政治・経済

三菱自動車の燃費試験における不正行為が批判される中、スズキも国が定めた手法と違うやり方で計測を行っていたことが明らかとなり、消費者の不信感を煽っている。信頼性が売りの日本車メーカーで、立て続けに問題が起きた背景には何があるのか。 文=国際自動車ジャーナリスト/清水和夫

法的基準が存在しない燃費計測

 4月20日、三菱自動車工業が燃費試験で不正を行っていることを公表した。対象車両は軽自動車の「eKワゴン」「eKスペース」と、日産自動車にOEM供給している軽自動車「デイズ」「デイズルークス」。どのような不正がなぜ起きたのか、調査報告を待っているところに、日産から多額の出資を受けるとの発表があった。さらにSUV「RVR」やプラグインハイブリッド車「アウトランダー」での燃費不正、相川哲郎社長と中尾副社長の辞任も発表された。

 一方、騒動を受けて、国土交通省は自動車メーカー41社に内部調査するよう通達を出し、スズキも国の定めとは違う方法で燃費を測定していたことが明らかになった。なぜこのような事態になったのか。

 燃費はテールパイプから排出される二酸化炭素(CO2)を根拠とする。室内でシャシーダイナモというタイヤが回るローラーの上に試験車をのせて、実際にエンジンをかけてタイヤを回すのだ。このときタイヤの転がり抵抗や空気抵抗などが発生しないので、事前にテストコースで走らせて走行抵抗のデータを求めておき、室内テストの結果を組み合わせて燃費を計算する。

 当然のことながら、抵抗値が小さいほど、燃費は良くなる。三菱自動車はあえて燃費が良くなるデータを選んでいた。しかも、走行試験は国の定めと異なる手法で行い、一部データは机上の計算で済ませていたのだ。

 スズキも走行試験の手法が国の定めと違っていた。テストコースに強風が吹き、試験結果がバラつくため、一部を室内試験に置き換えていたという。三菱自動車ほど恣意的な行為ではないというのがスズキの主張だ。

 騒動の背景を読み解く上で重要な事実は、燃費は道路運送車両法の保安基準に基づいて、メーカーが国土交通省に届け出るもので、規制ではないということ。そもそもシャシーダイナモによる計測は大気汚染対策として定められた、いわゆる1978年規制のための試験であった。計測のターゲットは、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)。その後、技術的進展でCO2も計測できるようになったので、オマケとして計測し始めた。それゆえNOxやPMには法基準が存在するが、燃費は届出値という位置付けなのである。

 またディーゼル車とガソリン車の違いも考慮すべきだろう。NOxやPMはディーゼル車でより深刻だが、あるエンジニアによれば、かなり制御が繊細だという。走行抵抗データをわずかでも動かすと、NOxやPMのデータが大きくぶれるため、不正ができないらしい。それに対してガソリン車は排ガス対策が進んでいるため、走行抵抗を操作しても、法規制対象NOxやPMのデータには大きな影響が出ないそうだ。

 だからといって、燃費測定を軽んじて良いはずもなく、まして、意図的に都合の良いデータを採用した三菱自動車の行為が許されるはずもない。対象車両4車種はエコカー減税が適用されているため、三菱自動車に税金の返還請求や制裁金が課される可能性がある。一連の騒動で株価が低迷したため、株主から賠償請求されるかもしれない。何よりユーザーへの補償をどうするのか。議論はまだまだこれからだ。多額の出資を決めた日産は、直接的な損失やブランド価値の毀損を含めても得だと考えているのだろう。

責任を現場に押し付ける経営トップ

 日産はいつから三菱自動車を傘下に収めることを考えていたのか。結論から言えば報道のとおり、今回の騒動を受けての決断だったようだ。

 ただし、この絆が生まれた原点は、合弁会社を立ち上げた2011年にある。この時、国内新車販売台数500万台のうち、半分が軽自動車、4分の1がハイブリッド車で、軽かハイブリッドでないと売れないと言われていた。三菱自動車は軽自動車を持っていたが、90年代まで好調だった業績が低迷し、リコール隠し問題などもあって経営合理化が喫緊の課題だったと推測される。三菱自動車の軽自動車はミッドシップありFFありで、儲けの割に手間がかかっていたことも課題だっただろう。

 一方の日産は、軽自動車もハイブリッド車も持っていなかった。グローバルに見れば軽自動車を一から手掛ける意味はないが、国内対策としては必要だった。かくして両社の思惑が一致し、合弁会社NMKVを設立、軽自動車の開発に乗り出す。

 当初の燃費目標は26.4km/hだったが、その間に競合他社から燃費の良い軽自動車が続々と発表され、その都度、目標は上書きされていった。最終目標は29・2km/h。2年間で実に5回もの修正がなされた。

 軽自動車とハイブリッド車が圧倒的な販売シェアを占めるなかで、経営トップが打ち出す目標値は「一番ありき」だった。これが開発現場に過度なプレッシャーを与えたことは言うまでもない。今、経営トップは現場に責任を押し付け、現場はノーと言えない風土があったとトップを批判している。スリーダイヤモンドのプライドはどこに行ったのか。法令順守は言わずもがな、今こそ企業の品格を考え直してほしい。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る