政治・経済

素通りから旅の起点に

 リーマンショックの翌年、2009年に開港したことが物語るように富士山静岡空港は開港後もなかなか思い描いた成長線を描くことができなかった。

 ところが昨年、大きな転機を迎える。堅調な国内線はさておき、驚くべきは国際線旅客数の伸びである。14年の利用者は20万4千人、それが、1年後の15年には39万人にまで増えたのだ。伸び率なんと91・6%。驚くほかない。法務省がまとめた昨年の出入国管理統計でも、中部国際、新千歳空港に次いで8位に入っている。そして、その多くを占めるのが中国人観光客。空港を利用する39万人の63・2%、24万6千人にも上る。

20160405_FUJI_P01

富士山静岡空港から臨む富士山(写真提供:フジドリームエアラインズ)

 富士山静岡空港の国際線は、昨年1月まで、中国線は上海路線のみで、あとは台北、ソウル線の3路線、11往復だけであった。それが、今年2月初めの段階では、10路線、週32往復の運航便数がある。新たに就航したのは天津、寧波、武漢・南寧、温州、杭州、南京、塩城・海口と、日本では馴染みのない地名もちらほら見かけることができる。現在は運休中だが夏にはほかに4路線もあったという。

 そもそも、なぜ静岡に中国人旅行者が大挙して降り立つようになったのか。その要因を静岡県の担当者に尋ねたところ、もともと外国人観光客が通るルート上に静岡があったこと、そしてスルーされていた静岡を富士山の存在が呼び止めてくれたことを理由に挙げる。中国人にとっても富士山というのは、魅力的に映るようで、ある調査によれば、ピラミッド、エッフェル塔にならぶほどの人気だという。

 とはいえ、それだけでここまで多くの航空会社が路線を飛ばすというのも考えにくい。どのようにインバウンド、特に中国人旅行者を県に招き入れたのか、その中心を担った静岡県文化・観光部で、空港を担当する林正尚理事に話を聞いた。

静岡に引き寄せる富士山の魅力

―― 空港活性化の一番の要因は何ですか。

 複合的な要因が組み合わさったものなので、これというのをひとつ挙げるのは難しいのですが、やはり、定番である「東京―富士山―京都・奈良―大阪」のゴールデンルート上にあるということと、外国人旅行者、特に中国人旅行者に人気のある富士山といった地の利でしょうね。また、中国で言えば、静岡県は30年以上浙江省と友好関係を結んでおり、中国との関係が冷え込んだ時にも交流を続けていました。省都・杭州にも念願の路線が開設され、北京首都航空と中国東方航空の2つの航空会社が乗り入れています。もちろん、県として支援も行いました。

―― 具体的にはどんな支援を。

 県の空港ですから条例で、空港着陸料を初年度は免除、2年目以降も、3分の2を減免する取り組みを行っています。航空会社にとって新規就航はコストがかさみますから、これを軽減する支援策です。条例は3カ年ですが、議会の承認が得られれば延長したいと思っています。また観光の分野でも、静岡県内の宿泊施設に1泊していただければ旅行会社やバス会社にキャッシュバックする支援を行っています。県内には伊豆や浜名湖周辺に優良の観光地がありますから、支援以上に地域の魅力を発信できていますね。

―― 羽田も拡張するなど空港間競争も厳しいですが。

20160405_FUJI_P02

林 正尚・静岡県文化・観光部理事

 羽田空港の拡張程度では、需要に追い付けないと思っています。実は、まだ静岡空港に乗り入れたいとか、増便したいという希望を頂いているのですが、開港時の想定で国際線がこんなに混むとは思っていなかったものですから、施設も小さく1時間に1本しかさばけません。ターミナルを増築して、18年には、今の3倍の受け入れ態勢になる予定です。

―― 中国路線の偏り、イベントリスクへの対応は。

 中国経済の懸念なども聞きますから、各所にヒアリングを行っていますが、当面はまだ需要は下がらないと考えています。

ただ、おっしゃるとおりバランスは考えなければならないと思っています。しかし、いいダイヤは限られていますから、その時間帯に枠を増やさなければ便の設定も難しい。ですから、拡張後を見越して東南アジアなど他の地域へ話をしていきたいと思っています。

―― 空港の将来像については。

 望ましいのは国内、国際の良いバランスです。今は海外から多くのお客さんが一方通行で来られている状況ですが、これからは静岡県に住む370万人のみなさんにもアウトバウンドで海外に出掛けていただきたい。それが、基盤を太くしていくことで底堅い体制をつくる第一歩ですから。まずは県民の方にもっと利用してほしい。何といっても、県営空港ですからね。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界7月号
[特集]
我がベンチャー魂

  • ・藤田 晋(サイバーエージェント社長)
  • ・髙島勇二(MCJ会長)
  • ・小池信三(三栄建築設計社長)
  • ・田中 仁(JINS社長)
  • ・宇野康秀(U-NEXT社長CEO/USEN会長)
  • ・寺田和正(サマンサタバサジャパンリミテッド社長)
  • ・坂下英樹(リンクアンドモチベーション社長)
  • ・冨田英揮(ディップ社長)
  • ・平野岳史(フルキャストホールディングス会長)
  • ・河野貴輝(ティーケーピー社長)
  • ・出雲 充(ユーグレナ社長)
  • ・方 永義(RSテクノロジーズ社長)
  • ・山海嘉之(CYBERDYNE社長/CEO)
  • ・高岡本州(エアウィーヴ会長)
  • ・酒井 将(ベリーベスト法律事務所代表弁護士)

[Interview]

 後藤 亘(東京メトロポリタンテレビジョン会長)

 技術がどんなに進歩しても、求められるのは「心に響く」コンテンツ

[NEWS REPORT]

◆金融業界に打ち寄せる人工知能の衝撃波

◆ついに会長職を退任 フジテレビと日枝 久の30年

◆停滞かそれとも飛躍への助走か 元年が過ぎた後のVR業界

◆爆買い超えも目前 インバウンドショッピング復活の裏側!

[政知巡礼]

 小野寺五典(衆議院議員)

 「北朝鮮の脅威で安全保障の潮目が変わった」

ページ上部へ戻る