氏に現況を説明させた。

 それぞれの見方が加わることで問題の本質が掘り下げられるし、その間に自身の考えを組み立てられるという計算だろう。周囲に目配りしながら他の出席者に発言を促す〝三村流〟は中央教育審議会や総合資源エネルギー調査会など異なる意見が激突する政府の審議会で、それぞれの会長として全体をとりまとめてきた経験によるものとみられる。会見は三村氏の采配でなごやかなムードで終始した。

 三村イズムは11月6日に発表された日韓関係の改善を求める経済界の声明でも発揮されたようだ。声明は経団連、日本商工会議所、経済同友会のいわゆる経済3団体と日韓経済協会のトップが連名で近年、韓国で戦時中に日本企業によって強制徴用された人やその遺族による損害賠償請求訴訟が多発していることに対する憂慮と、日韓貿易や投資に及ぼす悪影響への懸念を示したものだ。

 事象通によると、これらの損害賠償請求は韓国国内の反日・北朝鮮寄りの市民団体が起こしたもので、左翼系の弁護士らが同調した。韓国の最高裁にあたる大法院は2012年、個人の請求権は有効との判断を示し、今年になってソウル高裁、釜石高裁、光州地裁で相次いで新日鉄や三菱重工に対する賠償命令が出た。日本企業側はそれぞれ上告し、日本政府は「1965年の日韓請求権協定で解決済み」としてたとえ最高裁で敗訴しても賠償に応じる必要はないとしているが、戦時中に日本企業が徴用を行ったのは約3千社・22万人に及び、同様の訴訟が続けば日韓関係が一段と悪化することは避けられない。

 どんでん返しがあるとすれば、韓国の最高権力者である朴槿恵(パク・クネ)大統領が最高裁の判決を棄却することだが、国内の経済の不振に対する国民の不満をそらすためか国内外で反日的な言動を繰り返している現状を見る限り、到底期待はできない。

 声明発表に韓国紙は「対韓投資を人質にとった」と反発したが、そのとおり。韓国第2位の貿易相手国は日本で、邦銀も韓国企業に多額の融資をしている。徴用工問題がこじれれば、韓国に対するカントリーリスクが増大するのは自明だ。日本の経済界トップ連名の異例の声明が韓国側に無言のプレッシャーを与えたのは想像に難くない。

 本人は否定するが、関係者によれば当初「矢面に立ちたくない」と声明の公表を渋った経団連に「経済団体が個別に発表していたのではインパクトがない。共同で堂々と会見すべきだ」と主張したのが三村氏だったという。

国益確保へ共闘呼び掛け

 三村氏は会頭就任前に「大企業と中小企業は相互に補完し合いながら所を得て力を発揮していくものだ。今日の日本経済の強さの源泉もそこにある。それは大小さまざまな石が組み合わさって数百年の風雪に耐えている石垣と似ている」と記された第13代日商会頭を務めた永野重雄氏の文章を一読した。

 新日鉄の大先輩で「財界四天王」と形容された人物の文章に触れた三村氏は、重厚長大型大企業の利益追求集団である経団連も、全国の中小・零細企業の代弁者である日商も、経営者個人で活動する経済同友会も「国益が一致する案件では経済3団体が一緒に動くべきだ」との思いを強くしたようだ。さっそく某コンサート会場で同席した経済同友会の長谷川閑史代表幹事には直接、「どうぞよろしく。できるだけ一緒にやりましょう」と呼びかけた。同友会事務局は大型台風で壊滅的な被害を受けたフィリピン・レイテ島に対する支援について「日商側から義援金や救援物資集めを共同で作業しましょうと申し出があり、急ピッチで準備を進めている」と話す。

 経済3団体はこれまでも安価で安定的な電力供給のための原発再稼働要望や、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加などで共闘戦線を張ってきたが、今後は三村日商会頭の音頭取りで、さまざまな場面で経済界が協力し合う事例が増えそうだ。そこでリーダーシップを取れるのは誰か。

 かつて同友会の副代表幹事や経団連の副会長を歴任した三村氏は日本の経済団体の裏表に精通しており、政府の審議会などを通じて霞が関とのパイプが太い。財界人による安倍晋三首相を囲む会にも顔を出し、官邸とも良好な関係を保っている。来年6月上旬に就任する経団連次期会長の人選次第では、三村日商会頭が「遅れてきた財界総理」として日本の経済界の意思統一に汗をかくことになりそうだ。

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