政治・経済

コンビニエンスストア(CVS)のローソンが、従来型の小売業を進化させることにより、現代社会の要請でもある、健康で長寿な暮らしのサポートを可能にする店舗に生まれ変わろうとしている。同社が変革を意識した背景と施策を検証する。 文=本誌/大和賢治

ローソンの戦略① コーポレートスローガンの変更

 ローソンがコーポレートスローガンをそれまでの「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」に変更したのは、今から約2年半前の2013年10月のこと。超高齢社会に突入するという、避けては通れない日本の人口動態を意識したものだ。

 高齢化が加速する日本で大きな課題となっているのは、歯止めのかからない医療費の増加。少子化等による税収減も相まって、国家財政を圧迫しているのは周知の通り。

 国としても医療費抑制は喫緊の課題であり、それを実現するために啓蒙しているのが「セルフメディケーション」。「セルフメディケーション」とは、言葉の通り、軽い疾病であれば医者にかからず、近隣の「かかりつけ薬局」等を利用しアドバイスを受けるなどして、自らで治癒を目指すというものだ。

 また、一方で、未病対策として同時に食生活に気を配り自らで健康を管理することも重要な意味を持つことになる。

 ローソンは、前述した2つの重要テーマを「地域の健康一番店」として担いたいという強い意識から新しいタイプのCVS創出へ舵を切ったとも言える。

 今やCVSは全国に5万店以上の店舗が存在するが、出店競争に沈静化の兆しはない。厳しい環境で勝ち残っていくためには、必然的に独自の強みを打ち出していく他チェーンとの差別化は重要な経営課題ともなる。そういう意味で“健康”という切り口を他に先駆けて採用した同社の戦略は、現代社会のニーズに見事にマッチしたものと言えるだろう。

ローソンの戦略② 打ち続けた布石が開花

 約2年半前にコーポレートスローガンを「マチの健康ステーション」に変更、“健康”というテーマを前面に打ち出しているローソンだが、実は、10年以上にわたり健康を基軸としたさまざまな取り組みを実施してきた。

 01年には健康に留意した商品群を充実させた新業態「ナチュラルローソン」をオープン、03年には調剤薬局併設店にも進出した。また10年には、農業生産法人「ローソンファーム千葉」を設立、13年には土壌のミネラルバランスを整える「中嶋農法」の特許を持つエーザイ生科研の株式を取得し、自社農園に普及させるなど、膨大な先行投資も実施して、早い段階から「マチの健康ステーション」として機能すべく布石を打ってきたのである。

ローソンの戦略③ 核となる2つの機軸とは

 同社では、「マチの健康ステーション」の実践にあたり、2つの軸を事業戦略の要に置いている。

 その1つ目は「美味しいミールソリューション」。生活習慣病の未病対応の健康食を展開する。その象徴的な商品として挙げられるのが「ブランパン」。ブランとは穀物の外皮のことで、これを使用し製造したパンは、従来の商品に比べ、糖質の大幅カットを可能にした。現在では、ビスケットやスナックまで応用範囲を広げ、シリーズ化にも成功している。

 今や全国に拡大している「ローソンファーム」では、前述した「中嶋農法」の普及にも努めている。同農法のメリットは、土壌診断に基づく健全な土づくりの技術と作物の健全な生育を維持するための生育コントロール技術を組み合わせることで、ミネラルバランスに優れた、高品質の野菜や果物を生産できることにある。

 もう1つが「セルフメディケーションサポート」。処方箋を取り扱う調剤薬局と「ローソン」「ナチュラルローソン」を融合させた調剤薬局併設型ローソン、OTC医薬品取り扱い店舗で、地域住民のセルフメディケーションをバックアップする。

 テレビ電話を活用した「24時間お薬相談」や自治体との連携による「出前健診」や「まちかど健康相談」といったサービスも好評で、規模を拡大している。

ローソンの戦略④ 公的機関からも健康経営を評価

 一方で、特筆すべきが、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄 2016」にローソンが小売業として唯一、2年連続で選ばれていることだ。  「健康経営銘柄」とは従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業として経産省と東証が紹介するというもの。  「マチの健康ステーション」を標榜する同社では、05年にファミリー健康相談、メンタルヘルスカウンセリングの開設を皮切りに、13年度には全社員の健康診断にディスインセンティブ制度を導入した上で奨励、全社員の健康診断受診を達成した。昨年から開始した「ローソンヘルスケアポイント 2015」は、健康診断の結果から取り組むべき健康目標を自ら設定し、達成状況に応じ、最大1万Pontaポイント貰えるというユニークな施策だ。  これら取り組みが公的機関から評価されたことが、2年連続の選定となったのである。  「地域の健康一番店」の実現は、自らも率先することが重要と捉える企業姿勢を表すものとして評価に値する。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る