
現実的目標は一部残留が創設133年目で初優勝
イングランドのほぼ中央に位置するレスターというまちのことを初めて知ったのは今から6年前のことだ。現在は浦和レッズでプレーする阿部勇樹が浦和から当時イングランド2部リーグに所属していたレスター・シティーに移籍したのがきっかけだった。
レスター・シティーのOBには元イングランド代表FWで1986年メキシコW杯で得点王のゲーリー・リネカーがいる。
余談だがリネカーと言えば、日本での評判はイマイチだ。Jリーグ創設時に名古屋グランパスエイトに所属し、期待されながら2シーズンで、わずか4得点に終わってしまったからだ。
そのリネカーが結果的に韓国との共同開催になった2002年日韓W杯が決定する前、日本の治安の良さや行き届いたホスピタリティーをFIFAにアピールするなどして、ロビー外交に一役買ったという話を元日本協会会長でFIFA理事を務めた小倉純二から聞いたことがある。
余談ついでに言えばリネカーはレスター・シティーに7シーズン在籍し、95得点を記録している。
ちなみにレスターというまちは、人口30万程度の中都市。インド系住民が4分の1を占めることで知られている。
昨季までドイツ・ブンデスリーガのマインツで活躍した日本代表FWの岡崎慎司がレスター・シティーに移籍した際、ホームタウンとクラブについて、サッカーファン以外で詳しく知る者はほとんどいなかったのではないか。
プレミアリーグは92年にスタートしたが、優勝クラブはマンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティー、アーセナル、チェルシーのビッグクラブとブラックバーンの5つである。
2014―2015シーズンの総収入は、以下のとおりだ。マンチェスター・ユナイテッド675億円、マンチェスター・シティー602億円、アーセナル566億円、チェルシー546億円。これに対してレスター・シティーは178億円と、およそビッグクラブの3分の1から4分の1。
一昨年、2部から昇格した同クラブの現実的な目標は「1部残留」。ヨーロッパリーグに出場できる5位に入れば御の字も御の字である。
それが創設133年目で初優勝を果たしたのだから、これはもう奇跡などというありきたりの言葉では片付けられない。
英国の老舗ブックメーカー・ウィリアムヒルの開幕前の優勝オッズは5001倍。
限りある予算の中で、いちばんの補強が岡崎だった。マインツからの移籍金は約11億円。今季、17ゴール11アシストと大活躍のMFリヤド・マフレズにいたってはわずか6400万円だ。
こうした額がいかに格安かはビッグクラブの例と比較すれば分かりやすい。マンチェスター・シティーがテクニックに長けたベルギー代表の司令塔MFケビン・デ・ブライネ獲得に要した資金は約86億円。チェルシーは万能型ストライカーのFWジエゴ・コスタを獲得するにあたり51億円もの大金を投じた。
翻ってレスター・シティーの主力組の移籍金は全部で約35億円。残留のための投資で頂点にまで上り詰めた。
カウンターアタックで弱者が強者を倒す戦術
イタリア人監督クラウディオ・ラニエリの堅守速攻を基本にした“弱者の戦術”がこわいほど的中した。
それは以下の数字にはっきりと表れている。ボールポゼッション率は20クラブ中、下から3番目の46%。パスの成功率も下から3番目だ。
ボールは持たせてもいいが、点はやらない。一転してボールを奪えば、手数をかけずにシュートにまで持ち込む。絵に描いたようなカウンターアタックは、弱者が強者を倒す上での見本だった。
このシンプルな戦術を可能にしたのが、今季24得点のエースストライカー、ジェイミー・ヴァーディである。4節から14節にかけてプレミア記録となる11試合連続ゴールを記録した。
岡崎の“縁の下の力持ち”ぶりも記しておきたい。ゴール数こそ5だったが、労を惜しまないチェイシングはラニエリからも次のような評価を受けた。
「オカザキはとても重要な選手だ。他の選手と連携してしっかり自分の役割を果たしていた」
ラニエリが強調した「ハードワーク」は、岡崎の献身があったから可能だったと言えなくもない。
その岡崎はNHKのインタビューで「このチームにおいてハードワークは誰もがするもの。その中で自分の武器を磨かなければならない」と語っていた。
レスターでの経験は日本代表においても、間違いなく生きてくることだろう。(文中敬称略)
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