政治・経済

アントレプレナーシップが低い日本の大企業

 

 アントレプレナーシップ(企業家精神)とは、現状でコントロールしている経営資源にとらわれることなく、ビジネスチャンスを追求するプロセスである。

 アントレプレナーシップが重要になるのは、新しい企業を起業するプロセスだけではなく、企業の規模にかかわらず重要になる。アントレプレナーシップを起業家精神ととらえ、起業のプロセスのみに関連するものと考えてしまうと、大企業におけるアントレプレナーシップの重要性が忘れ去られてしまう。

 日本の大企業のアントレプレナーシップはどうだろう。経営資源にとらわれずに、新しいビジネスチャンスをどれだけ発見し、それを追求しているだろうか。

 日本企業のROAのボラティリティは低い。その一方で、日本企業はキャッシュリッチでもある。つまり、キャッシュは持っているものの、新しいビジネスを求めて投資をしていない日本企業の姿が見え隠れする。アントレプレナーシップが高いとは言えない。

 既存の経営資源にとらわれることなく、ビジネスの機会を追求する程度を組織の中で高めるためにはどうしたら良いのだろう。

 そこでは、まず新しいビジネスの機会を認識しなければならない。新しいビジネスチャンスを発見できるかどうかは、既存のオペレーション以外の「スカンクワーク」をするスラックが組織にあるかが大切な要素である。スラックが少ない組織からは、新しいビジネスは起こりにくい。また、組織で働く人たちがどのようなネットワークを持っているかも新しいビジネスチャンスの発見にとっては重要である。

 密度の濃いボーイズ・クラブ的なネットワークだけでは、新しいチャンスを発見することは難しい。そこでは情報の流れは早いものの、流れている情報はいつも同じようなものである。

 このため、たまにしか合わないような人との弱いつながりが重要になる。それでこそ、新しい情報が流れてくるのである。

 

大企業のアントレプレナーシップ向上に必要なトップマネジメント

 

 新しいチャンスを発見するだけでは十分ではない。そのチャンスを追求していかなくてはならない。

 組織の意思決定において事前の合理性に焦点を当てたマネジメントでは、このチャンスの追求は進まない。ビジネスを行う前に、高い合理性を求められると、どうしても経営資源の動員の正当性の確保が難しくなる。

 事前の合理性を求められると、既存の「やったことがある」ビジネスのチューンナップに経営資源は流れてしまう。また、市場に最も近い現場が中心となるボトムアップ型のマネジメントではどうしてもラディカルなイノベーションを進めることは難しい。

 そこで、トップマネジメントの強いコミットメントが重要になる。新しいビジネスの創造が進んでいないとすれば、それはトップマネジメントに課題があると言って良い。トップマネジメントは、管理よりもむしろ、アントレプレナーシップに対する戦略的な認識を組織の中に創り出すことが求められる。

 新しいビジネスのチャンスを実現していこうとすると、自社内でやるよりは、スピンオフさせてスタートアップ企業としてそのチャンスを追求するほうが効果的な場合も多い。

 大企業の場合は、どうしても固定費用が高くなるため、損益分岐点が上がってしまう。そのため、大きな市場でなければなかなかターゲットとして狙えない。

 しかし、新しい市場は多くの場合は、最初の段階では小さいものである。そこで、スピンオフとして企業を新しく創り、新しいビジネスチャンスを追求し、そこでのビジネスが大きくなってきたら社内へと買い戻すということが米国の大企業を中心にして進んでいる。

 これは、インターナル・コーポレイト・ベンチャリングと言われ、米テキサス・インスツルメンツや3Mなど多角化した大企業の成長にとっては重要になってきている。

 日本の大企業の歩みは決して早いとは言えない。日本企業は長期的な視点に立っていたと言われるが、長期的な視点を持っていたのはトップマネジメントではない。

 最も長期的な視点に立っていたのは新入社員である。労働市場の流動性が低く、中途採用の市場がそれほど発達していない状況では、自分の将来と会社の将来が極めて密接に結び付く。そのため、新入社員が最も長期的な視点を持つことになる。

 CEOや事業部長の労働市場が発達していない日本においては、トップマネジメントのアントレプレナーシップを高めるインセンティブは高くない。新しいビジネスへの展開を積極的に行っているのはオーナー経営者が多いのもこのためである。

 日本企業こそアントレプレナーシップを組織的に高めるためのマネジメントが必要である。アントレプレナーシップを高めるためのマネジメントの在り方は、既存の経営資源のメンテナンスや事業戦略の遂行などのマネジメントとは決定的に異なっている。

 もちろん、この2つはバランスが必要であるが、自分の組織のマネジメントの在り方が、「業」を企てる「企業」によっているのか、既存のビジネスのメンテナンスをする「管理」に重きが置かれているのかは考えてみてほしい。

 

[連載] 世界で勝つためのイノベーション経営論
米倉誠一郎氏 & 清水洋氏の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る