政治・経済

ヤフーが一休を完全子会社することを発表した。高級志向の一休を取り込むことで、ヤフーはホテル・飲食のネット予約の全てのセグメントを揃えることになる。一方で、森正文・一休社長は退任。その引き際は自身の美学と現在の事業環境を反映している。 文=本誌/村田晋一郎

 

ヤフーと一休の統合により森正文・一休社長はすべての役職を辞すことに

 

20160126YAHOO_P01

左から宮坂学・ヤフー社長、榊淳・一休副社長、森正文・一休社長

 ヤフーは、一休の株式を2月までに公開買い付け(TOB)で取得し、一休を100%子会社とすると発表した。

 一休は1998年創業で、主に高級ホテル・旅館および高級レストランのインターネット予約サービス「一休.com」を展開してきた。一方のヤフーでもホテルおよびレストランのインターネット予約を手掛けているが、顧客層に違いがある。ヤフーの場合、ホテル予約については、出張や日常の手軽な宿泊を求める顧客が中心となっている。また、飲食の予約については、比較的大人数で宴会などを楽しむ飲食店用サービスが中心となっている。

 「今回、ヤフーと一休が一緒になることによって、すべてのセグメントにおいて品揃えが充実する構えをつくることができる」と宮坂学・ヤフー社長は統合のメリットに期待する。

 統合のシナジーについては、圧倒的なユーザー認証数を誇るヤフーの強みを生かして、一休の顧客拡大につなげる。まず考えられるのは、マルチビッグデータを使った見込み客の抽出と送客だ。ヤフージャパンの顧客データから、一休.comを利用しているハイエンドの顧客と同じ消費行動をとる顧客層を抽出する。この層は、一休.comで飲食店やホテルの予約をすることが見込まれるため、ピンポイントで案内し、一休.comへ誘導していく。ヤフーは特別なサービスを提供するプレミアム会員を約1千万人抱えており、この層にも訴求していく。

 榊淳・一休副社長は次のように語る。

 「これまで一休は高級な商材・サービスを扱ってきた。今後は日本一のトラフィックホルダーであるヤフーと提携することで、高級で尖ったサービスが普段は両立しないスケールでも一緒に狙えることを期待している」

 統合後の展開はTOBの成立後になるが、一休.comのブランドは継続し、一休も子会社として存続する。役員人事の詳細もTOB成立後に決まるが、森正文・一休社長はすべての役職を辞し、新生・一休の会長には宮坂・ヤフー社長が、社長には榊・一休副社長が就任する。

 

一休森正文社長の「男の引き際」

 

 今回のTOBで驚くことは、一休の森社長がすべての役職を退くことだ。創業者で約41%の株式を有するが、2月10日付で社長を退任し、保有株式も売却。今後はヤフーならびに新生・一休の経営には一切かかわらない。

 森社長は次のように語る。

 「人にも時があるように会社にとっても時があります。私が経営を続けてもまだまだ伸びていく市場だとは思いますが、ヤフーという豊富な人材がいる会社で、なおかつ日本人の誰もが知っている最大のサイトの会社と組むことで、一休という私がつくった会社がさらに伸びていくと判断しました」

 一休は現在4期連続で増収増益を続けている。それだけに「今、なぜ」という疑問もある。

 今回ヤフー側も強調していたが、ホテルと飲食の2大事業のうち、飲食のインターネット予約は、市場が立ち上がり始めたところで、今後大きな成長が期待できるが、それだけに「パイの取り合いが始まっている」(森社長)という。一休でも市場拡大を見込んで、飲食予約部門への投資をしてきたが、事業スピードをさらに上げて成長の確度を高めるためにはヤフーと一緒に組んだほうが良いとの判断に至った。

 今回のTOBは、昨年夏に一休側から持ち掛けたもの。一方のヤフー側も今回の案件は2年前から検討していた。

 森社長はまだ53歳。その鮮やかすぎる引き際は、多くの創業者あるいは経営者と接する中でずっと考えてきたことだという。後を託すからにはスパッと消えるのが「男の引き際」であり、中途半端に顔を出すと残った社員にとっても、次を託された経営陣にとってもかえって迷惑だとの考えだ。

 自身の今後については、しばらく休んで考えるとしている。今回のTOBで買収額1千億円の4割、約400億円を手にすることになるが、事業については「2匹目のドジョウはない」として起業の考えはないようだ。また起業して十数年後に事業を売却するようなことはしたくないと、これまでの一休の事業への愛着もある。

 それよりは、世の中のサラリーマン社長がリタイアしてもできないこと、例えば若い経営者の支援など投資をはじめ、世のため人のためになることに挑戦していきたいという。森社長が退任後にどのような投資活動を行うかについて注目する向きもある。

 米国では特にシリコンバレーなどでベンチャーの創業者が成功した事業の売却で巨額の富を得ることが、現代の「アメリカンドリーム」となっている。そして経営を退いた元創業者が投資家になったり、慈善事業への寄付を行ったり社会貢献をしている。今回の森社長の発想は米国のベンチャー創業者に近い。

 ただし、日本の場合は寄付行為にも税金がかかるなど、米国のようにはいかない部分があるという。今回の一休のような事例が日本でも多く出てくることが、日本のベンチャーの活性化、ひいては社会の活性化につながるのではないだろうか。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年5月号
[特集]
進化するチーム

  • ・総論 姿を変える日本の組織 個人とチームが互いに磨き合う時代へ
  • ・小笹芳央(リンクアンドモチベーション会長)
  • ・稲垣裕介(ユーザベース社長)
  • ・山田 理(サイボウズ副社長)
  • ・鈴木 良(オズビジョン社長)

[Special Interview]

 南場智子(ディー・エヌ・エー会長)

 「社会変革の今こそ、組織を開き、挑戦を加速する」

[NEWS REPORT]

◆社長になれなかった松下家3代目がパナソニック取締役を去る日

◆DeNAとSOMPOが提案する新たなクルマの使い方

◆ここまできたがん治療 日の丸製薬かく戦えり

◆ブレグジット目前!自動車各社は英国とどう向き合うか

[特集2]九州から未来へ

 九州一丸の取り組みで生まれる新しい産業

ページ上部へ戻る