政治・経済

かつて「45/47体制」と呼ばれる航空規制があった。その規制下ではANAの国際線は近距離のチャーター便しか認められていなかったが、1986年3月3日、悲願の国際線定期便・成田―グアム線を就航した。あれから30年。今では、40都市60路線を結ぶまでになっている。近年、さらに成長のスピードを増す国際線について篠辺修社長に話を聞いた。聞き手=本誌/古賀寛明 写真=山内信也

篠辺修社長が振り返るANA国際線

―― 1986年の国際線定期便就航時にはどちらの部署に。

篠辺 ちょうど入社10年目の頃で整備本部の技術部におりました。就航先に整備体制を整える準備や、グアム線はトライスター機を飛ばしましたので、トイレの数を増やしたり、ギャレー(厨房施設)を設けたりと機材を国内線の仕様から国際線仕様へ変更しましたね。会社に入ったばかりの頃、先輩たちが「いずれ、全日空も国際線に出なきゃならん」と言っておりましたから、それがようやくかなったな、当時そんな思いを抱きました。

―― ただ、就航後も苦しい時期が続きました。

20160607ANA_P01

(しのべ・おさむ)1952年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、全日本空輸(現ANAホールディングス)入社。主に技術、企画畑を歩む。2007年にはB787導入プロジェクト長を務め、13年4月より全日本空輸社長に就任。

篠辺 (苦笑)そうですね。参入当時は、サービスの中身も素人的でした。例えば、それまでのチャーター機は国際線と言えどファーストやビジネス、エコノミーといった3クラスではなく、団体旅行向けの1クラスでしたから、食事や飲み物を人数分用意するといったサービスでした。ところが定期便になると、就航後すぐに747型機を飛ばしましたからファーストクラスへの対応が必要となりました。ほかの航空会社のファーストクラスやビジネスクラスにはコンセプトというものがあるのですが、われわれはまだそんなレベルになく、例えばお酒は、高価なものがファーストクラスで、次がビジネスクラスといった程度でした。今のように、この季節に、このシェフとコラボするからこういった機内食を提供しよう、なんて意識はなかったですね。

 ただ、お客さんにしてみれば他社と比較するわけですから、特に飛行機に乗り慣れた方からは「何やってるんだ」とお叱りを受けた客室乗務員はたくさんいました。褒められる時でも、「あんたのところは一生懸命でいいね」といった具合でした。少しでもサービス向上につながればと採算を度外視してビジネスクラスの座席数を減らす掟破りとも言える戦略も含め、試行錯誤の繰り返しでしたね。

―― 撤退という話は出なかったのですか。

篠辺 もちろん、中期経営計画をつくるたびに、「国際線はいつ黒字化するのか」、「展望はあるのか」という質問は多く頂きました。一方、社内では、人口動態や新幹線整備が進む現状を考えれば、長期的な国内線の成長は見込みにくく、やはり国際線で成長するしかないという意識でした。でも、10年以上やって赤字です。だから、どうやって国際線で利益を出しながら拡大するビジネスモデルをつくるか。それが、最大の課題でしたね。

―― 黒字への転機は。

篠辺 きっかけになったのは、99年にスターアライアンスに加盟して、欧米のキャリアから国際線のプログラムやマーケットの分析方法、考え方などを教えてもらったことでしょうね。われわれがやっていたこととは全く違っていました。その頃には、収益が上がる路線、うまくいかない路線の区別ができるようになっていて路線の整理もだいぶ進み、もう少しで黒字化というところまできていました。ところが、ちょうどその頃に9.11(米同時多発テロ)が起こったのです。

ANA国際線の黒字化を達成したビジネスモデルとは

20160607ANA_2 それから、世界中の需要が一気に収縮してしまいました。しかし、その間も国際線のビジネスモデルやマーケティングについては学び続け、ユナイテッド航空などとジョイントベンチャーの話も進めていましたから、今にして思えば黒字化への道は着実に歩んでいましたね。

 21世紀の始まりにSARS(重症急性呼吸器症候群)もJALとJASの完全統合(2004年)もあり、逆風の中ではありましたが、国際線のビジネスモデルの転換と併せて、04年度にようやく黒字化を果たしました。

 大橋洋治社長の最終年度で、黒字化への思いは一層強かったですね。9.11の影響もまだありましたから「(黒字の達成は)高いハードルです」と申し上げたのですが、「とにかく利益を上げるぞ」と、社長が聞いてくれないもんですから、必死でしたね(笑)。

―― 黒字化を達成したビジネスモデルは。

篠辺 21世紀に入った頃から他のスターアライアンスの航空会社とのジョイントベンチャーである共同運航便を使って、国際線のネットワークと接続ダイヤを考えるハブ型へ移行していったのです。ハブ型モデルは、乗継ぎを良くするわけですから、混んでいる時間帯に飛行機を集めなければなりません。ただ、発着枠は限られていますから新参者はなかなか入れないわけです。ですから半年ごとに調整する会議で、少しずつ乗り換え時間を短くするなど接続を良くしていきました。

 例えば、スターアライアンスのメンバーであるタイ航空で日本に来た方が、われわれのロサンゼルス便に乗り継ぐなど、米州とアジアの接続時間が短く便利であれば外国の方にも選んでもらえます。一度、乗っていただければ、「意外とサービスが良いじゃないか、ANAはどこの国の飛行機だ。ジャパンだ。えっ、聞いたことない」。でも、そう言いながら、何度もご利用いただける。つまり、接続を重視するハブ型モデルというのは日本と海外の行き来だけでなく、日本を経由する方にも乗っていただくことも重要なテーマです。日本を経由するお客さまにもご利用いただき、黒字化につなげていくビジネスモデルなんです。

 利益を生み出すためには、東京をハブにして、世界の需要を取り込まねばなりません。今はハブ間競争になっているわけです。国内線の亜流から始めた国際線のビジネスモデルを磨き続けて、今の形になっていったというわけです。

30年目のANA国際線の新たな需要の開拓とは

―― 30年を迎えて、昨年も新規に4路線開設しましたが、それもハブ化の延長線上に。

篠辺 そうですね。05年くらいから、リーマンショックの一時期を除けば、年間10%前後ずつ有効座席キロ(ASK:航空会社の生産量を表す指標)を伸ばしてきました。羽田空港の国際化や国際線枠増枠のタイミングでは、20%程度増加しました。その後、羽田空港は一段落しましたが、成田空港には発着枠にまだ余裕があるため昨年の4路線開設のように拡大しています。黒字化する少し前から接続重視のモデルを継続しています。

―― しかし積極的ですね。

篠辺 はたから見ればかなり積極的だと思えるかもしれません。ですが、世界で考えてみるとASKでみた場合、04、05年には世界のベスト10を狙える位置にいました。しかし、今はこんなに事業拡充しているにもかかわらず、世界の中で順位は下がっているのです。欧米を見ますと、米国ではユナイテッド航空がコンチネンタル航空と一緒になり、デルタ航空もノースウエスト航空を吸収し寡占化が進んでいます。欧州を見ても同様です。さらに、中東勢や中国のエアラインが猛烈な勢いで伸びています。

 つまり、われわれも事業拡充していますが、世界を見ればさらに速いスピードで勢力を拡大しているのです。日本に経済力があれば多くの外国の方が来られますが、みんな海外の航空会社に乗って来られるのであれば日本の航空業界としては残念な話です。だからこそ、こうした競争に勝ち抜かなければならない、そう考えているのです。

―― 今年発表した中計でプレジャー路線に注力とありましたが、ビジネス以外の新たな需要の開拓ですか。

篠辺 今まで、どちらかと言えばビジネス渡航需要優先で事業拡充を進めてきましたが、今後はファミリーにも目を向けようということです。せっかくビジネスで利用していただきマイレージを貯めていただいても、「ハワイ路線でマイル交換ができないじゃないか」といった声をよく頂いていたんです。世界を見れば、まだネットワークの拡充は必要だと思っていましたので拡充をしながらお客さまの期待にも応えるということです。それで、A380型機という総2階建ての大型機をホノルル線に導入(19年に就航予定)することになりました。大型機でなく便数を増やせばいいのではと考えがちですが発着枠は限られています。しかも、大きな飛行機でゆったりとした空間を有効に使うことができる。

 これからは乗った時からゆったりとした気分で旅をしていただく、そういうコンセプトでリゾートの概念を変えよう、そしてリゾート便のシェアも拡大していこうという意図です。リゾート路線は国際線だけでなく石垣島や宮古島など国内線においても充実させていきます。

 この数年の間に、「ビジネスで貯めたマイルを使ってどちらのリゾートに行かれますか」といったお話ができるようになるはずです。これまでのように、恥ずかしそうにではなく、胸を張って言えるようになる。ぜひ、ご期待ください。

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