政治・経済

創業100周年を迎える2019年に「アジアNo.1の流通・生活支援ソリューションプロバイダー」「社会から一番愛され信頼される会社」になることを目指すヤマトグループ。そのための重要な取り組みである「バリュー・ネットワーキング」構想を推進する山内雅喜・ヤマトホールディングス社長に話を聞いた。聞き手=本誌/榎本正義 写真=佐藤元樹

現場視点とテクノロジーが新サービスを生み出す

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(やまうち・まさき)1961年長野県生まれ。84年金沢大学文学部卒業後、ヤマト運輸に入社。2005年4月執行役員東京支社長、同年10月執行役員人事総務部長、07年ヤマトホールディングス執行役員、08年ヤマトロジスティクス社長、11年ヤマト運輸社長、15年4月現職に就任。

―― 今年1月に、宅急便が40周年を迎えました。

山内 当社の宅急便に代表される個人のお客さまを対象とした宅配サービスは、40年前には存在していませんでした。それが今や社会的インフラの1つとなっています。そうなるに至った強みは、3つあります。

 まず、日本全国に非常にきめ細かい配送ネットワークを作りあげたこと。次にクール宅急便や、今では当たり前になった時間帯お届けサービスなど、新しいサービスを生み出す開発力があったこと。最後に、社員がお客さま一人ひとりの喜ぶことを自ら考え行動する、きめ細やかな対応力があったことです。

―― その3つの強みについて、もう少し詳しく聞かせてください。

山内 まず、ネットワークですが、山間部や離島を含めて、日本全国どこでも荷物を届けることができるようになりました。ただネットワークを作るだけならば、お金をかければできますが、われわれは普段の業務を通じてお客さまの困りごとやニーズを吸い上げることができるため、それに応えた新しいサービスを開発し、提供し続けてきました。これは2つ目の強みである、開発力と関係しています。この開発力の源泉となっているのは、「お客さまに喜んでいただきたい」という社員の気持ちです。

 例えば、スキー宅急便は長野県で働くセールスドライバーが、スキー板をかついで移動する大変そうなお客さまの姿を見て発案したものです。時間帯お届けサービスも、実際に現場で働く社員からの発案でした。このようにさまざまなサービスが現場の声から生まれています。これは3つ目の強みであるお客さま一人ひとりへの対応力につながっています。

―― 40年たって、今、宅急便が当たり前になっています。ここから何を目指して行きますか。

山内 今の若い人たちにとっては、生まれたときから宅急便があります。だからこそ、現在のライフスタイルに合わせて、お客さまから「これはいい!」と言われるような新しい“便利”を追求しなければなりません。

 例えば、LINEで荷物のお届け予定が分かり、受取時間や受取場所を、変更できるようにするなどサービスを強化しています。最先端技術を使ったサービスも注目されています。ドローンはすべての宅配荷物に活用できるとは思いませんが、山間部への配達や医療分野の緊急輸送など、活用できる領域は多いと思います。最新のテクノロジーを活用した新たなサービスはリーディングカンパニーとしてこれからも研究していきます。

「バリュー・ネットワーキング」構想で価値の創造を

―― テクノロジーで新たな価値を生み出すのですか。

山内 宅急便は誕生から40年がたっており、新たな価値創造が必要です。現在取り組んでいることは、「バリュー・ネットワーキング」構想です。これまでの物流は、A地点からB地点に荷物を移動させる機能に集中していました。しかし、われわれは宅急便のスピード輸送ネットワークに、製品の修理やメンテナンスといった物流加工などの新たな付加価値を付けることで、物流を単なるコストから“バリュー(付加価値)を生み出す手段”に変えることができると考えています。

―― 具体的にはどういったことでしょうか。

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ヤマトグループ第3のイノベーション「バリュー・ネットワーキング」構想の中核拠点となる羽田クロノゲート

山内 ヤマトグループ最大の総合物流ターミナルである「羽田クロノゲート」では、上層階に付加価値機能エリアがあり、そこでは例えば家電製品の修理を行っています。従来は、お客さまからお預かりした修理品を、修理拠点などに配送する必要があり、修理してお客さまのもとにお届けするまでに1週間以上かかっていました。それを、ヤマトグループのネットワーク上にある羽田クロノゲートで修理も行うことで、お預かり後最短3日でお届けまで完了します。

―― そうした付加価値がある物流サービスが主流になると。

山内 家電製品の修理以外にも医療機器の洗浄やメンテナンス、オンデマンドプリントなどのサービスも羽田クロノゲートで行っています。その他にもさまざまな取り組みがありますが、お客さまのニーズに合わせて、ヤマトグループが持つIT(インフォメーションテクノロジー)、LT(ロジスティクステクノロジー)、FT(フィナンシャルテクノロジー)の3つの機能を組み合わせていきたいと思います。

―― そのために羽田クロノゲートを作られたのでしょうか。

山内 まさにその通りです。それに加えて、羽田クロノゲートは海外との結節点ともなる重要な拠点となっています。さらに、国内ネットワークの効率化やスピード化を目指して、厚木、中部(三河)、関西(茨木)にはゲートウェイという新たな拠点を整備していきます。

 厚木は既に稼働しており、今年秋には中部、来年には関西でも稼働します。この3拠点が稼働すると、従来はヤマト運輸のベースと呼ばれる荷物の集約拠点間を深夜に一度運行していたトラックが、日中から五月雨式に運行することが可能になり、東名阪の主要都市間での輸送スピード向上、その結果として当日配達が実現します。これまで当日にお届けしたい場合は、企業は配達先の近隣に在庫拠点を持つ必要がありました。

 それが東京、中部、関西のどこかに在庫があればスピード輸送で結ばれることによって流通在庫を大幅に削減できるだけでなく、在庫拠点までも減らすことができます。

 さらには、国内にとどまらず、アジアにもこのサービスを展開して行きたいと考えています。そのための重要な拠点として沖縄があります。沖縄は地政学的にアジアの中心になり、沖縄を中心に4時間圏内で結ばれるエリアには約20億人の経済圏があります。昨年11月に沖縄グローバルロジスティクスセンター(サザンゲート)を稼働しました。これを活用し、これからはASEAN・アジアを中心に、ジャパン・ブランドの高品質な小口配送サービスを展開して行きたいと考えています。

この10年は次のステージへの投資期間だった

―― テクノロジーの進化とサービスの高付加価値化がポイントになると思いますが、課題もあるのではないでしょうか。

山内 少子高齢化の影響もあり、労働力の確保は大きな課題です。これには2つの視点があります。

 1つ目は、労働力をいかにして確保するかです。解決策の1つとして、現在多くの主婦や高齢者の方に活躍していただくなど、労働力の幅を広げる取り組みをしています。

 実は、われわれの仕事は非常に主婦や高齢者の方が働きやすい環境となっています。例えば、就業時間が短時間であることや勤務地が近いことなど、われわれの職場では、職住接近やチームで業務を行うことでお互いの時間の融通を利かせながら働いてもらうことが可能です。

 2つ目はサービスを提供する人が少なくなっても、これまでと同様に安心して使っていただけるサービスをどのように維持していくかということです。これに対しては、新しいテクノロジーで省力化もしくは生産性を向上させることなどの取り組みを行っています。これまでのターミナルに比べ、最新鋭のマテハン(マテリアルハンドリング=調達、生産、販売、回収などの物流現場におけるあらゆる取り扱い作業)設備を導入した羽田クロノゲートでは、従来比で約3割の省力化を実現しています。

 また先ほどお話しした、LINEで即座に連絡を取り合うなどお客さまの都合に合わせたお届けで再配達を減らす、駅や街中のロッカー、コンビニなど受取場所の多様化で配達そのものを効率化するといった、お客さまの利便性向上と省力化が一体になる取り組みを意識しています。将来的にはITを活用して、その日の最も効率的な配達ルートを自動で組むといったことも検討しています。このような取り組みを通じて、人材の確保と生産性の向上で直面する課題に対応していきたいと考えています。

―― 2016年3月期の連結営業利益予想690億円は06年3月期の687億円とほぼ同じです。10年間で利益成長がほぼゼロということになります。

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2000年の台湾を皮切りに、シンガポール、上海、香港、マレーシアで宅急便事業を展開

山内 確かに、直近10年間で利益はあまり増えていません。この背景には、社会環境の変化もありますが、これからの10年のための投資をしてきたという一面も影響しています。先ほどお話しした羽田クロノゲート、また厚木、中部、関西のゲートウェイ、新たな情報システムへの投資もあります。労働環境の整備にも力を入れてきました。これらが影響してきたのは事実です。言い換えれば、これまでの10年は投資の期間であったとも言えます。これからの10年でその投資をどのように成長へ生かし、実を結ばせるかという、ステージに入ると言えます。

 今、日本で提供されているサービスは、もっと海外に出ていくべきだと思います。安心して使える、きめ細かい心配りが行き届いた、ジャパン・ブランドといって申し分ないサービスがたくさんあります。日本のサービス業は世界で通用します。宅急便を世界に広げていくためにも、まだまだサービスの進化を追求していきたいと考えています。

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