文化・ライフ

ハヤブサが重症―懸命なリハビリが奏功し改善の兆しもあったが

 リングネームを地で行くような華麗な空中殺法で人気を博したプロレスラーのハヤブサ(本名・江崎英治)が3月3日、くも膜下出血のため他界した。47歳の若さだった。

 ハヤブサが全身不随の重傷を負ったのは2001年10月22日のことだ。後楽園ホールでの試合で、相手に空中殺法を見舞おうとして2段目のロープに足をかけたところ、誤って足を滑らせ、後ろ向きに首からキャンバスに突っ込んでしまった。

 頸椎を損傷したハヤブサは仰向けになったままピクリとも動かなかった。

 すぐさま試合終了のゴング。マスクをはがされ、担架に乗せられたまま救急車で会場近くの病院へ担ぎ込まれた。それは長い闘病生活の始まりでもあった。

 後に本人に、この時の状況を聞いた。

 「最初は“死んだのかな……”と思いました。でも、意識はある。やがて呼吸ができなくなってきた。首をやっちゃうと腹筋が使えなくなり、横隔膜が動かなくなるんです。窒息死するんじゃないか……。おまけにマスクを被っているものだから、余計に苦しい。

 幸い、しゃべることだけはできました。レフェリーに“首が折れたから試合は止めてくれ”と伝えました。そしてマイクを渡してもらい、お客さんに“ごめんなさい。時間はかかるかもしれないけど、またここに戻ってくる。僕が命をかけて愛したFMWを見捨てないでくれ”とリングに倒れたままの状態で訴えました」

 エースを欠いた団体に観客は戻らなかった。入院から4カ月後、FMWは倒産した。

 入院中のリハビリは壮絶を極めた。通常、頸椎損傷の場合、半年くらいで症状固定になり、それ以上は改善が難しいと言われている。

 ところがハヤブサの場合、半年を過ぎ始めたあたりから状態がよくなってきた。担当の医者は、「極めて珍しいケースだ」と驚いたという。

 「立つ練習を始めたのは、事故から約半年後。最初は平行棒につかまって、無理やり立たされたような状態。困ったことに床に足がついても、まるでその感覚がないんです。長く正座すると足がしびれて感覚がなくなるでしょう。あんな感じなんです。

 足がジーンとしびれていて、足のどの部分がどの程度当たっているのかさえ分からない。例えるなら……そう、太平洋の真ん中にひとりでいて、いかだの上に急に立たされたような感覚でしょうか。不安と孤独で、風が吹いただけで倒れそうな感じでした」

 懸命なリハビリが功を奏し、ハヤブサは1年5カ月で退院にこぎ付けた。

 「闘病日数は525日。病院の出口で車イスを止め、杖をつきながらですが、自分の足で病院を出ました。それが、せめてもの僕の意地でした」

 02年8月、親交のあった小橋建太の引退試合では車イスから立ち上がって開会宣言を行い、周囲を驚かせた。

 最近はプロレス関連のイベントにもちょくちょく顔を出していただけに、突然の訃報は残念でならない。

プロレスラーにスーパーマンを期待するが実際は……

 プロレスラーはケガと背中合わせの日々を送っている。ハヤブサの事故から約8年後、プロレス団体NOAHの社長兼花形レスラー三沢光晴が、試合中、相手レスラーからくらったバックドロップが原因で心肺停止状態に陥り、そのまま帰らぬ人となった。

 死因は「頸髄離断」だった。

 関係者によると、試合前から三沢は「頭がふらつく」とつぶやくなど体調不良を訴えていたという。

 社長レスラーゆえ、興行に穴を開けることは許されない。メーンイベンターともなると大技をかけたり、かけられたりの繰り返しだ。好勝負か否かは、最終的にはファンに委ねられる。それこそボロボロの肉体でリングに立ち続けていたのではないか。

 遠征先では夜遅くまで関係者と飲み歩く姿が目撃された。これも満身創痍の体が発する痛みを、アルコールで紛らわすためだったというのだから痛々しい。

 三沢の死後、あるベテランレスラーは重々しい口調でこう言った。

 「レスラーはたとえ体調が悪くても、まわりには悟られないようにしないといけない。お客さんはレスラーにスーパーマンのイメージを期待している。病人のような顔をしたレスラーの試合なんて誰も見たくないでしょう。

 でも実際は皆、体の至る所に故障を抱え、歩くのもやっとという人間もいるんです。僕たちだって、明日はどうなるか分からない……」

 スポーツ庁の所管官庁である文科省の現大臣は元プロレスラーの馳浩である。

 興行優先の論理に歯止めをかけ、リング上での事故を未然に防ぐには、どうすべきか。そろそろ知恵を絞る時期にきている。(文中敬称略)

 

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る