政治・経済

絶対に譲れなかった公明党の事情

 消費税10%引き上げに伴う「軽減税率」の問題で激しく対立した自民党と公明党。自民党は「うちがかなり譲歩した」(党税調幹部)と話すが、公明党にしてみれば「冗談じゃない。うちが折れた」(公明党幹部)と反論する。

 公明党にとって、この「軽減税率」は絶対に譲れないウラ事情があった。

 消費税率10%への引き上げは2017年4月に予定されているが、低所得者への負担が大きいため、生活必需品などについては除外して税率を下げるというのが「軽減税率」。公明党は「生活者の党」が看板だ。一貫して生鮮食料品や加工品など幅広く対象にすべきだと主張。自民党は税収減を招くから適用を最小限にとどめるべきだという考え。また、最後は税収減の額をめぐる攻防に論点が移った。公明党案で行くと税収減は1兆3千億円。これに対し自民党は対象は生鮮食料品のみで税収減を4千億円に抑えればそれを補充する財源の確保も可能と主張した。

 公明党は一歩も引かなかった。幹部や党税調関係者は自民党幹部らに「16年の参院選は選挙協力しない」とまで口にして脅した。そこまで「軽減税率」についてこだわる背景には「3年越しの怨讐がある」と別の公明党幹部が解説する。

 「3年前というのは民主党政権の末期。民自公の3党で税と社会保障の一体改革に合意して『話し合い解散』に向けて環境整備することになったが、このとき創価学会員など支援者への説得は大変だった。議員が手分けして全国を回り、解散のために仕方ない、そして必ず『軽減税率』をやると約束して納得してもらった。『軽減税率』は支援者との固い約束になった」

 また、政権復帰後も譲歩ばかりだったという背景もある。

 「14年7月の集団的自衛権の閣議決定、そして15年9月の安保法制は、『平和の党』として苦渋だった。これも消費税のときと同じように地方議員まで総動員して支援者のところを説明して回りましたが年配の方々の反発はすごかった。『この調子じゃ軽減税率も言いなりか』と。私は『軽減税率は絶対やる』と断言しました」(公明党中堅議員)

 前出幹部は、「『生活者の党』『平和の党』という看板を安倍首相に譲ってばかり。ここで『軽減税率』もやれなかったら支援者が見放す」と話した。

 これに対して、安倍首相は早い段階から、「軽減税率」と「公明党に譲る」という政治決断をしていたようだ。

 まずは15年6月。自公担当幹部と財務省などが「一旦すべての品目で消費税を徴収した後、一定額だけ還付する方式」を安倍首相に報告したが、このとき首相が真っ先に聞いたのが、「公明党はそれでいいと言ってるの?」だったという。

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イラスト/のり

 また、内閣改造前日の10月6日。安倍首相はある公明党幹部に「軽減税率はやります」と断言。さらに11月初旬。安倍首相は公明党幹部に密かに「13日から外遊なので12日に谷垣幹事長に軽減税率をまとめるように言う」と伝えてきた。11月27日には、約40分に渡って首相と太田昭宏前国交大臣が会談。「実は太田さんは安倍首相にとって公明党では本音で話ができる数少ない議員。ここで、方向性や落としどころが話し合われたと見ていい」(首相周辺)。

 そして、この会談のあと、税収減の猶予を「8千億~1兆円程度」まで広げると官邸などからメディアにリークされ、この数字は「首相・太田会談」の意向を汲んで菅義偉官房長官が財務省にも睨みを利かしながら出したとも言われている。

深い議論は行われず政局の駆け引きに

 このように見ていくと、公明党の「選挙協力をちらつかせてまで譲れない事情」が押し切り、首相も「安保法制での借り」を返し、「参院選を見据えて戦略上公明党に花を持たせるのがベスト」と判断した構図と言える。

 だが、最後は税収減がいくらになるかという目先の金額に議論が矮小化され、本来「軽減税率」とはどんな考え方で、何を適用すべきかという国民を巻き込んだ議論が足りなかった。

 今後も社会保障費を消費税でまかなうとすれば税率は上がっていく。将来は少子高齢化が進み生活様式も価値観もすべて変わってくる。向こう10年で日本社会は変わる。

 そうした中で、軽減税率の対象が食品関係だけでいいわけがない。例えば少子高齢化に伴って必要な生活用品も出てくるだろう。一人暮らしのお年寄りは劇的に増え外食も増えるとみられるが、外食は加えなくていいのか。10年先の社会を見据えた、もっと深い議論が与党の使命だったのではないか。「軽減税率」が単なる政党支持のための道具や、政局の駆け引きに扱われてしまったのではないか。

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