マネジメント

 創業者の安田隆夫氏が勇退して約10カ月。カリスマ経営者が去った後もドン・キホーテの勢いは衰えず、2016年6月期には27期連続増収増益を達成する見込みだ。インバウンドの追い風はあるものの、好調の要因はそれだけではない。売上高1兆円企業を目指す同社の強みと今後の展開、そして「安田イズム」の継承者として、どのようなリーダーシップを発揮しているのか、大原孝治社長を直撃した。 聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=佐藤元樹

ドンキホーテの好業績の要因は個店主義の徹底

―― 昨年7月にCEOに就任されましたが、27期連続増収増益が見えています。好業績の要因は何でしょうか。

20160419DONKI_P01

(おおはら・こうじ)1963年生まれ、東京都出身。93年ドン・キホーテ(現ドンキホーテホールディングス)入社。2005年関連会社のリアリット社長、09年関連会社の日本商業施設社長、ドン・キホーテ取締役兼CIO、13年ドン・キホーテ代表取締役社長を経て、14年ドンキホーテホールディングス社長兼COO就任。15年7月より現職。

大原 あくまでも経営者としての視点ですが、創業以来、当社がイノベーションを欠かしていないということが大きいでしょう。大袈裟なものに限らず、小さな変革を積みかさねることで、結果として大きなイノベーションになっているのです。営業の考え方や仕入れの方法、競合他社との戦い方、商圏に適合した個店経営など、それぞれに変革を積みかさねています。そもそも当社は以前から個店への権限委譲を進めており、今では本部にはほとんど権限がないようになっています。

―― 個店経営にシフトした理由はどのようなことでしょうか。

大原 リテールの業界では、本部の従業員と店舗の従業員では、本部のほうが偉いというイメージがあります。あくまでもイメージなのですが、自然と本部の従業員の振る舞いが偉そうになり、店舗に連絡をするにも命令口調になっていたりするのです。それではいけない。スケールメリットを追うあまりに、スモールメリットを軽んじてしまうのではないかと考えました。この個店主義はスモールメリットに振りきった改革なんです。

―― 店舗への権限委譲ということですが、具体的にはどの権利を移したのでしょうか。

大原 一番大きいのは仕入れです。ほかにもマーチャンダイジングから値付け、すべてを委譲しました。これまで本部所属で店舗に配属されていた従業員がいましたが、それもすべて店舗所属に転換しました。

―― そうした構想は以前からあったのでしょうか。

大原 以前から店舗を回っていると、いろいろなものが見えました。当社もPB商品を開発していますが、本部が店舗の状況を考えずにPB商品を送り込んでしまっている。その商品が地域に合っているかといったことを考慮せず、PB商品を作ること自体が目的になってしまっていました。こういった本部主導によるマイナスの影響を見てきたのです。その是正案が「局地戦に撤する」、つまり個店主義なのです。

―― かなり大きな変革だと思いますが、スムーズに変革できたのでしょうか。

大原 私が副社長になって、1年半くらいは個店主義の啓蒙を続けていました。どうやって個店主義を実現するのか、営業手法、戦術を組織全体、個人個人に説明し続けたのです。同時進行で、個店主義を実現する仕組み作りを考えました。例えば、仕入では本部での一括仕入れのメリットを残しつつ、個店での個別仕入と同じ状況になる商談システムの開発、上司の主観が入らない、地域格差を考慮した評価システムなど、個店主義を実行するための道具も用意してきました。啓蒙は大事ですが、それだけでは実行できません。

―― 個店主義が徹底されるとPB商品はどのような扱いになるのでしょうか。

大原 それこそ本部の仕事ですね。PBは利益率も高く有意義な商品群です。消費者に近いわれわれが商品開発をすることには大きな意義があります。それをいかに個店の状況に合わせていくかが問われるでしょう。

ドンキホーテ国内500店舗と新業態による成長

―― 現在、総合スーパー各社は業績が厳しいのですが、その中で好調を続ける理由はどのようなところにあるのでしょうか。

大原 まさに個店主義の効果が大きいと思います。競合店が同じ商品を安く売っていたらすぐに値付けを変更する。競合店の目玉商品が入荷していなかったらすぐに入荷の手配をする。そういったフットワークは個店対応でないと実現しません。大手スーパーVSドン・キホーテではなく、大手の支店VSドンキの支店の店舗同士の戦い、局地戦なんです。その積み重ねが会社の業績になるだけです。

―― 今後も出店は増やしていく考えでしょうか。

大原 まず国内500店舗という目標がありますから、そこまでは年間30店舗のペースで増やしていきます。ただ、出店しても駄目だと判断したら、すぐに撤退します。最初の1カ月で駄目だと感じたら、2カ月間検証して、撤退を決定します。出店する時にはいけると仮説を立てているのですから、それが違ったなら何が違ったのか、修正すれば対応できるのかを見極めていきます。

 もう1つ、新業態の開発があります。新規出店と新業態の2つの軸で成長していきたい。

―― 具体的にはどのような業態を考えているのでしょうか。

大原 まず、ポストGMS。1千~2千坪規模で生鮮食品まで揃えたメガ業態です。次にホームセンターです。今ホームセンター業界は縮小傾向にあるのですが、これはわれわれから見ると違和感がある。高齢化が進んで、住居も老朽化していく。つまり家に対する需要が増えるはずなのに、それを扱うホームセンターがなぜ縮小傾向なのかということなのです。これは仮説ですが、ホームセンターには家に必要なものが揃っています。しかし、消費者には何を買えば良く、どう使えば便利なのかが分からないのではないでしょうか。ただ商品が並んでいるだけでは、ニーズに届かない。そこを埋めるコンサル的な役割を果たす店舗を考えていきたい。ポストホームセンターというわけです。

ドンキホーテ大原社長の今後の展望と雇用制度

―― CEOに就任されて、もうすぐ1年になります。今後の展望をお聞かせください。

大原 まず国内500店舗という目標は数年で達成します。その先にあるグローバル化を見据えて、今から種蒔きをしておかなければなりません。もう一つ、雇用制度の改革にとり組んでいきたいと考えています。

―― どのような改革になるでしょうか。

20160419DONKI_P02大原 われわれの時代では、従業員が会社の都合に合わせることが当たり前でした。しかし、今は違います。働く人に甘くするというのではなく、会社と従業員が対等に向き合わなければならないと思います。働く人が仕事に誇りを持って、やりがいを持って働ける職場をつくる。それが雇用の確保にもつながります。現代の多様化した価値観にふさわしい雇用制度でなければなりません。これは2014年から5カ年計画で取り組んでいます。働く人の自己実現になり、個人の状況や希望と会社の都合が両立するような雇用制度を作っていきたいと思っています。例えば、ある人は完全歩合制でバリバリ働きたい、別の人は無理しないで安定した給料が欲しい。この2人の働き方が両立する、給与体系も勤務体系も、選ぶことができる制度を作ろうと思っています。中には、出社しないで在宅で働きたい人もいるでしょう。勤務時間を調整したい人もいます。毎週の休みは少なくていいから2~3カ月に一度ドカンと休みたいという人がいるかもしれない。そういった個人の事情をくみとれる、対応できる仕組みにしたいですね。

―― そういった考え方の根底には創業社長である安田氏の影響も大きいのでしょうか。

大原 大きいというよりも、すべてかもしれません。企業理念集「源流」には、われわれの活動の基本的な考え方がすべて記されています。「顧客最優先主義」という企業理念に共感し、それを実現するために働かなければならないのです。先ほどの人事制度改革も、その背景には「顧客最優先主義」を貫きとおすためにそれが必要だと考えるから取り組んでいるのです。従業員の幸せがお客さまを最優先することにつながる。個店主義もそうです。それが顧客最優先主義につながるから、そうしている。この理念に沿って、会社を成長させていかなければならない。

―― ただ、時代によって経営環境は変わるかもしれません。

大原 人が変わって、時代が変わっても、会社が持つビジョンは変わりません。一貫したビジョンを判断基準とするのです。新たな取り組みでも「それは顧客最優先主義に合致しているのか」ということが判断基準になります。それを次の世代に継承していかなくてはなりません。「源流」こそが当社のCEOであり、私はそれを代弁しているだけなんです。

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る