政治・経済

2016年3月期決算で三菱商事、三井物産は連結純損益で初めての赤字に転落する。一方、非資源分野が主力の伊藤忠商事が初の首位に立つ。資源価格の上昇の兆しが見えない中、これまで商社を支えてきた資源ビジネスはどうなるのだろうか。文=本誌/古賀寛明

資源価格の低迷を受け、総合商社の減損ラッシュ

 2014年10月まで原油先物市場(WTI)は、1バレル100ドル前後を保っていた。ところが今年2月に一時30ドルを割り、今も40ドルに届いていない(4月8日時点)。資源価格の低迷は原油だけにとどまらない。鉄鉱石や銅など鉱物資源も同様だ。そのあおりを受け、長年、業界を引っ張ってきた三菱商事、三井物産の両社が、16年3月期決算でそろって初の純損益赤字を計上する見込みとなった。

 3月23日に会見を行った三井物産は、第3四半期の決算発表時に公表していた1900億円の当期利益予想を2600億円マイナス修正し、700億円の赤字見通しを発表した。三井物産が連結で最終赤字になるのは初めてのこととなる。マイナス要因となった減損損失の主な案件は、チリでの銅事業が最大で1150億円。豪州のLNG(液化天然ガス)事業で400億円、ブラジルの資源メジャーであるヴァーレ社の減損を受けて350億円を計上するなど、資源分野だけで2300億円に上る。

 その翌日には、三菱商事が、こちらも財閥解体後の現体制になった1954年から初めての赤字見通しを発表。こちらは、昨年11月に発表していた純損益3千億円の黒字予想を4500億円マイナスの1500億円の赤字に下方修正した。

 その最大の要因は、チリの銅事業。アングロ・アメリカン・スール社の案件は、かつてその獲得をめぐって競い合った三井物産と同じく2800億円の減損を発表。ほかにも豪州のLNG開発、鉄鉱石事業でそれぞれ400億円、300億円の減損損失を出している。資源分野の減損損失だけで4100億円という数字は社の内外に大きなインパクトを与えた。ただ、期末配当については物産、商事共に維持する方針と、財務を脅かすものでもない。

 資源価格の低迷は他の商社も直撃する。第3四半期決算発表時の業績予想1800億円の黒字を今のところ据え置いている丸紅。資源分野の減損損失は北海とメキシコ湾の油ガス田についての720億円のみだが、チリの銅事業やLNG事業も展開している。原油も銅も基準価格を厳しく見積もっているが、想定よりも円高に振れた為替の影響で堅実に稼ぐ電力事業や非資源分野での評価益などプラス要因があっても、下方修正がないとは言い切れない。

 同じく、15年3月期に16年ぶりの赤字決算だった住友商事も、昨年10月の段階では2300億円の黒字の見通しだった。しかし、第3四半期決算発表で黒字を1千億円と下方修正。これも主な要因は770億円の減損損失を出したマダガスカルでのニッケル開発事業と鉄鉱石、銅など資源分野での減損だ。こちらも資源価格と円高を考えればさらなる減損の可能性がないとは言い切れないだろう。

資源から非資源にパッと変われるほど甘くはない

 5大総合商社の中で、ただ一社わが世の春を謳歌するのが、16年3月期の純損益で初の首位に立つ伊藤忠商事で、今期3300億円の黒字を出す見通しだ。昨年、6千億円もの出資となった中国のコングロマリットである中信集団(CITIC)が利益に寄与するなど、非資源分野で利益のほぼすべてを稼ぎ出す。資源分野では昨年既にシェールガス事業からの撤退を完了している。

 では、今後の商社は、資源から非資源分野へとポートフォリオを変えていくのだろうか。最大の資源需要国であった中国の経済は減退しており、原油も先日、サウジアラビアのムハンマド副皇太子が、「他国が同調しない限り、減産は行わない」と明言したようにシェールガスを含めたロシア、イランなど産油国の我慢比べは当面続く。

 しかし、たとえ資源分野の比率は下がっても商社がこの分野から抜け出ることはなさそうだ。資源価格の低迷は、鉱山や油ガス田など資産を安く仕入れられるチャンスでもある。実際、この機に逆張りで攻める意図すらある。昨年秋に三井物産が豪州で手に入れたキッパーガス田などは、安永竜夫社長によれば「掘り出し物」というくらいだ。それは各社も同じのようで、相場が悪くても稼げる資産が獲得できるかが今後のカギとなる。

 もちろん、非資源分野のさらなる強化は必要だ。既に三菱商事はノルウェーのサケ養殖大手セルマックの買収やアフリカに強い食糧卸のオラムへの出資を行っている。さらに、それを主導した垣内威彦常務がこの4月から社長に就いた。三井物産もブラジルで農業生産、物流を行うマルチグレインを完全子会社化、丸紅も同社最大の投資となった穀物大手のガビロンを買収するなど、どの商社も大きな金額を動かしている。ただ、どこも予想どおりの結果を生んでいないだけだ。資源がダメだから非資源で稼げるほど甘くはない。盤石に見える伊藤忠商事とて、CITICにともに出資するタイのCPグループの融資分を肩代わり(3月末に返済済み)していたことなど、どこに不安の種があるかは分からない。

 経営トップとすれば資源だろうが、非資源だろうが、どんな地合いでも稼げる資産、仕組みがほしい。5年後に稼ぐ仕組みを生むための模索が続く。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る