政治・経済

電力自由化で新電力と呼ばれる新規事業者の動きが活発化している。発電から消費まで電力の流通プロセスにおけるエネルギー情報を管理・提供し、新電力の支援を中心とした事業を展開しているのがエナリスだ。また、同社は関係会社で新電力の事業も行っている。電力自由化と今後の展望について、同社社長の村上憲郎氏に聞いた。 聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=幸田 森

日本において新しい電力システムをつくる

―― 村上さんはグーグルというグローバルなIT企業で経営をやられていたイメージが強いですが、今なぜ、日本の電力市場でエネルギービジネスをやっているのでしょうか。

村上 私は2008年に大病を患い、その年限りでグーグルの米国の副社長と日本の社長を退任することになりました。ところがお陰さまで徐々に回復し、09年からグーグル日本法人の名誉会長として残ることになりました。その時にグーグルCEOのエリック・シュミットから言われたのが、スマートグリッドを日本において広めておいてほしいということでした。米国ではオバマ政権が誕生し、グリーンニューディール政策の柱のひとつとしてスマートグリッドを打ち出していました。それで経済産業省などに働きかけていきました。その後、スマートコミュニティアライアンスが発足するなど、日本でもスマートグリッドを進める方向性が打ち出されたので、10年末でグーグルを辞めさせていただきました。

 ところが「3・11」が起こってしまいました。その時の計画停電で分かったのは、スマートコミュニティができていないということでした。経産省の商務情報政策局から、11年の夏は強制節電で乗り切るが、何か別のやり方はないかと相談を受けました。それで私が米国の知人に聞いたところ、「デマンドレスポンス」や「ネガワット発電」という方法があり、既に実施済みだと。一方で資源エネルギー庁は、日本にそういうことができる会社がないのか探していて、エナリスを見つけました。私自身も日本で新しい電力システムをつくりたいという思いがあり、エナリスの方々と同志的な連帯が始まりました。その後、12年10月に社外取締役に就任しました。

 ところがそのエナリスで14年末に不適切な会計処理が発覚し、社長以下経営陣の大半が引責辞任する事態となりました。そして第三者調査委員会から、「ほかに代表取締役をやれる人がいないので、引き受けてください」と要請があり、14年12月に社長に就任しました。

村上憲郎 プロフィール

(むらかみ・のりお)1947年生まれ、大分県佐伯市出身。70年京都大学工学部卒業、日立電子入社。インフォミックス、ノーテルネットワークスなどを経て、2003年グーグル代表取締役社長兼米国本社副社長として入社、日本におけるグーグル全業務の責任者を務める。09年同名誉会長。11年村上憲雄事務所代表、12年エナリス社外取締役、14年12月エナリス代表取締役社長に就任。

―― 突然、後を託されたわけですね。

村上 エナリスをお預かりして丸1年、お陰さまで不祥事を起こした会社にもかかわらず、昨年11月26日にエネルギー問題を議論する官民対話に呼ばれました。そこで私の要望から、17年を目指してネガワット取引市場の創設に取り組むことを約束していただきました。

 デマンドレスポンスというやり方やネガワット発電というコンセプトがあることを国に伝えて、エナリスがそれをできる会社だということを国に認めていただいてから数年たちましたが、引き続き、その方向を進めていきたいと思います。

 今回の電力システム改革では、4月1日に8兆円市場が開くことばかりに話題が集中していますが、電力システムが全く新しいシステムに変わること、いわゆるスマートなエネルギー社会に変わることのほうがずっと重要だと思います。

―― 電力自由化は、その先まで考える必要があると。

村上 そうです。現在われわれが提案しているのは蓄電池の普及です。国は今回の電力システム改革を電電公社の民営化をなぞるかたちで考えている節があります。1986年の電電公社民営化からちょうど30年ですが、2つの大きなことが起こりました。ひとつは携帯電話で、もうひとつはインターネットです。電力システム改革で、携帯電話に相当するのが蓄電池であり、インターネットに相当するのはインターネット・オブ・シングス(IoT)です。

 電気エネルギーは本当に便利なエネルギーですが、発電したらすぐに使わなければいけない。それが貯めることができたら、もっと使いやすくなり、いろんな可能性が広がります。蓄電池をインターネットで制御する中から、スマートグリッドが成立し、それがIoTにつながってくる。最初に制御されるのは蓄電池であることを考えて電力システム改革を見ていかなければならないと思います。

スマートハウスからIoTが始まる

―― 電力自由化で貴社のビジネスへの影響は。

村上 発電に関しては、PPSと言われる特定規模電気事業者が800社くらい登録されました。当社の事業はもともとPPSの事業を代行する事業ですので、現在の状況は大歓迎です。

 小売りについても子会社で小売業の申請をしています。当社は高圧の部分でビジネスユースの顧客に対して部分供給制度を用いた代理購入サービスを提供しています。低圧の部分については、高圧のユーザーから低圧を使う小規模の店舗に対して引き続きサポートしてくださいという話をいただいているので、低圧にも展開していきます。低圧の最大数の顧客は一般家庭ですから、ここをどの程度われわれが直接やるかは経営判断がいるところですので、体制も含めて今後検討していきます。

  電力産業自体は成熟した産業で、そんなに利幅のある産業ではありません。高圧と低圧を合わせて18兆円ですが、これが増えるという話ではないです。

 結局、エナリスに期待されているのは、「エネルギー情報業」です。エネルギー情報業とは、電力が流通するプロセスにおけるエネルギー情報を管理・提供することです。そのエネルギー情報業の中で、新しいサービスやビジネスを目指していきたいと思っています。

―― エネルギー情報業で今後重要になることは。

村上憲郎 サブ村上 IoTはまず電力システムの改革の中で育まれる、中でも蓄電池のコントロールから始まるということです。当然ながらそれは家、スマートハウスから始まります。

  そういった分野で知見を育み伝えるとしたら、日本の電力システム改革は非常に良いチャンスだと思います。

 スマートグリッドを実現するのは蓄電池の制御も含めたIoTですが、IoTの時代も残念ながらアップル、グーグル、テスラをはじめ米国勢が押し寄せてくるわけです。それに負けない日本の体制をつくる必要があることを官民対話で安倍総理に申し上げました。そして、われわれはスマートグリッドの上に成立するIoTでキープレーヤーになりたいと思います。

IoTの先行体験を求め事業参入が相次ぐ

―― 今後の課題は。

村上 蓄電池の制御はIoTの走りになります。今までのインターネットの応答速度は10分の1秒ぐらいでした。しかしIoTで細かく制御するとなると、1千分の1秒単位での応答が求められるため、通信規格の整備が必要になります。

―― 通信規格整備の展望は。

村上 日本のスマートハウスのコントロールプロトコルとして「ECHONET Lite」がありますが、賄いきれない領域に対しては、ECHONET Liteの機能を拡張するか、フィールドパスと呼ばれる新しい基準を加えることになります。このフィールドパスはIoTのフィールドパスであり、今後はドイツのインダストリー4・0や米国のインダストリーインターネットからも提案が出てくるので、日本がどういう提案をしていくかが鍵になります。電力システム改革はそれだけの広がりを持っているのです。

 800社も事業登録したのは、電力システム改革に参画しているとIoTの最初の体験ができるかもしれないという期待だと思います。本業がある一方で、8兆円の市場が開くから参入するという思いもあると思いますが、それ以上にこの電力システム改革はIoT時代を先に体験できる練習場だということを理解し、IoT時代の本業に対する影響を先行的に学ぶ場所と考えて、電力システムに参入されているのだと思います。

 

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