政治・経済

LCC(ローコストキャリア)のひとつバニラエアも加盟するアライアンスが誕生した。フルサービスキャリアにおいては有効な戦略となっているアライアンスだが、発展途上の日系LCCにとって果たしてメリットはあるのだろうか。 文=本誌/古賀寛明

 LCCの国際間で初のアライアンスに参加したバニラエア

 5月16日、シンガポールにおいて、LCCの国際間では世界初となるアライアンス、その名もバリューアライアンス(VALUE ALLIANCE)が誕生した。アジア・太平洋地域に160以上の就航地と176機を擁するこのアライアンスは、同地域を拠点とするシンガポールのスクートとタイガーエア・シンガポール、タイのノックエアとノックスクート。豪州のタイガーエア・オーストラリアに、韓国のチェジュ航空、フィリピンのセブ・パシフィック航空、そして日本のバニラエアの6カ国計8社の航空会社が参加する。

 アライアンスといえば、フルサービスキャリアの3大グループが有名だろう。ひとつが、バニラエアの100%出資会社であるANAのいるスターアライアンス。JALが加盟するワンワールド、もうひとつが、デルタ航空、エールフランスなどのスカイチーム。それぞれ、共同運航便やマイレージなどアライアンスを組んで戦略的に活用、効率や利便性といった面で利益に大きく貢献している。

 ただ、LCCの市場はまだまだ群雄割拠の続く時代といえる。もう、アライアンスが必要となるほどに成熟しているのであろうか。

 既に、日本にも就航している香港エキスプレス航空にラッキーエア、ウルムチエア、中国西部航空といったLCC4社がアライアンスを組んではいるが、いずれも中国大手の海南航空の傘下であり、効率化を考えれば驚くに値しない。そういった意味では、バリューアライアンスの加盟各社は、規模も財務状況も国籍もバラバラなだけにメリットが見えにくい。共通のシステムを新たに導入し、今後、加盟会社間での乗継便の予約や決済を一括して行うことで利便性は向上するが、それがどれだけ効果を発揮するかは未知数だ。とすれば合併を視野に入れたシステムの導入なのだろうか。

 東南アジアの航空需要においてLCCの占める割合は高く、6割弱のシェアを握る。その中で、2つのガリバーが存在する。ひとつがオーストラリア・カンタス航空傘下のジェットスター・グループであり、もうひとつが、マレーシアのトニー・フェルナンデス氏率いるエア・アジアグループだ。つまり、この2つのグループに対抗しようと組まれた第3極ではないかと思われるのだ。

 実は、スクートとタイガーエアはシンガポール航空傘下であり、タイ国際航空傘下のノックエア、そのどちらも入ったノックスクートは、東南アジア・太平洋市場において激しい競争を強いられている。このグループの窮地を、地理的に少し外れた日本、韓国、フィリピンのLCCを巻き込むことで付加価値としていこうと、シンガポール航空の主導のもと考えられたのではないかと推察するのだ。

バニラエアのメリットは路線拡大、LCC競争は次のステージへ

 シンガポール航空が主導したというのには理由がある。セブ・パシフィック航空とタイガーエアは親密であり、子会社の売却を行った経緯もある。チェジュ航空にしてもシンガポール航空と資本・業務提携交渉が行われた過去を持つ。既に、スクートとタイガーエアの合併も噂になっていることから、さらに拡大した大合同の布石という見方もできるはず。

 では、その大合同にバニラエアも巻き込まれるかというと、それはないだろう、むしろ既にライバルの2グループが進出している日本で地理的な空白を生むよりも、親会社同士が加盟するスターアライアンスの縁からバニラエアの参加が求められたのではないだろうか。

 しかし、バニラエアにしてみれば、いいタイミングでのアライアンス加盟といえる。エアアジア・ジャパンから変わってまだ3年目。今度の決算でようやく黒字化を達成した。さらに今期は、保有する機体を9機から12機まで増やし攻勢をかけるという。ANAホールディングスの中期経営計画をみても、これでもかというほど新規路線への意欲が感じられる。「あくまで希望です」(バニラエア・広報)とにべもないが、路線の拡大に積極的なのは間違いない。

 一方で競争も激化する。例えばスクートは、既に成田―台北線に就航、今年10月には台北―札幌線も予定している。アライアンスを組んではいても、ライバルであることに変わりはない。バニラエアも第2の拠点を台北で考えているそうだ。ガチンコであるが、東南アジアの乗客にかぎっていえば知名度で劣るバニラエアの存在をアピールするチャンスでもある。試しにバニラエアを使ってみようとする乗客も少なからず存在するだろう。

 訪日外国人観光客が主流である今にかぎって言えば追い風と言える。

 これまで、日系LCCの中ではピーチ・アビエーションの好調さだけが際立っていた。しかし、バニラエアが黒字化し、ジェットスター・ジャパンも黒字化のめどがついた今、日本のLCCも次のステージに足を踏み入れたと言える。新たな市場を生み出したLCCだが、日本の航空需要における割合は、まだ8・2%(14年)にすぎない。まだまだ成長の余地はある。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る