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東北は地銀再編の「火薬庫」となるのか

地銀再編が次に盛り上がる地域として東北地方が注目されている。業界の盟主である七十七銀行や東邦銀行などは慎重姿勢を崩さないものの、将来的な経営環境の悪化を考えると、再編機運が高まる可能性は高い。最初に動くのは果たしてどこか。文=ジャーナリスト/大川 守

地銀再編に総じて慎重姿勢、盟主も動かず

 日銀のマイナス金利政策の導入が、地銀の再編を加速させるとの観測が強まっている。

 とりわけ再編の「火薬庫」になるとみられているのが、人口減少やオーバーバンキング状態が続く東北地方だ。かねてから金融庁は地銀再編を強く促している上、マイナス金利という「ダメ押し」が呼び水となる可能性も否定できない。

 「興味はあるが、われわれの問題としては考えていない」

 昨秋、七十七銀行(仙台市)の氏家照彦頭取は、東北の地銀再編についてこう断言した。足利銀行を傘下に持つ足利ホールディングス(HD、宇都宮市)と常陽銀行(水戸市)が経営統合することで基本合意した直後で、そのスタンスが注目されたが、「常陽と足利は首都圏を見ている。東北への影響はない」とも語った。また、東邦銀行(福島市)の北村清士頭取も「現時点では統合・再編は考えていない。必要になれば判断する」と述べるにとどめる。

 東北経済の中心である杜の都・仙台。ここに本店を置く七十七銀は預金量7兆1953億円(2015年3月末)を誇り、東北随一、全国の地銀でも有数の規模を誇る「盟主」だ。地元では「しちしち」の名で呼ばれており、「石橋を叩いても渡らない」と言われる堅実経営が特色。業績の懸念も少なく、再編には極めて消極的だ。

 七十七銀と同様、東邦銀も営業エリア内で圧倒的な存在感を発揮する。こちらも預金量は5兆1576億円(15年3月末)と他の第二地銀を圧倒。「東邦銀が第二地銀と一緒になることはまず考えられない」(地銀幹部)との見方が大勢だ。

東北の再編ターゲットは第二地銀か

 その一方で、業務提携などによる連携は着々と進む。みちのく銀行(青森市)、東北銀行(盛岡市)、北都銀行(秋田市)、荘内銀行(山形県鶴岡市)は農家が加工や販売にも携わる「6次産業化」を支援するファンドなどで連携した。

 また、青森銀行(青森市)、岩手銀行(盛岡市)、秋田銀行(秋田市)は、取引先の販路開拓に向けて情報共有する「北東北3行共同ビジネスネット」を展開している。こうした業務提携が再編の「引き金」になるのではとの見方も少なくない。

 むしろ、再編のターゲットは体力の小さい第二地銀になるかもしれない。東邦銀が圧倒する福島はまさにそうした状況だ。少子高齢化に悩まされる東北は総じて人口減の激しい地域が多いが、東京電力福島第1原発事故後の人口流出が止まらない福島はとりわけ深刻だ。

 15年国勢調査の速報値(10月1日現在)によると、県人口は191万3606人で、前回調査(10年)から11万5458人(5・7%)も減った。過去最大の減少幅で、人口も戦後最少だ。「経済圏自体が崩れつつある」(他県の金融関係者)状態で、他県の地銀が越境して経営統合するメリットは少ない。

 このため、福島では必然的に県内の再編が有力とみられている。東邦銀が圧倒する現状を考えると、経営的に芳しいとはいえない第二地銀の福島銀行(福島市)と大東銀行(郡山市)の経営統合から再編が始まる、との見方がもっとも自然なシナリオだと言える。

 「岩手は明らかにオーバーバンキング。いずれ再編は避けられない」

 あるアナリストはこう指摘する。岩手県は県内最大の岩手銀、戦後誕生した東北銀の第一地銀2行に加え、第二地銀の北日本銀行の計3行がひしめく。だが、この3行の合従連衡があるかというと、すんなりはいきそうにない。

 岩手銀行は三菱東京UFJ銀行が大株主だが、岩手県や県企業局も大株主となっており、実質は県が筆頭株主。一方で東北銀行は規模で岩手銀より大きく見劣りする。東日本大震災後に公的資金も受け入れており、カラーの違い過ぎるこの2行の統合には懐疑的な見方が多い。

 また、北日本銀行は県内のほか、宮城や青森なども店舗網を持ち、県内よりも青森・みちのく銀などが統合相手にはふさわしい、とみられている。

地銀再編に向けて経営統合に抵抗少ない経験者が主導?

 なかなか具体的な動きに発展しない東北の地銀再編だが、「いずれ確実に動く」(地銀関係者)とみられているのが、ともに第二地銀の仙台銀行(仙台市)と山形・きらやか銀行(山形市)が経営統合して12年に誕生したじもとHDだ。県境を越えた経営統合を実現させ、「やり手」と評判の粟野学社長が経営の舵を取る。

 その格好の相手とされるのが、傘下に荘内銀と北都銀を傘下に置く09年設立のフィデアHD。それぞれの銀行は山形、秋田にあるが、本店があるのはじもとHDと同じ仙台市内だ。しかも両社には経営統合へのアレルギーは一切ない。

 仮に両HDが統合すると、預金量は約4兆5千億円に上り(傘下銀行の単純合算)、他行を圧倒してきた盟主・七十七銀の背中も視界に入ってくる。

 次に再編を発表するのはどの連合か。それが東北の地銀連合であっても、全く驚きはない状況だ。

 

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