政治・経済

ヤフーが一休を完全子会社することを発表した。高級志向の一休を取り込むことで、ヤフーはホテル・飲食のネット予約の全てのセグメントを揃えることになる。一方で、森正文・一休社長は退任。その引き際は自身の美学と現在の事業環境を反映している。 文=本誌/村田晋一郎

 

ヤフーと一休の統合により森正文・一休社長はすべての役職を辞すことに

 

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左から宮坂学・ヤフー社長、榊淳・一休副社長、森正文・一休社長

 ヤフーは、一休の株式を2月までに公開買い付け(TOB)で取得し、一休を100%子会社とすると発表した。

 一休は1998年創業で、主に高級ホテル・旅館および高級レストランのインターネット予約サービス「一休.com」を展開してきた。一方のヤフーでもホテルおよびレストランのインターネット予約を手掛けているが、顧客層に違いがある。ヤフーの場合、ホテル予約については、出張や日常の手軽な宿泊を求める顧客が中心となっている。また、飲食の予約については、比較的大人数で宴会などを楽しむ飲食店用サービスが中心となっている。

 「今回、ヤフーと一休が一緒になることによって、すべてのセグメントにおいて品揃えが充実する構えをつくることができる」と宮坂学・ヤフー社長は統合のメリットに期待する。

 統合のシナジーについては、圧倒的なユーザー認証数を誇るヤフーの強みを生かして、一休の顧客拡大につなげる。まず考えられるのは、マルチビッグデータを使った見込み客の抽出と送客だ。ヤフージャパンの顧客データから、一休.comを利用しているハイエンドの顧客と同じ消費行動をとる顧客層を抽出する。この層は、一休.comで飲食店やホテルの予約をすることが見込まれるため、ピンポイントで案内し、一休.comへ誘導していく。ヤフーは特別なサービスを提供するプレミアム会員を約1千万人抱えており、この層にも訴求していく。

 榊淳・一休副社長は次のように語る。

 「これまで一休は高級な商材・サービスを扱ってきた。今後は日本一のトラフィックホルダーであるヤフーと提携することで、高級で尖ったサービスが普段は両立しないスケールでも一緒に狙えることを期待している」

 統合後の展開はTOBの成立後になるが、一休.comのブランドは継続し、一休も子会社として存続する。役員人事の詳細もTOB成立後に決まるが、森正文・一休社長はすべての役職を辞し、新生・一休の会長には宮坂・ヤフー社長が、社長には榊・一休副社長が就任する。

 

一休森正文社長の「男の引き際」

 

 今回のTOBで驚くことは、一休の森社長がすべての役職を退くことだ。創業者で約41%の株式を有するが、2月10日付で社長を退任し、保有株式も売却。今後はヤフーならびに新生・一休の経営には一切かかわらない。

 森社長は次のように語る。

 「人にも時があるように会社にとっても時があります。私が経営を続けてもまだまだ伸びていく市場だとは思いますが、ヤフーという豊富な人材がいる会社で、なおかつ日本人の誰もが知っている最大のサイトの会社と組むことで、一休という私がつくった会社がさらに伸びていくと判断しました」

 一休は現在4期連続で増収増益を続けている。それだけに「今、なぜ」という疑問もある。

 今回ヤフー側も強調していたが、ホテルと飲食の2大事業のうち、飲食のインターネット予約は、市場が立ち上がり始めたところで、今後大きな成長が期待できるが、それだけに「パイの取り合いが始まっている」(森社長)という。一休でも市場拡大を見込んで、飲食予約部門への投資をしてきたが、事業スピードをさらに上げて成長の確度を高めるためにはヤフーと一緒に組んだほうが良いとの判断に至った。

 今回のTOBは、昨年夏に一休側から持ち掛けたもの。一方のヤフー側も今回の案件は2年前から検討していた。

 森社長はまだ53歳。その鮮やかすぎる引き際は、多くの創業者あるいは経営者と接する中でずっと考えてきたことだという。後を託すからにはスパッと消えるのが「男の引き際」であり、中途半端に顔を出すと残った社員にとっても、次を託された経営陣にとってもかえって迷惑だとの考えだ。

 自身の今後については、しばらく休んで考えるとしている。今回のTOBで買収額1千億円の4割、約400億円を手にすることになるが、事業については「2匹目のドジョウはない」として起業の考えはないようだ。また起業して十数年後に事業を売却するようなことはしたくないと、これまでの一休の事業への愛着もある。

 それよりは、世の中のサラリーマン社長がリタイアしてもできないこと、例えば若い経営者の支援など投資をはじめ、世のため人のためになることに挑戦していきたいという。森社長が退任後にどのような投資活動を行うかについて注目する向きもある。

 米国では特にシリコンバレーなどでベンチャーの創業者が成功した事業の売却で巨額の富を得ることが、現代の「アメリカンドリーム」となっている。そして経営を退いた元創業者が投資家になったり、慈善事業への寄付を行ったり社会貢献をしている。今回の森社長の発想は米国のベンチャー創業者に近い。

 ただし、日本の場合は寄付行為にも税金がかかるなど、米国のようにはいかない部分があるという。今回の一休のような事例が日本でも多く出てくることが、日本のベンチャーの活性化、ひいては社会の活性化につながるのではないだろうか。

 
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