政治・経済

「緩(ゆる)いマスコットキャラクター」、ゆるキャラがブームだ。地方自治体のイメージキャラクターとして着ぐるみ姿でイベントなどに登場し特産品などの販売促進に一役買っている。だが、本当に地域活性化に役立っているのか。 文=ジャーナリスト/梨元勇俊

“ゆるキャラブーム”県内総生産の1%以上を「くまモン」が稼ぐ

 「ゆるキャラグランプリ2015」の決戦投票が昨年11月、静岡県浜松市で開かれた。グランプリを獲得したのは、地元・浜松市の「出世大名家康くん」。浜松で過ごした17年間を足掛かりに出世した徳川家康の生まれ変わりという設定で、ウナギのちょんまげがトレードマークだ。

 2000年代のはじめごろから登場した「ゆるキャラ」はマスコミの話題を集め、次第に全国に広がった。10年に奈良県で開催された平城遷都1300年記念事業(平城遷都1300年祭)の公式マスコットキャラクターを務めた、「せんとくん」が11年から奈良県のマスコットキャラクターに昇格したように、今では多くの都道府県が「ご当地キャラ」を導入している。

 全国のゆるキャラが人気を競う「ゆるキャラグランプリ」も今回は過去最多の1727体がエントリーした。応募しなかったキャラクターも含めると、ゆるキャラの総数は全国で2千体を超すとみられる。

 中でも、今日のブームの立役者は熊本県の「くまモン」だろう。11年3月の九州新幹線の全線開業を機に誕生した熊本県の地域キャラクターで、丸みのある黒い胴体に赤いほっペの熊のキャラクラターで、前述のゆるキャライベントでも11年のグランプリを獲得している。

 「くまモン」の肩書は「熊本県営業部長兼しあわせ部長」。日本のみならず中国や韓国などでも商標登録をしており、熊本県内の企業や団体による農林水産品などへの利用を無償で許可している。そのため、熊本空港(愛称・阿蘇くまもと空港)の出発フロアの土産物店に置いてある菓子や特産品には、ほとんどすべてに「くまモン」のイラストが付いている。

 「くまモン」の知名度アップとリンクして熊本への観光客が増え、地元の食材や特産品の売り上げが増加した。日本銀行熊本支店によれば、その経済効果は11年11月から13年10月までの2年間で1244億円。1年間に換算すると約622億円で、11年度の熊本県の県内総生産5兆6119億円の1%以上を「くまモン」が担った計算だ。

 その後も「くまモン」の経済効果は伸び続けているので地元経済への寄与度はもっと上がっているだろう。同様に滋賀県彦根市の「ひこにゃん」、千葉県船橋市の「ふなっしー」なども全国区の人気を得て大きな経済効果を上げている。

ゆるキャラブームのまやかしに莫大な経費を使っている場合ではない

 一方で、知名度が低迷したまま「引退」を余儀なくされるキャラクターも少なくない。冒頭の「出世大名家康くん」の誕生で、07年から浜松市のマスコットキャラクターを務めていた赤塚不二夫の漫画を土台にした「ウナギイヌ」は12年度末でキャラクターの契約を終了した。岐阜県岐阜市の柳ケ瀬商店街の非公式キャラクターとして08年にデビューした「やなな」も、商店街のアーケードを模した段ボール箱を頭からかぶるだけという簡便さが人気を集めていたが13年度末で活動を終えた。

 言い換えれば、ヒットするゆるキャラは全体のごく一部にすぎない。ゆるキャラの多くはパッケージにキャラクターをつけるなど既存商品のデザインを変えるだけに使われている。事業者はキャラクターを付けて商品を売ればいいだけなので簡単に便乗できるが、製品の技術やサービスなど商品そのもののバージョンアップで売れているわけではないので、飽きられればそこで終わりだ。

 ゆるキャラの開発は簡単にはできない。商店街の有志が1万円で生み出したという前述の「やなな」のように安価なケースもあるが、知名度を上げるには著名なデザイナーにアイデアを出してもらい、キャラクターの形が定まれば、それなりのPR活動も必要だ。デザイン料や広告・宣伝費で数億円規模の費用がかかった事例もある。

 少子高齢化や過疎化で自治体の収入が上向かず、歳出だけが増加し、地方自治体の財政は「火の車」だ。日本には都道府県、市町村あわせて地方公共団体が約3300あるが、多くは1990年代後半から、財政状況が悪化し、地方財政全体での借入金も増大し危機的な状況にある。法人2税(法人事業税と法人住民税)を中心とする税収は低迷し、歳入が落ち込む一方で、90年代に国が積極的に行った数次にわたる公共事業の追加による景気対策に地方公共団体が応じたために歳出が増加。地方債の増発や積立金(地方債の返済など将来の財政需要に備えるために積み立てている資金)の取崩しなどで財政運営を続けている。

 教育、福祉・衛生、警察・消防など国民の日々のくらしに不可欠なさまざまな行政サービスの見直しが必要な自治体も少なくない。ゆるキャラの知名度を上げるため広告代理店や民間企業に莫大な経費を使っている場合ではないという指摘もある。

 日本経済のテコ入れのために安倍晋三政権は地域の活性化が不可欠として「地方創生」をうたっているが、地方自治体はてっとり早い地域活性化策として税金をつぎ込んで「ゆるキャラ」開発に熱中しているのが現状だ。ゆるキャラブームに便乗するだけでは今年も地方創生はおぼつかないだろう。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る