文化・ライフ

お父さまから事業を継承し、会社の新たなイメージ創出と業績回復に成功されたホッピービバレッジの石渡美奈社長。今回は、社長になった当時の話や、事業を引き継ぐ醍醐味などについて伺いました。

試練を与えられて乗り越えることの連続だったと語る石渡美奈氏

20160322SANSAN_P01

(いしわたり・みな)1968年、東京都生まれ。立教大学卒業後、日清製粉に入社。93年に退社後、広告代理店のアルバイトを経て、97年ホッピービバレッジに入社。広告宣伝、副社長を経て2010年、創業100周年の年に3代目社長に就任。現在、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科在籍中。

佐藤 ホッピーは今年で創業111年だそうですね。

石渡 私自身は2010年度から社長を務めているのであまりピンとこないのですが、創業者である祖父と父が残してきた会社なので、これからもしっかりやっていきたいと思います。

佐藤 事業を継がせることが決まって、お父さまは美奈さんが副社長時代から社長業を任せていたそうですが。

石渡 銀行との交渉や事業計画の策定まで、全部やっていました。ですから、継いだ後も感覚は変わりませんでした。それは父の懐の深さだと思います。

佐藤 お父さま世代の感覚では、同族企業でも娘に継がせるのは珍しかったと思います。

石渡 最後は父が決めることでしたが、私が自分でやりたいと言ったんです。

佐藤 いつ頃、会社を継ごうと思ったんですか?

石渡 1996年のことで、当時は広告代理店に勤めていて、仕事は楽しかったのですが、何か自分のやりたいこととは微妙に違うなと感じていました。そんな時、外を歩いていてハッと「私が継げばいいんだ」と思ったんです。一人娘がわざわざ自分から継ぐと言うのだからすぐに継げるかと思ったんですが、父からは「お前にはできない」と言われて、入社までに1年かかりました。私は小学生のころから、すべてのことが一筋縄ではいかなかったんです。受験も、幼稚園、小学校、小学校の編入試験と全部落ちて、4度目で中学校から入りましたし。周りを見ても、そんな人いないんですよ(笑)。

佐藤 きっと何か、天からのメッセージだったのかもしれませんね(笑)。でも、やりたいと思ったことを諦めなかったから、結果につながったのでは。

石渡 何かしら苦労を与えられて、それを乗り越えることの繰り返しでしたね。本気でやりたいことをやらないと後悔すると思ってきました。ただ、そうやって頑張れるのは、有美社長をはじめ先輩の女性社長たちの存在があるからなんです。

石渡美奈氏の思い 過去の蓄積に新たなものを加えていく面白さ

佐藤 世の中に女性社長は珍しくなくなりましたが、まだ数は少ないですよね。

石渡 酒類業界や外食産業を見ても、女性がいると目立ちます。3年前に、同世代を中心に「東京愛宕ロータリークラブ」をつくったんですが、そうした集まりには女性経営者が結構多いのに、業界団体になるとほとんどいないのが不思議です。

佐藤 ただ、今は「女性を登用しなければいけない」という雰囲気が世の中にありますが、それも少し違うかなと感じます。美奈さんのように「自分がやりたい」という人が増えないと。

20160322SANSAN_P02

社長の座を譲り現在は会長として美奈さんを見守る石渡光一氏(中央)

石渡 子どもと一緒で、会社も自分で愛情をかけないと育たない部分があります。ところで、有美社長も「金の卵発掘プロジェクト」でベンチャー企業を育てていますが、今はどんな状況ですか。

佐藤 スタートして5年たちますが、受賞企業の中から上場するところも出てきました。有望なベンチャーは多いので、そうした企業を支援していきたいという思いがあります。

石渡 自分で生み出した事業って、本当にかわいいですよね。

佐藤 そうですね。一方で、私たちのように既にある会社を継いだ場合は、ベースとなる部分を変えずに、新たなものをつくり出す楽しみもあります。

石渡 自分だからできること、時代の流れに沿って過去の蓄積に新たなものを加えていくことは楽しいです。私の場合は、先代、先々代のお陰さまで今があります。そのことに感謝しつつ、自分の色もしっかりと出していきたい。新しいことをやらせてもらうからには、今まで築いてきたものを傷付けてはいけないという責任があるので、張り合いがでます。

ホッピービバレッジ 石渡美奈社長が地域貢献に取り組むようになったきっかけとは

20160405SANSAN_P01

佐藤 美奈さんは今、何か新しいプロジェクトに取り組まれていますか。

石渡 ここ数年で一番大きかったのは、「赤坂食べないと飲まナイト(食べ飲ま)」というイベントを始めたことです。東日本大震災の後、本社がある赤坂から人がいなくなって、電気も消えて、界隈の飲食店は本当に潰れてしまうんじゃないかという状態でした。あるお客さまから何とかならないかと相談を受けて、どうしたら良いかと悩んでいたら、取引先から神楽坂で開催される「食べ飲ま」のことを教えていただきました。1枚700円のチケットを5枚つづりで買って、参加している飲食店をはしごできるイベントで、とても面白かったんです。神楽坂は魅力があっても敷居が高い店が多いのですが、その日は神楽坂に人が溢れており、初めて会う人同士のコミュニケーションの場にもなっていました。同じことを赤坂でもやりたいと思って始めました。

佐藤 これまで何回くらい開催しているのですか。

石渡 年2回のペースで、昨年までに8回行いました。30店舗からスタートしたのですが、今は50店舗まで増えています。最初の頃は自分たちで無理やり開催していた感じでしたが、6回目から飲食店さんが自ら実行委員会をつくって、「食べ飲ま」を中心に赤坂2丁目界隈にコミュニティーができているんです。だからもし今、震災があったとしても、寝る場所や食べるものの提供など、横の連携ができるのではないかと思います。創業の地で地域のお役に立てたことがうれしいし、思いがけないところから、ライフワークが見つかった気がします。

佐藤 現場が自主的に動くようになると広く物事が見えるようになるので、もっと大きなイベントにできそうですね。ぜひ続けてください。

ホッピービバレッジ 石渡美奈社長の今後の抱負とは

佐藤 ところで、ゴルフは続けていますか。

石渡 カッコいい道具を買ったのですが、今は放置状態になっています(笑)。

佐藤 『経済界』ではレッスンプロの連載もありますし、レベルの高い人から教われば、楽しいと思えるようになりますよ。

石渡 お願いします。ゴルフは、自然の中を歩くから気持ちいいでしょうし、父もまだやっていますから、一緒にコースに出られたらいいなと思います。

佐藤 最後に今後の抱負をお願いします。

石渡 不確実性が高い時代になって、想定外のことだらけですが、企業は結局続けていくことが大切なんだろうなと感じています。100年先のことは誰にも分からないし、過去は変えられないので、目の前のことを積み重ねていくしかないのかなと。創業者と父が人生を懸けて築いた、111年の会社の歴史をつないでいくのが私の仕事です。今までよりさらに1分1秒を一生懸命生き抜いて、目の前の1歩1歩を大事にしたいと思います。

 そして、この会社の第3創業は、新卒社員を戦力にする方針でやってきましたが、若い人たちを育てる意義を強く感じています。有美社長が金の卵発掘プロジェクトで、ベンチャーをかわいがっているのと似た感覚かもしれません。

佐藤 人を育てる使命のようなものを感じますし、自分も成長できますからね。本日はありがとうございました。



20160405SANSAN_P02 対談を終えて

数年ぶりの再会でしたが、ますます明るくエネルギッシュに活動されている美奈さん。「赤坂食べ飲ま」には、近々ぜひ参加したいと思います。

 

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る