
政党が仕掛ける“おいしい争点”
「選挙の争点は、先に仕掛けたほうが勝ち」
小泉純一郎首相が2005年に解散・総選挙を敢行したいわゆる郵政選挙で、自民党のコミュニケーション戦略を担当した世耕弘成現官房副長官の談だ。
この時、小泉氏は「あなたは郵政民営化に賛成か反対か」と国民に問い掛け、賛成なら自民党へと訴えた。14年の総選挙では自民党が「消費増税先送りを支持するか」と設定した。有権者はそれを争点として受け入れ投票した。仕掛けた政党がまんまと勝利を収めたのだ。
ただ、それをもって投票すれば、争点以外もすべて政権に白紙委任だ。
例えば、「郵政民営化」で小泉自民に大勝させたあと、郵政以外の政策では自由経済が横行し格差が生まれてしまった。14年の「消費増税先送り」を支持して安倍自民を勝たせたら政権は「安保法制」に突き進んだ。選挙に勝つために、政党や政治家は二者択一を迫る「争点」を仕掛けてくる。有権者の投票行動を引き付けるための戦術だ。
まもなく参院選だ。この稿を執筆中の5月20日現在はまだ衆参ダブル選挙の可能性も残っている。安倍首相は、悲願の憲法改正のために、参議院で発議に必要な3分の2勢力を確保しようと、「おいしい争点」をどんどん仕掛けてくるだろう。経済であったり、1億総活躍の子育てや介護政策であったりするかもしれない。世論調査で慎重姿勢の多い「憲法改正」も積極的には触れないかもしれないが、大勝すれば着手するだろう。
大事なのは自分の価値観で争点を決めること
有権者はそれらをどう頭の中に並べて、騙されないように考えればいいのか。
そこで、私が自著や講演でお示ししている、誰でも実に簡単にできる「争点表」を紹介しようと思う。
紙とペンがあればいい。まず簡単な表の形を書き込む。横は政党の数だけ升目を用意してすべての政党を書き込む。大事なのは縦の枠。5行にする。この縦の部分にはあなた自身が「争点」を決めて5つ重要視する順に上から1位、2位と5位まで書き込んでいく。大事なのは、あなたが決めるということ。政党やマスコミが「これが争点」など騒いでもそれらは参考。あくまでもあなたの価値観で、重要だと思う順番で書き込む。
例えば、私ならば今夏の参院選、1位が社会保障、2位が憲法改正の是非、3位が安保法制、4位が地方分権、5位が原発政策――、といった感じか。今回、恐らく安倍首相が訴えるアベノミクス、外交などは私には全く関係ないのだ。私個人には、少子高齢化の中で年金・医療・子育てなど社会保障が最も重要だ。政治の主権は一人ひとりにある。何が一番政治政策の関心事かは、それぞれが、自分で決めていいのだ。
さて、今度は横の欄だ。A党から順に、その政党があなたの選んだ「争点」でどんな公約を掲げているかを見て、一番いいと思う政党に「○」、まあそれに準じるかなという2番目に評価できる政党に「△」を付ける。こうやって、「争点表」が出来上がる。

イラスト/のり
そして点数の計算。簡単な足し算である。「○」は3点、「△」は1点。何も付いていないところは0点だ。縦に足していけば、各党の得点が出てくる。
ところがこれで終わらない。さらに、最後にそれに「ボーナス点」を加える。1位の「争点」で「○」を付けた政党にはボーナス点を5点加点する。2位の「争点」で「○」を付けたところには4点、以下、3点、2点、1点……。「争点」の優先順位にあわせて、1位に最大の5点、2位に4点、3位に3点、4位に2点、5位に1点ということだ。
こうやって最終的に足し算して、1番点数が高かった政党に、あなたは迷わず1票を投じればいいのだ。これならば、公平で、簡潔で、淀みなく決められる。どうだろう。すっきりするではないか。くどいようだが、大事なのはあなただけの、あなた個人がしっかり決めた「争点」を5つ選んで、それに優先順位を付けるという作業だ。人に笑われようが、違うといわれようが全く気にすることはない。一人ひとりに主権があって、政治を決めていいのだから。
今年から18歳にまで選挙権が広がる。国民主権の選挙の一考になれば幸いである。
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