テクノロジー

人工知能の進化が欠かせない領域の一つがロボットだ。CYBERDYNEの「ロボットスーツHAL」は医療用下肢タイプが新医療機器の承認を受ける一方で、腰タイプが作業現場・介護現場など向けに出荷が順調に伸びており、ビジネスが拡大している。HALと人工知能について、CEOの山海嘉之氏に話を聞いた。聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=幸田 森

医療機器承認で機能を実証適用範囲が広がる

20160419CYBERDYNE_P01

(さんかい・よしゆき)岡山県出身。1987年筑波大学大学院修了、工学博士。筑波大学大学院システム情報工学研究科教授、筑波大学サイバニクス研究センター長。2004年CYBERDYNE設立。内閣府ImPACT 革新的研究開発推進プログラム プログラムマネージャーも務める。経済産業大臣賞や文部科学大臣表彰、トムソン・ロイターのIPO of the YearやInnovative Equity Deal of the Yearなど受賞多数。

―― 貴社の最近のビジネスの状況について、製品の出荷が順調に伸びているという印象ですが。

山海 昨年末にHAL医療用下肢タイプが新医療機器として承認され、保険適用も決まりました。今回対象となるのは8種類の神経筋難病疾患になります。現代のどの医療技術も進行を抑えることができなかった難病に対して、このロボットが進行を抑え、むしろ機能改善を実現できていることが分かってきたことが大きいです。

 それと別に、タイプの異なるHALや複数の自律型ロボットがあり、製品の出荷はどんどん伸びています。生産現場や介護現場で作業を行う方々の腰部の負荷を低減させながら腰を守っていくデバイスとして、腰タイプのHALがあります。あとは肘や膝につける単関節タイプのHALの出荷も始まりました。

 そういう流れに加えて、人工知能搭載型の搬送ロボットや清掃ロボットの出荷を始めています。オフィスビルや工場の中に投入されたり、あるいは羽田空港などにも投入されたり、導入が活発化しています。2016年はさらに心臓の機能や血管の動脈硬化など、人間の身体機能を検査するバイタルセンサーの出荷も予定しています。

―― HALにおける人工知能については。

山海 HALは、人間の脳神経系の信号を使って動きますが、安全を確保するための自律機能として、人工知能が搭載されたロボット機能がついています。

 一方、CYBERDYNEが使うすべてのデバイスには通信機能がついており、各デバイスから送られてくる個人情報を除く身体・生理・生活にかかわる情報が、日本、ドイツ、スウェーデンから、つくばに毎日、集まっています。その情報は高速で演算するコンピューターで処理することになりますが、その仕組みを飛躍的に強化することにしました。

 CYBERDYNEの事業展開では、数年後には、現状の計算サーバーは限界に達するでしょう。当社が扱うビッグデータを軽快に処理できる世界最高水準のスーパーコンピューターを導入することにしました。当社が出資をして業務提携をしているExaScaler社は世界のスパコンランキングで1位から3位までを独占しましたが、数年後には「ポスト京」に相当するスパコンを完成させるでしょう。

 次20160419CYBERDYNE_P02の展開として、スパコンに使われるチップをHALに搭載していきます。私は昔から人工脳の研究をしてきており、人工脳をつくることが1つの長いチャレンジでした。今までは計算速度が遅すぎて付いてこられませんでしたが、それを実現する人工脳をこれからつくりあげていくことになるわけです。

 HALの動作においては、人間の脳神経系の情報をHALが受け取って、HALの中で処理して意思に従った動きに変え、ロボットと人間との間でインタラクションさせ身体を動かします。脳神経系の情報をHALから再び人間に戻すことで、人間の各神経系の情報にそのロボットの情報を乗せて脳に戻します。人間の体内を回っている情報をいったん外に取り出し、整え直してから戻すことによって、人間の脳すらも人工知能の中の一部のユニットとして使わせてもらっていると考えることもできるでしょう。それが世界初のサイボーグ型ロボット「HAL」なのです。このような原理に基づき、脳や神経の機能が変わってくるという可塑性を活用し、脳神経系の治療が行われます。

ロボットによる生産で日本のものづくりを復活

―― 15年にいろいろな製品の出荷が一気に始まりましたが、内製品を独自で出せた生産能力はどうなっているのでしょう。

山海 生産能力というより、開発能力ですね。数をつくる能力はないですが、製品にして出荷する能力はあります。数を出すためには、生産拠点を準備すること、あるいは製造を専門にする企業との連携も大切です。組立については、実際に他社と連携が始まります。

―― 福島・郡山に建設中の拠点はその供給能力を拡大するものですか。

山海 それだけではありません。福島の場合には、通常の生産に加え、生産施設そのものにも意味があるのです。単にものを作ればいいだけなら、多くの企業が行ったように労働賃金の安い国にものづくりを移せば良いのでしょうが、現場での工夫を忘れて、「手探り」をするというものづくりの基本形をなくして空洞化していったのだと私は思います。

 では、どうするかというと、福島は次世代型多目的ロボット化生産拠点、つまり人と協調しながら人間の技能が組み込まれたロボットがロボットをつくるという革新的な施設となっていきます。福島は立地的に本社があるつくばから離れているわけですが、復興支援のために動いています。価値ある施設を福島に配置する意義は非常に大きいと思います。

 ロボットがロボットをつくるのは、ツーステップ先の未来の話ですが、それをやります。目標は日本でのものづくりの復活と社会との連動によるバリューチェーンの構築です。この仕組みをつくれば、この施設で働く人が増えますし、ロボットシステムを管理する高度な仕事が広がります。

軍事転用で起こり得る“怖い”問題

―― 人工知能が人間の知能を超えるシンギュラリティ(特異点)の問題はいかがお考えですか。

山海 ある意味では、既にロボットの能力は人間の能力を超えているわけです。しかし人間の知能は、愛情など、いろいろなものが加わっているので、私はそうはなりにくいと思います。その理由として、今の人工知能のアプローチはディープラーニングが基本です。今まで時間がかかっていたものが早く処理ができるというアドバンテージはありますが、問題はアルゴリズムづくりです。アルゴリズムをつくるのは人間です。ですから、かなり便利なツールにはなってくるでしょうが、人工知能が人間を超えるかと言われると、きっと超えないと思います。

 一方で、シンギュラリティのような話があり、人間を超える知能ができたとしましょう。それがコンピューターの中に入っていて、そこで私たちと会話したり、たしなめたり、示唆するようなことをいろいろ言ってくれたとして、どんな悪いことがあるでしょうか。コンピューターにどんなことを言われても、結局行動するのは人間です。

20160419CYBERDYNE_P03 ただし、怖いことが一つあります。人工知能のシンギュラリティが重要なのではなく、人工知能が物理空間とつながったロボットと連動するほうがはるかに大変です。例えば、シンギュラリティの水準にまで及ばない人工知能のロボットだとしても、人間の体温を感知し、人間の体温があるものを弾がなくなるまで撃ち続け、壊れるまでそれをやり続けるロボットが数十体どこかにパラシュートで放たれたとき、何が起きるかということです。軍事用の人工知能と軍事用のロボットが一体化したときに、シンギュラリティの問題などを超える、嫌らしく悩ましい問題が発生すると思います。

―― HALに関してはそういう心配はないわけですね。

山海 まず、HALは人間の脳を主体として使っていくことで、むしろ人間の脳を助けるものです。次に軍事転用されないように、CYBERDYNEではモジュール化を進めて、リバースエンジニアリングがしづらい構造にしています。

 当社の上場目論見書や定款にもありますが、平和利用が基本です。また、当社は、普通株式に対しての議決権が10倍の種類株式の中での複数議決権でもって上場した日本初の企業です。これにより、敵対的買収で技術が悪用されることを防ぎます。そしてなおかつ当社には平和倫理委員会があります。当社はここまでのことをやりぬいてつくられた会社であり、ご心配のようなことが起きないようしっかりと引き続き対応していきたいと思います。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

電力業界のイノベーション

[連載] エネルギーフォーカス

10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

[連載] エネルギーフォーカス

日本は再生エネルギーで世界トップとなる決断を

テクノロジー潮流

一覧へ

アジア大会とノーベル賞

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

水素社会へのステップ

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る