マネジメント

 前回、日本式経営の特徴や経営者の育成方法に関して独自の論説を展開した冨山和彦氏。今回も会社という存在やガバナンスの本質について、広く深く話は及んだ。

経営者にとって厳しいトヨタのスキーム

牛島 今回は企業と株主との関係からお話をしていきたいと思います。まず、長期保有の株主に複数議決権を認めるという話がありますが、これについて冨山さんは肯定的なのでしょうか。

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(とやま・かずひこ)1960年生まれ。85年東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。92年スタンフォード大学経営学修士(MBA)取得。ボストンコンサルティンググループを経て、2003年産業再生機構に参画、COO就任。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立、現在に至る。

冨山 肯定的ですよ。例えば、5年間保有を前提とした種類株式を導入したトヨタのスキームも肯定的にとらえています。

牛島 私は、トヨタのスキームが出た時に世の中が思いのほか否定的な反応をしたことに驚きました。あのスキームは、下手をしたら自分の首を切る人を自ら増やしている。5年で成果を出していなかったら、アメリカのそうした株主にファンドから電話がかかってきて、「首にしよう」となるかもしれない。これだけ、経営者が自分自身を追い詰める仕組みにして何が悪いのか、と感じます。

冨山 短期的視点で株主の利益を反映させるのが、この20年ほどのアメリカ型のコーポレートガバナンスです。しかし、今回のコーポレートガバナンス・コードは、従業員、地域共同体などへの責任として企業が持続的に成長することを目指している。ステークホルダーの中で株主は当然重要な立場ですが、あくまでもステークホルダーの1人です。この発想なら、トヨタの姿勢は全く問題がありません。

牛島 ただ、ショートターミニズムの投資家がいなければ、株式市場は存在し得ないですよね。売買があればこそ、長期保有志向の株主にもメリットがある。それは無視できません。

冨山 ガバナンスに関与するということは、共益権をどう行使するかということなんです。売買によって生じる自益権も保障されている。財産権の問題として、自由な売買は担保されなければならない。一方、長期保有での共益権は、株主がもっぱら自分の利益のためだけに行使するものではありません。株主はステークホルダーの代表であるという考えに基づくと、ステークホルダー全体の利益を考えるものです。

牛島 どうやってショートターミニズムの株主の議決権を制限するかという点で疑問があります。現実にショートターミニズムの株主が経営陣の選出に大きな影響力を持っています。

冨山 私は多様性を認めるので、ガバナンスは各社で独自につくればよいと思います。ある会社は立憲君主制みたいなものでもいいいし、ある会社は思いきって短期株主におもねっていてもいい。株主はそこまで含めて、投資すればいい。今回のガバナンス・コードも、必ずコンプライアンスしなければならないわけではなく、自分たちは導入しないほうが絶対に良いと思ったら、そうすればいいんです。

企業は共同体ではなく事業を行う「器」

牛島 次に社外取締役についてですが、コーポレートガバナンス・コードは、社外取締役導入について、後押ししましたよね。

冨山 排他的共同体にくさびを打ち込むという意味では賛成です。だから、最初からハードローではなくソフトローでやるべきだと思っていました。

牛島 どういう形であれ、くさびを打ち込むことが優先するということですか。

冨山 私が考える美しい姿というのは、パリティが壊れて新しい均衡に向かうときに、多様なガバナンスをみんなが選ぶことなんです。例えばショートターミニズムに対応した株を発行する会社があってもいいし、議決権行使会社への対応も、さまざまでいい。それが理想です。

牛島 会社共同体への期待は捨てて、事業によって、次々と売買するのがこれからの企業経営だとも冨山さんはおっしゃっています。そうなると、会社でたまたま配属された事業部門が売買されたら、従業員の人生が大きく左右されることになりますが、それは問題ないでしょうか。

冨山 会社は事業をやるための道具ですから、本来そういうものです。人が集い、共に働く共同体は実在しますが、企業そのものは事業を行うためのよくできた器でしかありません。

20160524USHIJIMA_P02牛島 企業は、事業が基本単位で、複数の事業を展開するのはよくないのでしょうか。

冨山 そうではありません。複数の事業間でシナジーも見込めますし、インキュベーションプラットフォームとして、企業は非常によくできています。そこで出来上がった事業はどんどん独立していけばいい。ただ、社会的価値をつくっているのは、事業であって、雇用をつくっているのも事業です。

牛島 会社に入った人間からすると、たまたま配属された事業の業績が悪いのでほかに行かされるというのは、抵抗も大きいのではないでしょうか。

冨山 そういう人の使い方をする会社はそもそも衰退しているんです。スポーツに例えると、1つの会社にテニス事業部、サッカー事業部、野球事業部、水泳事業部などさまざまな組織があったとして、のどかな時代なら、ある程度の運動能力がある人間はどの事業部でも活躍できましたが、今はそんな時代ではない。20年間野球をやってきた人間が、いかに運動能力が高かろうと、テニスで活躍はできない。野球事業部の業績が悪いので、人をほかの事業に移しても、事業が駄目になるし、本人も自己実現できません。だったらもう野球はやめて、野球をやりたい会社に人員ごと譲るほうがいい。それをしないから、日本の総合電機メーカーは世界市場で負け続けてきたんです。私が再生を手掛けたカネボウでは、合成繊維事業が売却されて、今はピカピカの業績で、働いている人もバリバリ実力を発揮しています。

牛島 カネボウのケースでは、人員削減はあったのですか。

冨山 売却先では勝ち組になるので、人を切る理由がないんです。カネボウの合成繊維事業部は売却された後も工場は変わらず、やっている仕事も同じ、仲間も同じ、働く場所も同じで、看板が変わっただけなんです。

経営者にとって人事は聖域ゆえに抵抗も大きい

牛島 経営者の中には「いろいろな部署を経験できることが強みだ」という人もいます。

冨山 それはナンセンスです。私は正社員共同体幻想が多くの人を不幸にしてきたと思います。

牛島 それを変えていくにはどうすればいいのでしょうか。

冨山 企業統治改革ですね。企業とは何かを問い続けることが大事です。会社は事業の束であり、流動的に売却されることもあれば、買われることもある。そういう前提で働くということです。

牛島 そういう流れを踏まえて、社外取締役はどういう役割を担うのでしょうか。

冨山 まずは人の問題です。非常に本質的な経営の議論ができる人でないといけない。来期の売り上げがどうだといったレベルの話ではなく、会社の根本に関わる問題を議論するのが取締役会であり、そこに加わっていただくのが社外取締役ですから。

牛島 鶏と卵の問題ですね。取締役会がそういう場になるのが先か、取締役が変わるのが先か。

冨山 どちらが先でもいいんですが、あえて言うならまず社外取締役を増やすことでしょう。2つ目のポイントは人事権です。企業における最も重要な意思決定は、権力のコアの決定です。だから指名委員会でも選考委員会でもいいから作って、その過半数を社外の人がやって、そこで実質的に決めるべきです。また、重要なのは、社外取締役になった方のやる気の問題でしょう。

牛島 そこで前回の最後のお話にあった、社外取締役の任期が1、2年では短いという話につながりますね。私はそれに加えて、社外取締役を選んだ現経営陣のやる気も大事だと思います。

冨山 それは相互効果ですね。どちらから動きだしてもいいので、互いに刺激し合うべきです。

牛島 日本の会社が変化していくという点について、冨山さんは楽観的でしょうか。

冨山 全く楽観していません。だから、指名委員会あるいは監査役設置会社に来る指名諮問委員会を義務化することには、まだまだチャレンジするつもりです。今回のガバナンス・コードでその部分が見送られたのは、そこが最後の聖域だからです。

牛島 社外取締役に人事を決められることは、経営者にとって堪えがたいでしょうからね。

冨山 経営者の実質的指名権をこれまでは前社長など、OBが密室で、排他的に持っていた。これを引っ剥がしたい。歴史を見ると、組織のトップが後継者を自分で適切に選んだ例はほとんどありません。社長は未来に向かって選ばなければなりませんが、経営者は一番過去に縛られるんです。どれだけの時間をかけて客観的な評価を重ねて後継者を選んだのか、ということも重要です。だから社外取締役の責任は重いのです。

構成=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森

東芝と日立の決定的な違いとは――冨山和彦×牛島信(前編)

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