政治・経済

証券業界に再編の噂が駆け巡り始めている。その背景にあるのがアベノミクスの息切れと言えるような株式市場の混迷である。「貯蓄から投資へ」の掛け声とは裏腹に、証券業界には「単独生き残りか、経営統合か」という岐路に近づいている。文=ジャーナリスト/田村啓一

顧客不在は最悪レベルを超える

 「完全にお手上げだ」

 ある中堅証券の幹部は、昨年から続く株式市場の混迷にやり場のない怒りをみせている。政府が唱える「貯蓄から投資へ」の個人資金の流れがほとんど途絶えきった状況が続いているからだ。その原因は株式相場の激しい乱高下にある。さまざまなキャンペーンを打ち出して「株式、投信による投資の勧め」を説いてきたものの、あまりに激しい株価の値動きによって、個人投資家たちの投資マインドが一挙に冷え切ってしまった。

 その上、日銀が2月に導入したマイナス金利政策も加わって、「顧客に売る商品がなくなった」と言う。せいぜい、顧客に勧めることができるのは「リート(不動産投資信託)くらい」だと言う。

 そんな厳しい事態が明らかになったのがゴールデンウイーク前に発表が相次いだ証券各社の2016年3月期決算だった。年度決算も大きく減益となったが、さらに第4四半期決算の内容が厳しかった。「証券、冬の時代」を告げるかのように赤字決算が続出したのだ。

 まず、業界トップの野村ホールディングスが税引き前利益(一般の経常利益に相当)レベルから100億円を超える赤字に瀕した。11年第3四半期以来18四半期ぶりの赤字決算である。欧米地域での人員圧縮に伴う退職金支払いが膨らんだことに加えて、全株式総数の約30%に相当する足利ホールディングス株式など保有株式の値下がりで減損処理を余儀なくされたのが直接的な赤字要因である。

 厳しい国際金融規制が導入される中で欧米地域の人員圧縮が不可避となったのはグローバル展開している野村ならではの桎梏と言える。一方、グローバル展開が乏しい国内専業の中堅証券クラスは、ほぼ100%の国内マーケット要因で赤字に陥った。

 「かつての証券不況の局面で、各社が大幅にコスト削減し損益分岐点を引き下げた。もはや、赤字決算はせずにやれると思っていたのだが……」

 中堅証券の幹部がこうぼやくほど、ここに来ての顧客不在ぶりは各社が描いてきた最悪シナリオのレベルをとうに超えている。しかも、その状況が今年に入って深刻化し、かつ、長期化の様相を帯びだした。

 こうした厳しい局面ではかつて、顧客に対して投信を次々に紹介し、乗り換え購入させる回転売買営業で手数料収入を稼ぎ出したものだが、「今は金融庁が回転売買を厳しくチェックしている」(中堅証券)ので、それは事実上、禁じ手となっている。

準大手、中堅クラスの生き残り競争

 そんな八方塞がりの事態の中で漂い始めたのが業界再編のムードである。

20160607SECURITYS_p01

個人投資家たちのマインドは冷え切っている(写真はイメージ)

 最近、それに拍車を掛けそうな出来事も出現した。三井住友フィナンシャルグループの傘下証券会社であるSMBC日興とSMBCフレンドの経営統合だ。メガバンクグループの証券部門の集大成といえば、それまでの話になるが、ある証券関係者はこうみている。

 「SMBCフレンドは、新興国高金利関連のファンドを積極的に販売したものの、市場環境の激変によって顧客に含み損失が増大しているはず。最近、厳しい立場にあった」

 もちろん、そうだとしても経営悪化というシリアスな話になるわけでない。だが、少なくとも、現在のような厳しい経営環境下において、同一グループ内の証券会社が統合を通じて効率化に向かえば、証券業界で生き残り競争のムードが高まるにちがいない。

 中でも、再編のインセンティブが先鋭化しておかしくないのが準大手証券である。東海東京証券を傘下に有する東海東京フィナンシャルホールディングスと岡三証券を中核とする岡三証券グループは、独立系証券の中では、野村、大和に次ぐポジションで第3位を競い合っている。前者の東海東京が愛知県、後者の岡三が三重県という、ともに中京圏を発祥基盤とする部分も共通しており、いずれが第3位のポジションを確固たるものにするのかは、ひとえに経営統合の巧拙にかかっていると言っても過言ではない。

 実際、東海東京FHのトップ、石田健昭社長は「積極的な再編論者」として証券業界では知る人ぞ知る人物だ。「中堅クラスとの統合」の意欲を赤裸々に外部に語ってはばからないほどであり、具体的に中堅証券クラスに秋波を送っているという事実もある。今のところ、それが結実したわけではないが、現下の厳しい経営環境が一段と長期化すれば、機が熟する可能性は否定できない。

 もちろん、準大手証券クラスだけではなく、中堅証券同士が大同団結する選択肢もないわけではない。統合によって、準大手クラスに割って入るというシナリオである。中堅クラスは関東、関西、あるいは中国地域など発祥地盤にそれぞれ独自性を有しており、統合効果が得られやすいというメリットもある。

 「貯蓄から投資へ」がなかなか進展しない情勢下にあって、むしろ、「単独から統合へ」への流れが証券業界で奔流化することは決して絵空事ではない。少なくとも、現状のような市場環境の悪化はそれを後押しするに違いない。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る