政治・経済

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が、三井住友信託銀行を傘下に収める案が浮上している。SMFGは、苦戦する信託事業の強化を目的に動いているというが、さまざまな事情で難航も予想される。果たして、実現の可能性は? 文=ジャーナリスト/高田 宏

三井住友銀行が目論む起死回生の一手

 三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループに比べ、信託銀行分野で見劣りする3メガの一角を占めるSMFG。そのSMFGが三井住友信託銀行を傘下に収める案が浮上している。ただ、傘下入りの条件のハードルが高いもようで、難航するとの見方も根強い。

 他行の大手信託銀行がいずれもメガ金融グループの傘下に入っているのに対し、独立系を貫くのが三井住友信託銀行だ。

 昨年、米シティグループのカード事業を三井住友信託銀行が400億円、個人向け事業を三井住友銀行(SMBC)が450億円をかけてそれぞれ買収したことで、三井住友信託銀行は、3メガ金融グループとは異なる形での成長モデルを描くことを鮮明にした。

 常陰均・三井住友信託銀行社長は、シティの日本のカード事業の買収について、「プライベートバンク事業のシナジーが期待できる」と期待を掛けている。しかも、「ダイナース」という独自ブランドを日本で単独で手掛けられることで、ブランドイメージの向上にもつながるとして、富裕層の取り込みをより強めていく考えだ。

 一方の三井住友フィナンシャルグループも、グループ内に信託部門を持たなかったが、ソシエテジェネラル信託銀行を買収し、SMFGにおける信託銀行として、2013年にSMBC信託銀行を発足。シティグループの個人向け事業の買収にも乗り出した上、「SMBCとSMBC信託が相互の顧客を紹介する取り組みを始めた」(宮田孝一・SMFG社長)など、信託機能の強化に乗り出している。

 一見、袂を分かったかに見えたSMFGと三井住友信託銀行だが、三井住友信託銀行(総資産は42兆円)、みずほ信託銀(同6兆円)、三菱UFJ信託銀行(同38兆円)に比べ、傘下のSMBC信託銀の総資産が2.66兆円と見劣りするSMFGにとっては、依然として信託事業の拡大は課題だ。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループが傘下の銀行、信託、証券の連携で事業拡大に乗り出す中、SMFGは銀行、証券の連携にとどまるなど、出遅れに危機感が強い。

 こうした中で最近、國部毅・SMBC頭取が、常陰社長に急接近。統合を持ちかけているとの観測が出ている。日本郵政傘下の日本郵便とも、通信販売事業者向けの決済サービスで提携したほか、日本郵政の株式上場時に株主名簿の作成などを請け負う証券代行業務を受託、地銀との連携にも乗り出すなど業容拡大ができている三井住友信託銀の取り込みは、悲願のメガ首位を狙うSMFGにとっては、うってつけだからだ。

 これは、「國部頭取が就任以来、さしたる実績もないことに業を煮やす奥正之・SMFG会長への満額回答」(大手銀関係者)と囁かれている。しかも、足元では4割を出資するインドネシアの商業銀行バンク・タブンガン・ペンシウナン・ナショナル(BTPN、ジャカルタ)が業績悪化に苦しんでいる上、株価下落で550億円にものぼる株減損処理を行った。これで、「万年3位」などと小馬鹿にしてきたみずほフィナンシャルとの収益格差が縮まってしまった。

 國部頭取にとっては、みずほ銀行の足音が迫る中、奥会長を黙らせる起死回生の一手こそが、三井住友信託銀の取り込みというわけだ。

切り札となる仰天人事と従来の構図を崩す「禁断の果実」

 とはいえ、この話は一筋縄ではいかない。SMFGと三井住友信託銀の関係は「近親憎悪」とまで言われており、いまさら一気に修復されるような秘策があるわけでもないからだ。ここで、奥の手とされているのが、三井住友フィナンシャルグループ会長に常陰氏を充てるという密約が出ているという説だ。常陰氏、國部氏のどちらが、会長職を要求・提案したかは不明だが、「常陰氏は、メガの会長になることに色気を出しているのは間違いない。ただ、常陰氏が良くても、ほかの行員は子会社になることに抵抗がある」(大手信託関係者)。また、「信託業界のドン」の三井住友信託銀の元社長(現・相談役)の高橋温氏を説得できるかといった問題も残る。独立系として生き残る礎を作っただけに、「今さら、SMFGとの統合を許すわけがない」(三井住友信託関係者)。囁かれるのが、ゆうちょ銀の社長もしくは会長に高橋氏を就任させ、三井住友信託銀への関与が薄くなった後に統合するという案だ。

 課題はこれにとどまらない。これまで旧住友が要職を牛耳り、お飾り的な役職に旧三井の人間をあてがうという人事が慣例となってきたが、これが崩れることも問題だ。仮に常陰氏が会長に就けば、旧三井からの反発は必至で、これを機に、逆に現状の処遇に不満な旧三井が、三井住友信託と結託すれば、旧住友の実行支配の構図は崩れかねない。いわば、「禁断の果実」とも言える三井住友信託の取り込み策。國部頭取がこの果実を手に取った場合、三井住友フィナンシャルグループは、思いどおりの成長が描けるのだろうか。両行関係者からは、「得をするのは、メガ会長で晩年を全うできる常陰氏だけ」と苦笑が漏れる。

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