政治・経済

4月1日より、前任の二宮雅也氏に代わり損害保険ジャパン日本興亜の社長に就任した西澤敬二氏。2014年の損害保険ジャパンと日本興亜損保の2社統合の際には、現場の責任者として指揮を執った実績を持つ。持ち株会社である損保ジャパン日本興亜ホールディングス(SOMPOホールディングス)が介護や住宅リフォームなど異業種への参入を加速し、巨大な事業体へと進化を遂げる中、グループ中核企業のトップとしてどんな手腕を発揮するのか。 聞き手=本誌編集長/吉田浩 写真=佐藤元樹

損害保険ジャパン日本興亜の社長に就任した西澤敬二氏

―― トップとしてまず着手したいことは。

20160607SONMO_P01

(にしざわ・けいじ)1958年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学経済学部卒業後、80年安田火災海上保険入社。損害保険ジャパン執行役員営業企画部長、常務執行役員等を経て、2010年取締役常務執行役員。13年取締役専務執行役員、14年代表取締役専務執行役員、15年損害保険ジャパン日本興亜代表取締役副社長執行役員を経て、16年4月より現職。

西澤 当社は損害保険ジャパンと日本興亜損害保険の合併で誕生しましたが、過去を振り返ると7社が統合してできた会社ということもあり、器が大きくなるにしたがって、いわゆる大企業病のリスクが出てきています。意思決定のスピードが以前より遅くなっている気がするので、もっと現場中心の体制にしていきたいですね。本社でデータを分析し、さまざまな指示を与えるというフレームワーク自体は悪いことではないのですが、さらに成長するために、もう一度現場中心の会社にしていく必要があります。

―― 前任の二宮社長も現場への権限移譲を強調していましたが、まだ不十分だと。

西澤 地区本部に権限を委譲する連邦経営を進めていますが、それだけでは不十分です。地区本部の本部長が権限を行使するだけでは、現場にしてみれば単にミニ本社がたくさんできたのと変わりません。もっと現場に降りて、最小単位の組織が一定の権限移譲を受けて機能しないと会社は強くなっていきません。二宮さんもそれを目指していましたが、今後は連邦経営をもっと進化させることが課題です。

―― 具体的にはどんなことを。

西澤 制度面と従業員個々のメンタル面の双方が大事です。例えば、会議のやり方や意思決定プロセスなど仕組みの面をシンプルにすると同時に、従業員ともとことん議論したいと思っています。私が経営企画部門の担当役員だった時代にも、経営の基本である業務コンプライアンスやリスク管理の委員会を残して、それ以外の委員会はすべて廃止しました。

―― 経営企画部門の責任者として、2社統合では相当苦労したのではないですか。

西澤 分岐点はたくさんありましたが、商品、事務、システムすべてを損保ジャパンに片寄せしたことが一番の英断でした。2010年から始まった統合プロセスで、両社のより良いものを合わせて商品や体制を追求してきましたが、システム統合のリスクはそのままお客さまのリスクになるので、安心・安全を最優先しました。合理的な判断として、多くの顧客を持つ会社のほうにいったん片寄せした上で品質を磨いた方が経済合理性も高く、混乱も少ないと考えたのです。日本興亜出身の二宮さんにとっては苦渋の選択だったかもしれませんが、かなり早い段階で決断されました。その決断の早さによって、ほとんどお客さまに迷惑をかけずにシステム統合をやり遂げられたと思います。

―― 日本興亜側から不満は出ませんでしたか。

西澤 当初は、従業員の間に不安や不満はあったと思います。損保ジャパンの従業員も、合併前に自分の仕事を抱えつつ日本興亜の人たちに教えなければという点で負担感があったと思います。お互いに不安はありましたが、実質的な合併を行う中で融和していきました。

現場主義の進化と損害保険ジャパン日本興亜の今後の展開

―― 最近ではコールセンターにAI(人工知能)を導入するなど新たな試みも行っていますが、今後の展開は。

西澤 基本はやはり現場主義です。そこを経営の本質に据えることは変わりません。ただ一方でデジタルの世界においては、最先端の研究をどんどんやらないとグローバル競争で置いていかれます。重要なのは、まず生産性を上げること。ものすごい量のビジネスインテリジェンスツールが世の中に出てきているので、すべての業務プロセスを見直し、最先端技術をどんどん現場に取り込むように本社内の各部署に指示を出していきます。これは現場というよりは本社の役割ですね。

 もうひとつ重要なのは品質で、中でも一番大事にするのは「お客さま接点品質」です。こちらはリアルとデジタルの双方で取り組む必要があります。当社には代理店チャネルがあり、営業職員や保険金支払サービス部門の社員がいて、24時間365日コールセンターを稼働させて、ウェブも活用してというふうにお客さま対応をマルチチャネル化してきましたが、それだけでは足りません。例えばお客さまが事故を起こして代理店に電話しても、いったん電話を切って数時間後にかけ直したら出てくれず、コールセンターに連絡してまた一から説明しなければいけないといった状況が多々見られます。瞬時に各部門で情報が連携されなければ、品質の高いサービスは提供できません。環境変化が激しいので、いかにお客さまの立場でものを考えられるかが企業の優劣を決すると思います。

 そして、お客さまの価値創造。今はテレマティクス技術を活用した商品なども提供していますが、こうした商品・サービスを徹底的に磨いていきます。そして、私自身まだハッキリとした解はないのですが、デジタルの力を使って全く新しいビジネスモデルができる可能性があると考えています。仮に、グーグルやアマゾンがこの業界に乗りこんで来るとしたら、どういうビジネスを彼らはやるのかと思いをめぐらせないといけません。

 われわれは相当なビッグデータを社内に持っていますが、まだデータベースを十分に解析できる状況になっていません。そういうことにしっかり取り組んで、これからお客さまが何を望み、どんなビジネスが求められるのかを探求していきたいと思います。

―― 場合によっては、グーグルやアマゾンと組んでしまうほうが早いかもしれません。

20160607SONMO_P02

西澤 もちろん、そういうケースも考えなければいけませんが、われわれにしかないリソースがあるのも事実です。何日入院したらいくら医療保険が下りるといった話はすべてAIが手掛けるようになるかもしれませんが、事故の査定やフェーストゥフェースの示談交渉などの部分はロボットでは難しいですし、全国津々浦々にネットワークを持っていないと充実したサービスは築けません。その点で、われわれには非常に大きな優位性があります。その優位性を保ったままデジタルの研究を進めることによって、グーグルやアマゾンよりも良いものを提供できると考えています。

―― グループとして介護など異業種に参入していますが、損保事業とはどのようなシナジーが考えられますか。

西澤 介護事業の買収については、私自身が新事業開発の役員として交渉に当たってきました。後任には、2〜3年は特にシナジーは考えなくてよいと言っています。当社が目指す「安心・安全・健康のテーマパーク」を作るための最低条件は、それぞれの事業がお客さまに自信を持って紹介できる品質を持っていることです。介護業界はいまだにレピュテーションリスクをはらんでいる未成熟な業界ですので、もっと安心・安全の部分を拡充していかなければいけません。デジタルを活用できる部分もあるでしょう。たくさんの現場を見てきた結果、われわれができることがあると確信しています。

 既存の損保事業には2千万人のお客さまがいるので、その中には介護を必要とされている方がたくさんいます。ただ、介護だけで2万人以上が働く事業体になっていくわけですから、従業員のためにも入居者のためにも、生産性や品質を高めることに注力するのが先決です。シナジーはその後で考えればよいと思っています。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年8月号
[特集]
パナソニック新世紀

  • ・総論 家電事業でもB2Bでも根底に流れる「お役立ち」
  • ・樋口泰行(コネクティッドソリューションズ社社長)
  • ・B2Bに舵を切るパナソニック
  • ・パナソニックのDNA 家電事業の次の100年
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・パナソニックの家電を支えた“街の電気屋”の昨日・今日・明日
  • ・テスラ向け電池は量産へ 成長のカギ握る自動車事業
  • ・パナソニックとオリンピック・パラリンピック

[Special Interview]

 津賀一宏(パナソニック社長)

 変化し進化し続けることでパナソニックの未来を創る

[NEWS REPORT]

◆商品開発に続き環境対策で競い合うコンビニチェーン

◆サムスンを追撃できるか? ようやく船出する東芝メモリの前途

◆スバル・吉永泰之社長はなぜ「裸の王様」になったのか

◆「ニーハオトイレ」は遠い昔 中国を席巻するトイレ革命

[政知巡礼]

 木原誠二(衆議院議員)

 「政治が気合を持って、今のやり方を変えていく覚悟を」

ページ上部へ戻る