文化・ライフ

全国高校サッカー選手権でトリックプレーが炸裂

 17大会ぶり3度目の優勝を決定付けたのは、後半2分のトリックプレーだった。全国高校サッカー選手権でのひとコマである。

 東福岡(福岡)が1対0のリードで迎えた後半2分、ゴール正面やや右寄りの直接フリーキック。距離にして20メートルちょっと。

 東福岡のMF中村健人がボールをセットすると、国学院久我山(東京A)の“壁”の前で、スクラムを組むラグビーのフロントローのように肩を組んだMF鍬先祐矢、DF織田逸稀、DF児玉慎太郎の3人が1歩、2歩、3歩と大またで後ずさりを始めたのだ。

 中村が助走から右足を振り抜いた瞬間、3人はスッと身をかがめた。その上を低い弾道のボールが通過し、そのままゴール左隅に吸い込まれていった。視界を遮られた国学院久我山のGK平田周の反応が遅れたのは言うまでもない。

 このゴールで勢いに乗った東福岡は、5対0の大差で国学院久我山を退けた。

 「一番大きかったのは2失点目が早かったこと。後半の立ち上がりに、自分たちのミスからファールを犯して、素晴らしいキックでFKを決められてしまった。自分たちが攻撃に転じようとしていたところでの失点だった……」

 実はこのトリックプレーには伏線がある。それは昨夏のインターハイ準決勝に遡る。

 試合こそ東福岡が5対2で圧勝したが、敗れた立正大淞南(島根)が、このトリックプレーを披露したのだ。

 中村は語っている。

 「立正大淞南はトリックプレーが有名なので、自分たちは警戒していた。にもかかわらず、僕たちは読めなかった。気が付いたら、ボールがポストの横を通過していました。あれを真似しようと……」

 つまり立正大淞南こそはトリックプレーの“家元”なのである。

 そもそも、なぜトリックプレーなのか。同校の監督・南健司は自らが出演するDVDで、こう述べている。

 「世界的に守備が強固になっている関係でセットプレーの重要性は非常に大きなポイントになってきているのが、現代のサッカー。

 本校が使うセットプレーは身長が高い低い、足が速い遅いに関係なく、あと年齢的にも小学生、中学生、高校、社会人、どのカテゴリーでも使えるものだと思います」

 立正大淞南は7年前の高校サッカー選手権でトリックプレーを披露して話題になった。

 桐光学園(神奈川)との1回戦。立正大淞南はゴール前でFKを獲得した。

 相手6選手がつくる壁の前で立正大淞南の5選手が立てひざをつくように構えた。

 身をかがめ、シュートが頭上を通過するのを待つ。MF川添賢太という選手が蹴ったボールはゴール左隅へ。視界を遮られた相手のGKは為す術もなかった。

セットプレーはワールドカップでも重要な武器に

 立正大淞南のトリックプレーはこれだけにとどまらなかった。

 後半6分には、右CKをグラウンダーでゴール方向に向かってリスタートさせた。

 そのボールを同校の選手が1人、2人とスルーすると、ペナルティーアーク付近でボールを受けた川添が右足で合わせた。グラウンダーのシュートがこぼれたところを味方が押し込み、貴重な追加点をあげた。

 結局、この試合、2つのトリックプレーを成功させた立正大淞南が優勝候補の桐光学園を破ったのは記憶に新しい。

 話を今大会を制した東福岡に戻そう。同校は選手権前から、この手のトリックプレーを練習していたという。

 しかし、決勝まで披露することはなかった。いざという時のために封印していたのだろう。

 再び中村のコメントを引く。

 「芝に慣れていなかったため蹴り方を変えたんです。ボールの横から入っていた助走を縦から入って、“なるべく浮かさないように抑えて”という気持ちで蹴りました。ふかさずに低い弾道で決めることが決めることができた。自分が考えていたとおりのシュートでした」

 サッカーにおける最高にして最大の大会であるワールドカップにおいても、セットプレーは点を取る重要な武器だ。

 セットプレーによる得点は2006年ドイツ大会が33.3%、10年南アフリカ大会が24.1%、14年ブラジル大会が22.2%ーー。

 06年を最後に比率は下がっているが、それでも得点の2割以上がセットプレーから生まれている。

 先のトリックプレーを代表レベルの試合でも通用するようブラッシュアップできないものか……。ふと、そんな思いが頭をよぎった。(文中敬称略)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

“ティア1”の強豪を相手に日本ラグビーは白星を挙げられるか

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

ハリルジャパンは「弱者の戦術」でどこまでブラッシュアップできるか

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

総天然芝のグラウンドと球場充足率が広島カープ強さの根源

二宮清純のスポーツインサイドアウト

国際サッカー評議会が試合時間60分制に改正の動き

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

最高の形でシーズンを終了したBリーグにさらなる飛躍の予感

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第19回)

壮大な目標を立てると努力しない人材になる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

CEOのゴルフ

一覧へ
eyecatch_CEOgolf_new

[連載] CEOのゴルフ(第19回)

腰と肩を同じように回すから飛距離が出ない

[連載] CEOのゴルフ(第18回)

右足の力で飛ばすには左股関節の「受け」が必要

[連載] CEOのゴルフ(第17回)

直線的に振り下ろす感覚がスライスの原因

[連載] CEOのゴルフ(第16回)

切り返しで下へ力を加えることが飛距離の源泉

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る