国際

経済共同体の発足で発展への期待が高まるASEAN

 現在、東南アジア諸国連合(ASEAN)の景気は全体的に低迷気味だ。

 2015年の実質GDP成長率は、例えばシンガポールが2.0%、マレーシアが5.0%、タイが2.7%、インドネシアが4.8%等、主要国でいずれも前年比マイナスに陥っている。

 韓国サムスン電子がスマートフォンの一大生産拠点として巨額の投資を行い、中国への輸出依存がほとんどないベトナムだけが、例外的に6.68%の高い成長率を達成している状況だ。

 とはいえ、域内で6億人以上の人口を抱え、生産拠点としても将来のマーケットとしても有望視される同地域に対する注目度は相変わらず高い。

 15年末にはASEAN経済共同体(AEC)が発足し、10カ国間で輸入関税の撤廃、物品、サービス、人、資本の移動が徐々に自由化されていくことになった。まだ目に見えた効果が現れているわけではないが、こうした動きも世界の投資家の関心を引いている。

 こうした中、シンガポール、マレーシア、タイといった経済発展で先行する国々は、ASEAN域内の貿易量増加、域外への輸出増加に向けて、より高度な産業を国内に育成することを目指す。

 域内労働者の受け入れ先となるのも主にこの3カ国で、シンガポールやマレーシアにはインドネシアやフィリピンから、タイにはミャンマー、ラオス、カンボジアといった国々から、低賃金労働を担う人々が移動していくとみられている。

20160524_ASEAN_SORON01 例えば、タイは00年代半ばから中国の次の製造拠点として注目され始め、既に日系メーカーが大量進出している自動車産業以外でも、拠点を設立する動きが加速した。そのタイでも人件費が高騰し、労働者の確保が難しくなる中、今度はCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)が新たな進出先として候補に挙がるようになった。

 投資先として、各国には一長一短がある。カンボジアは労働力が豊富で早くから外資の工場誘致に動くなど、ある程度のインフラは整っているが、かつての内戦や政治的混乱の影響で人々の教育水準は高くない。

 ラオスは人材の質が高く、電気などのインフラも問題ないが、労働人口が少ない。ミャンマーは労働力は豊富だが民主化されたのはつい最近で、進出にはリスクが大きかった。

 企業が新たな進出先としてどの国を選ぶかは、進出の目的、事業形態、経営リソースなどにもよるが、しばらくは最も低リスクで安定的な展開が見込めるタイにとどまるという日系企業も依然として多い。生産拠点としてだけではなく、各国の内需がどれだけ拡大し、市場としての魅力が高まるのかも、進出先を見極める重要なポイントだ。

 

ASEAN内に広がる経済格差

 

 多国間の経済協定ということで、AECはよく欧州連合(EU)と比較される。しかし、決定的に違うのは加盟国間の格差で、1人当たりGDPトップのシンガポールと最下位のカンボジアとの格差は実に50倍以上。これだけ格差があれば富める国と貧しい国が目指す方向性は大きく変わってくる。そのため通貨統合など夢のまた夢なのは言うまでもない。20160524_ASEAN_SORON02

 EUでも大ざっぱな役割分担として、金融の中心はロンドン、製造業はドイツ、少し前まで低賃金の労働力の供給は東欧諸国が担ったこともあった。

 こうした分業体制が、ASEANにおいてはよりハッキリしてくるかもしれない。各国が得意分野を生かして協力し合うことがAECの理念で、人々が各国間を自由に移動できるようになることで、賃金格差がなくなっていくという見方もある。

 その一方で、労働者が周辺国に出稼ぎに行くばかりで国内に産業が育たなければ、後進国は単なる「搾取の対象」にされ、格差がさらに開く可能性もゼロではない。

 政治体制においてはベトナムやラオスのような社会主義国もあれば、宗教も仏教、イスラム教、キリスト教が混在するASEAN。経済共同体を構築するにあたって、こうした多様性は障害となるのか、それともエネルギーの源となるのだろうか。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る