経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

鴻海がシャープ買収に名乗りを上げた理由

 2016年2月4日、経営難に陥っているシャープの高橋興三社長は決算発表の席で、シャープがわが国の産業革新機構ではなく、台湾企業大手の鴻海精密工業(アップルをはじめ電子機器受託生産会社)に資金援助を受ける公算が大きいことを示唆した。

 鴻海の郭台銘会長(外省人。12年の総統選挙の際には、馬英九支持を表明)はシャープへの資金援助を行う構えを見せている。鴻海によるシャープ支援の話はたびたび持ち上がったが、鴻海とシャープの間でなかなか条件が折り合わず、ここ数年、交渉は難航していた。

 一方、産業革新機構が3000億円の融資でシャープを買収する話がまとまりかけていた。ところが、最近になり、再び鴻海がシャープ買収に名乗りを上げている。

 翌2月5日、郭台銘は大阪のシャープ本社を電撃訪問した。そして、当日、8時間後に再び姿を現した郭会長は、シャープから「優先交渉権」を得たと発表。だが、シャープ側は、その事実を否定している。郭台銘によれば、2月29日、シャープと正式契約を結ぶという。ただ、現時点では、どう転ぶかわからない。

 おそらく、鴻海としては、まず、シャープの液晶技術(特にIGZO=人の手によって創り出された透明な酸化物半導体。In<インジウム>、Ga<ガリウム>、Zn<亜鉛>、O<酸素>により構成される)が欲しいのではないだろうか。

 鴻海はシャープ独自の創造性を高く評価している。鴻海はEMSとしては世界的企業だが、自社独自のブランド開発力は弱い。そこで、同社はシャープに対し7000億円もの巨額融資を行うと申し出たとみられる。

 鴻海側は①シャープのブランド名を残す、②経営陣もそのまま手をつけない、③従業員の雇用を守る、④事業の一部を切り売りしない、など破格の条件を出したと言われている。

 シャープのメーンバンク(みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行)としては、産業革新機構が同社を支援する場合、約2000億円の負債を放棄させられるハメに陥る。ところが、鴻海はそのシャープの銀行負債さえ支払うとも伝えられている。もし、これが事実だとすれば、日本の銀行団やシャープの経営陣にとっては、願ったり叶ったりである。

鴻海の郭台銘は中国からの撤退をもくろんでいる?

 だが、問題もある。まず、日本の高度な技術が、海外流出する可能性は否定できない。特に、郭台銘は中国大陸へ進出し、共産党との関係も深い。鴻海を通じて、日本の技術が中国企業へ流出しないとも限らないだろう。

 ただし一方では、仮にシャープが倒産、あるいは同社が多くの人材を大量リストラした場合、その技術者が外国企業に移り、その結果、技術が中国等へ流出するおそれもある。

 また、今のシャープの経営陣がそのまま居残ったとして、本当に経営状況が好転するのだろうか。本来ならば、経営陣を一掃して、新しい経営スタッフでやり直した方が良いのではないか。そうしないと、同じ轍を踏むおそれがないとも言えない。

 私見だが、もしかして、郭台銘はシャープを買収し、徐々に中国大陸からの撤退を目論んでいるのかもしれない。

 周知の如く、海外の著名投資家、ジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットらは、すでに中国を見限っている。李嘉誠などは、香港からさえも資金を撤退している。

 実際、鴻海も中国での人件費高騰や中国経済の低迷で苦しんでいる可能性を排除できない(ちなみに、一時、同社は、労働条件が悪いせいか、自殺者が続出したことは有名でもある)。

 鴻海は中国大陸に多くの生産拠点を設けているが、今のところ、撤退するという噂は聞かない。たとえ、郭台銘がそれを望んでいても、共産党が容易には許さないだろう。

 同社はインドやブラジルなど他の新興国でも事業を展開している。そこで、鴻海は今回のシャープ買収で、中国以外での新たな生産拠点を模索しているのかもしれない。

 最後に、余談だが、郭台銘に関して忘れられない出来事がある。12年6月、突然、尖閣諸島を買うと言い出し、日本との“共同開発”に言及したのである。それは、まさに石原慎太郎都知事(当時)が、東京都が尖閣を栗原家から購入すると米国で公言した直後であった。

 郭台銘が尖閣諸島を買って、何をしようとしたのか、いまだ謎だ。ひょっとして、郭は尖閣を中国共産党に転売するつもりだったのだろうか。

 

筆者の記事一覧はこちら

【シャープ】関連記事一覧はこちら

【国際】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る