政治・経済

阪急阪神ホテルズの社長辞任にまで発展した関西発の食材偽装騒ぎ。問題は近鉄グループ、百貨店など全国に飛び火し、食の信頼は大きく崩れた。そこに見えるのは危機管理意識の希薄さと観光産業への影響だ。 (ジャーナリスト/宮城健一)

欠けた消費者の視点

大阪新阪急ホテル(大阪市北区・左のビル)の食材偽装騒ぎは近鉄グループ、百貨店と全国に飛び火した

大阪新阪急ホテル(大阪市北区・左のビル)の食材偽装騒ぎは近鉄グループ、百貨店と全国に飛び火した

 10月22日に行われた阪急阪神ホテルズの記者会見。井上豊・営業企画部長と奥村隆明・総務人事部長の2人が対応し、「メニューと異なった食材を提供し多くのお客さま、関係者の方々に心からお詫びいたします。今後は信頼回復に向け全力で取り組みます」と、謝罪した。

 大阪・北区の大阪新阪急ホテルでは牛脂を注入した加工肉に「ビーフステーキ」と書き加え、メニューには「芝海老」と表示していたが、実際にはバナメイ海老を使用。宝塚ホテルでは、「フレッシュジュース」と表示していたのにストレートジュースを提供するなど2006年3月から今年7月にかけて、8ホテル1事業部の23店舗で47種類の食材で偽装を行っていた。利用人数は7万8775人にのぼるという。

 同社が記者会見で繰り返したのが「意図的なものでなく誤って提供した」という説明。納得いかない記者側に押されて、日を改め2度目の記者会見となった24日には最高責任者の出崎社長の登場となる。

 ここでも「原因は現場の連携の不十分から誤って表記。偽装ではない」と説明。信頼回復のめどが付くまで、社長は報酬の20%を減額、取締役6人は6カ月10%、監査役3人は6カ月10%の減額とする処分を決定した。

 しかし、食材の仕入れから提供までの現場の事実関係の説明が十分ではなく、28日には社長自ら2回目の記者会見をすることになった。出崎社長は、料理担当の責任者を横に再調査の結果を説明。産地が異なった海老や豚肉、ネギなどの6種類の食材について問題のあった料理担当者や購買担当者ら26人を対象に、直接話を聞き調べ直したという。

 さすがに2回目の会見では「偽装と受け取られても仕方がない」と、偽装を間接的に認める表現に変え、22日の部長会見の甘さを認め「11月1日付で社長を辞任します」と、出崎社長は立ち上がり深々と頭を下げた。さらにこの間、同じ阪急阪神ホールディングス傘下で、阪神電鉄グループの超高級ホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪が同じ騒ぎを起こし謝罪したことが波紋を広げた。

 今回の騒ぎでは、危機管理のまずさを指摘する声は多い。

 「最初からトップクラスが記者会見に臨む覚悟を決め発表したほうがよかった。継ぎはぎだらけの印象だ」とある財界人は言う。そして、「社長自ら2回も同じことで記者会見するのも異例だ」と続ける。

 また、「多くのレストランで長期間、同時進行的にやったのでは〝誤った表示〟という言い訳だけではすまない。会社を守ることが第一になり、利用者の価値観と決定的に違っていた。広報の役割が問われる」と、手厳しく批判するのは大手電機メーカーの元広報部長だ。

 「社長辞任の裏にはホールディングストップの意向が強く働いたようだ」と指摘する人も多い。 出崎社長の後任には旧第一ホテルなどを経験した、ホテル生え抜きの同社取締役常務執行役員の藤本和秀氏(63歳)が11月1日付けで就任。非常勤の会長職が設けられ、同ホールディングス取締役の野崎光男氏(55歳)が兼務することになった。ホテルの現場出身者をトップに据えて、引き締めを図るのが意図だ。

観光都市への影響

 近畿日本鉄道グループでも、同じく社長が辞任する騒ぎが起きた。近鉄旅館システムズ(奈良市)の「奈良万葉若草の宿 三笠」では、豪州産の成型肉を「和牛ステーキ」と表示していたことなどが発覚。他のホテル、料理旅館4施設でもメニューと違う内容を使っていた。

 同社は前料理長と現料理長を配置換えし、メニュー表示については10月30日までに改善し、以後は総支配人、支配人、料理長が毎月1回メニュー、食材のチェックを行うことを発表したがこれで収まらなかった。

 北田宣之社長は意図的な偽装を否定したが、説明が途中で変わり、最終的には「一連の行為は偽装に当たる」と、謝罪し責任を取り辞任。当初「返金はしない」としていたが、これも「利用の内容に応じて返す」と方針を転換した。親会社の近畿日本鉄道の小林哲也社長も「遺憾で深くお詫びします」と謝罪するに至った。

 また、近鉄百貨店4店舗に入っていた料亭など、計9店で表示と異なる食材を使っていた事実も表面化した。騒ぎはさらに高島屋や大丸松坂屋、三越伊勢丹、著名ホテルなどにも広がり事態は泥沼化。この騒ぎに関係した店は、分かっただけでも400社以上あるという。

 阪急阪神、近鉄の両グループといえば、関西の財界ではリーダー的な存在だ。阪急阪神ホールディングスは、阪急電鉄、阪神電鉄、阪急交通社などを傘下に持ち、阪急阪神ホテルズはその柱の1つでもある。同ホールディングスの角和夫社長は、関西経済連合会副会長でもある。角社長は早速、森詳介関経連会長(関西電力会長)に陳謝、経緯を説明し「しばらくは財界活動を控え、信頼回復に努めたい」と伝えた。

 近鉄グループも大阪を起点に京都や名古屋にまで営業圏を持つ関西を代表する鉄道グループで、傘下に都ホテル、百貨店、スーパー、不動産など100社以上を抱え、影響は大きい。歴代社長が大阪商工会議所会頭を務め現会長の山口昌紀氏は関経連副会長に就任している。

 近鉄グループでいえば「観光・奈良」への影響も大きい。奈良県の観光客は10年に平城遷都1300年で4400万人に増加したが、11年には25%減の約3300万人まで減少している。今回の事件は、「観光復権」をめざし観光客の増加を図っていた最中の出来事だ。

 政府は関係省庁を通じて、外食関連業界を一斉調査に踏み切る。消費者庁は景品表示法違反の疑いで阪急阪神ホテルズとザ・リッツ・カールトン大阪を立ち入り検査した。今回の食材偽装騒ぎは、数年前の〝吉兆事件〟の記憶を呼び起こす。「食の大阪」「観光都市・大阪」のイメージを大きく損なうものとなった。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

永田町ウォッチング

一覧へ

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る