政治・経済

日本銀行の黒田東彦総裁が4月にも追加金融緩和に踏み切るとの観測が市場で高まっている。1月下旬にマイナス金利政策の導入を決めた「黒田バズーカ」が円安・株高に導けない“不発”に終わった上、官邸サイドから「分かりづらい」とダメ出しされたためだ。文=ジャーナリスト/田口和夫

評判は散々でも強気姿勢崩さぬ日銀

 昨年12月の金融政策決定会合で、現在の金融緩和を補強するための措置を導入した日銀。保有する国債の償還までの平均期間を「7~10年程度」から「7~12年程度」に延長。さらに、ETF(上場投資信託)の買い入れペースを、現在の年3兆円から3千億円増額した。

 日銀は、「補完措置」と位置付け、金融緩和でないことをアピールしたが、ロイター通信が「黒田バズーカ不発」と報じたため、結果、失敗のレッテルを貼られることになった。

 今年1月には、この補完措置の実行ではなく、マイナス金利政策という市場を欺くサプライズでの導入を決めたが、弊害ばかりが目立つ始末。円安・株高の誘導に失敗したことから、官邸サイドは、「もっと世間に分かりやすい追加緩和をなぜしない」と日銀執行部に対し怒り心頭だという。

 一般的なマイナス金利の評判も芳しくない。

 景気ウォッチャー調査では、「今回の日銀のマイナス金利政策が資金需要の増加につながるとは全く思えない。景気に悪い影響を与える」(南関東=金融業)、「いくら金利が低くても設備投資などの実需がなければ借入はしない。個人の立場からも住宅ローン金利が低くなっても、個人所得の増加傾向が期待できない限り、将来の返済見込みが立たず、借入はしない」(北陸=一般機械器具製造業)、「マイナス金利政策による景気の先行き不安から、消費の冷え込みにつながる可能性がある」(近畿=家電量販店)など、ネガティブなコメントの数がポジティブなコメントを大きく上回る事態となっている。

 黒田総裁は3月の決定会合後の会見で、日本にとって初となるマイナス金利の導入は混乱があると認めつつも、「足元の金利低下が今後物価、景気に波及していけば、人々の評価もポジティブな方向に変わっていく」との強気の姿勢を崩さない。

 だが、日銀ウォッチャーは、「預金金利をマイナスにしない限り、既に大きく下がっている貸出金利の低下余地は限られる」と指摘する。多くの企業にとって、借入金利の低下よりも、投資プロジェクトの採算性が不透明なほうがよほど大きな問題だからだ。

 また、住宅ローンも借り換えの動きは盛んだが、消費増税前の駆け込み需要で進んだ住宅購入の動きや、金利低下を受けた中古業者の値上げで、新規の借り入れ需要は盛り上がっていない。黒田総裁の思惑どおりマイナス金利が景気、物価に順調に波及していく展開となる可能性は不透明な状況だ。

 一方で、足元の経済環境も厳しい。

 黒田総裁は、会見で景気判断について、「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられる。住宅投資はこのところ持ち直しが一服している」などと弱含みしている現状を説明した。2015年10~12月期GDP(国内総生産)はマイナス1.1%となった上、円高で企業収益の伸びも鈍化。物価上昇の頼みの綱とも言えるベースアップについても、トヨタ自動車の労働組合ですら要求額の半分の水準で決着してしまった。

「量」と「質」が効かず「信用」へ踏み込むか

 日銀幹部の中には、「もはや原油安の前では、金融政策をやっても意味をなさない」との意見もあるが、“頑固者”の黒田総裁は2%の物価目標を何としても残り2年の在任中に達成し、「歴史に名を残したいはず」(全国紙経済部記者)で、なりふり構わない金融政策に打って出る可能性もある。

 過去2回の追加緩和はいずれもインフレ期待の下振れリスクを理由にしていたことも考えると、4月に追加緩和する可能性は高い。

 とはいえ、日銀による国債買入れオペで応札倍率が低くなるなど、機関投資家が国債売却に消極的な姿勢が鮮明となっており、「量」の拡大には限界論も出ている。

 また、マイナス金利拡大も、国民がさらに混乱するリスクをはらむ。残る「質」の金融政策も、「量」も「金利」も強化しないまま、ETFなどのリスク資産を買うだけとなれば、もはや金融政策と呼べず、財政政策の領域に入ってしまうとの見方もあり、追加緩和をしようにも、手詰まり感が出ているとの意見は多く聞かれる。

 こうした中、SMBC日興証券の宮前耕也・日本担当シニアエコノミストは、レポートの中で、「打開策として、あまり筋が良いとは言えないが、4月にも『信用』の政策に再び踏み込む可能性が出てきたのではないか」と指摘する。

 日銀は既に「質」の政策の一環としてCP・社債等の保有残高を維持(=償還分を再投資)しているが、これを「信用」の政策として切り分けて、強化する可能性があるからだと宮前氏は分析。「筋が悪い政策に思えるが、限界がないことを示すための新機軸を打ち出すという理由で踏み込みかねない」と締めくくっている。

 ただ、宮前氏が言う「信用」に踏み込む緩和に、分かりやすさはない。果たして、黒田総裁はどのような判断を下すのだろうか。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る