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マシン規制が大きく変更に。F1グランプリの挑戦は続く

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

危険と隣り合わせのスポーツだったF1

 それは衝撃的な映像だった。前を走るクルマと接触し、跳ね返った勢いで外側の壁に当たって大破する。マシンはコントロール不能の状態で宙に舞い、転がりながらコース外のフェンスに当たり、ようやく止まった。

 3月20日に開幕したF1世界選手権・オーストラリアGPでのワンシーンである。

 この事故はスタートして16周目に起きた。マクラーレン・ホンダに乗るフェルナンド・アロンソの右前輪が、エステバン・グティエレスの左後輪に接触する。第3コーナーの入り口で前車を抜こうとした際のアクシデントだ。

 ひっくり返ったマシンから自力で脱出したアロンソに、グティエレスが駆け寄って来て無事を確認する。

 「ヒザをすりむいたくらいで大丈夫だ」

 タイヤやウイングが外れ、原形をとどめないマシンが事故の大きさを物語っていた。

 戦前のグランプリレースを始祖として、F1は1950年代から始まった。

 最速のクルマは、そして男は――。スピードを追い求める中でアクシデントが多発した。F1は危険と隣り合わせのスポーツだった。

 これまでF1レース中のアクシデントで命を落としたドライバーは25人にのぼる。F1ブームの最中、94年5月にはサンマリノGPでアイルトン・セナが事故死した。

 時速300キロ以上で抜ける超高速左コーナーを曲がりきれずに、外側の壁に一直線でぶつかった。深夜にF1を録画放送していたフジテレビは、現地からの生中継に切り替えてセナの死亡を伝えた。

 セナの事故以降、F1は安全重視の方向性を打ち出す。これが功を奏し2014年日本GPのジュール・ビアンキまで、レース中のアクシデントによる死亡事故は起きていなかった。

 すなわち60年以上におよぶF1の歴史はテクノロジーやスピードの進化とともに、ドライバーを守る安全性能の向上との戦いでもある。

 クラッシュが起きるたびに安全に関する規則、装備が見直された。その結果、F1マシンの安全性能は飛躍的に向上した。運転席(コックピット)部分はドライバーを包み込むような形状となり、各方向からの衝突に対する強度テストも義務づけられている。

 コックピットのドライバーが頑丈なボディーに守られていることは、冒頭に紹介した無傷で済んだアロンソの事故でも証明された。

 そのような状況下、17年からの採用が検討されている新しい安全装置がある。

 形状や仕組みによってさまざまなタイプが候補となっているが、現時点で有力なのがHalo(ハロもしくはヘイロー)と呼ばれるもの。直訳すれば「聖像などの後光のような輪」。ドライバーの頭部を保護するために、コクピットの開口上部をグルリと覆ったものだ。

 この新安全装置の最大の目的は、クラッシュした他のマシンなどから飛んでくるタイヤやパーツの破片から、ドライバーの頭部を守ることにある。

F1は変革と革新を繰り返してより速く、より安全に

 09年のF2選手権ではクラッシュしたマシンからタイヤが外れる事故が発生した。外れたタイヤが後続車のドライバーのヘルメットを直撃し、ドライバーは死亡した。

 こうしたアクシデントの際に頭部を守るのがHaloだ。しかし17年からの採用をめぐり、チームやドライバーの意見は別れている。

 シーズンオフのテストでは、フェラーリがHaloを装着したマシンで周回を重ねた。コクピット外周に3つの支柱で固定されるHaloは、ドライバーの正面に1本柱が立つ。ドライブしたキミ・ライコネンは「視界の問題はない」と語った。

 Haloが「頭部の保護には最良」との流れができつつある。そんな中レッドブルはドライバー前方を透明なシールドで覆う戦闘機の風防(キャノピー)状のものを対案として出してきた。正面に柱が立つHaloよりも、視界の確保に優位性がある、と。

 「いっそのこと運転席全体をカバーしてしまえばいい」との意見もある。一方でF1などのフォーミュラカーはドライバーがむき出しの開放型こそがアイデンティティ、そう考える関係者も少なくない。

 さらにマシンが逆さまになった際、カバーされたボディーやHaloは脱出を妨げる障害物となる危険性も指摘されている。またF1をエンターテインメントとしてとらえれば、Halo装着時のルックスの問題も無視できない。

 17年にはF1のマシン規則が大きく変更される予定だ。安全装置以外にもボディーサイズ、タイヤサイズなども見直される。試行錯誤を繰り返しながら、より速く、より安全に――。F1グランプリの挑戦は続く。

 
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