政治・経済

2015年11月に発売したメガネ型のウエアラブル端末「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)。一見すると普通のメガネだが、頭や視線の動き、瞬きをセンサーで計測。眠気や集中度、姿勢の崩れなどを測ることができる。無線でスマートフォンにデータを蓄積、分析する。先進テクノロジーによる世界初のセンシング・アイウエアだ。 聞き手=本誌/榎本正義 写真=佐藤元樹

「目」の持つ情報量に着目し脳へのアプローチが出現

 

―― 昨年発売された「JINS MEME」は、“自分を見るアイウエア”とのことですが。

田中 当社は、メガネの付加価値を模索し、世の中に提案してきた会社です。常に新たな機能を考え商品に反映させていくというビジョンを持って商品開発を行っています。その中で、脳トレで有名な東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授と出会いました。川島先生と何度もブレストを重ねる中で、現在の「自分を見る」というコンセプトが生まれました。初めに「目から脳をのぞこう」と思っていたのではなく、メガネに革新をもたらす新たな機能を摸索する中で、脳というアプローチが出て来た。20160705JINS_P01

―― なぜメガネから脳なのですか。

田中 脳が受け取っている外界からの情報のうち、87%は目からの情報です。それだけの情報が目から脳にインプットされている。そして目は心の窓といいますが、重要な感覚器官である目は脳とのつながりも大きいため、その人の心理状態が分かるのではないかという仮説を立てました。その研究から生まれたのが「JINS MEME」です。

メガネ型のデバイスで脳と体の状態をチェック

―― 具体的にはどのような技術なのかを教えてください。

田中 簡単に言うと、目と体の動きをセンサーで読みとっています。目の動きについては、独自に開発した3点式眼電位センサーで、角膜側に帯電したプラス電位の移動によって生じる皮膚接触部の電位の変化を読みとって、眼球の動き、瞬きを測定します。体の動きについては、6軸センサー(加速度・ジャイロセンサー)で姿勢や体のバランスなどを取得することができます。

―― 目から何が分かるのですか。

田中 まず眠気を推定できます。人間は眠くなると瞬きの回数や強さが変わるのです。多くの人のデータを蓄積していき、「眠いときの瞬きのパターン」を推定できると、その情報をスマホに飛ばしてアラームを鳴らすということも可能です。自動車の運転中にこの技術で休憩を促すといった活用ができます。また、集中度を測ることもできます。通常、成人男性は1分間に20回程度の瞬きをしますが、集中すると1分間に3回くらいまで瞬きが減ります。また、瞬きにも速さや強さなど種類があるのですが、例えば人前で話しているときなどは緊張し、相手の反応を伺っているので、強さや速さが異なる瞬きをします。ところがリラックスを伴う深い集中に入ると、瞬きの強さと速さが安定します。これは、瞬きには多くの生理現象、心理状態が現れていることを示しています。当社の「JINS MEME」はこういった脳の状態を、目を通して測ることができる商品なのです。

―― 体の動きも測ることができるのですね。

田中 6軸の加速度・ジャイロセンサーが体幹の真上にある頭にくることで、姿勢や体のバランスを測ることができます。従来、万歩計などでは「動きの量」を計測してきました。これによって例えばメタボが問題になり、運動しなくてはならないということで運動量が問題となったわけです。ところが、一定以上の運動をすることが普及すると、運動によって膝や腰を痛めてしまうロコモティブシンドロームが話題になるようになりました。その原因のひとつは正しくない姿勢での運動です。運動の量ではなく、質が問われています。そこで、「JINS MEME」では、運動時の姿勢を計測する。すると、間違った姿勢を指摘されるので、けがの予防も期待できます。

脳の状態を知ることで先制医療につながっていく

―― 今後、どのような展開を考えていますか。

田中 研究機関とさまざまな取り組みをしていますが、これからいろんなことが分かってくると思います。それに応じて、アプリなどのソフトウエアがどんどん増えていくでしょう。また、ハードウエアももっと小型化して、従来のメガネと全く変わらないようなものにまで進化させていきたいと考えています。そこまでくると、常に自分の脳や体の状態が分かって、その対策を事前に打てる、つまり病気の予防につながるはずです。これは先制医療につながり、医療費の削減まで広がるテーマなのです。

―― 近年は脳科学が話題になることも多く、企業でも取り組んでいるところはたくさんありますが、御社のように具体的に形になったケースはまだ多くありません。

田中 まだまだできたばかりで課題はたくさんあります。より世の中のニーズに適応させ、潜在的な需要を顕在化させるほどの力を持つ製品にするには、仕組みが必要です。現在、「JINS MEME」は税抜き3万9千円で販売しています。これでは普及しにくい。例えば、スマートフォンは本来、10万円程度もする端末を、通話量を含めた分割払いという仕組みを作ることで普及させました。同じように、「通常のメガネと同じように販売する」のではなく、月額のサービス利用料金を基本として、端末としての「JINS MEME」の価格を極力抑えるといった仕組みを考えなければならないかもしれません。例えばそこに広告モデルが入ってきても良いし、得られたデータの販売というモデルも考えられます。そうなると、当社もメガネの小売業という業態から脱却していくことになるでしょう。

血圧、体重を測るように脳の状態も測る時代

―― メガネの小売業である御社がそこまで踏みこんでいるのですね。

田中 もともと当社は、ブルーライトカットメガネ、花粉対策用メガネを開発してきました。「視力が悪いからメガネをかける」のではなく、パソコンを使うから、花粉対策用にとメガネのマーケットを拡張してきました。メガネを大量に安価で販売したいのではなく、常にイノベーターでありたいと考えています。「JINS MEME」もメガネをかける新しい価値を提供できる。メガネの形をしたサービスプラットホームなのです。

―― 「JINS MEME」の今後の展望、期待することをお聞かせください。

田中 目は脳の窓であり、目をのぞくことで脳の状態が分かるのであれば、認知症予防につながるかもしれません。また、ストレスチェックにも役立つと思います。先ごろ、企業による従業員のストレスチェックが義務付けられましたが、ストレスが原因で働けない、うつ病になる可能性がある潜在層が約600万人もいるといわれています。ストレスは目に見えませんが、「JINS MEME」を使ってストレスを測れる可能性があります。

 先ほど、集中度が分かると申しましたが、同様に興味関心の深さが測れるかもしれません。今ネット上に存在する商品レビューは、顕在化した興味・関心です。「JINS MEME」が測った興味深さはさらに意味があるであろう潜在的な興味・関心であり、より深いマーケティングの施策の材料となるかもしれません。課題は、個人差をどれだけ計測できるかです。これは多くのエビデンスを収集していくしかないと思っています。

―― そういったさまざまな活用法のベースとなるのが、脳をのぞくデバイス・「JINS MEME」なのですね。

田中 レコーディングダイエットというダイエット法が話題になりましたが、「見える」「分かる」ことはとても重要です。1日に何歩歩いたか分かるから、もっと歩こうと思う。今、体重が何キロあるから、減らさなければならないと思う。同じように、自分の姿勢がどれだけ悪いのか具体的に分かる、どれだけ集中できていないか、どれだけストレスがかかっているか、こういったことを「見える」ようにすることが大切です。病院に行ったときだけ測るのではなく、日常的に測っていることが重要です。体重や血圧、歩数などと同様に、脳の状態も計測が可能になり、欠かせない習慣になるのではと考えています。

プロフィール (たなか・ひとし)1963年群馬県生まれ。アイウエアブランド「JINS」(ジンズ)を運営するジェイアイエヌの社長を務める。88年ジェイアイエヌを設立。2001年アイウエア事業に参入。11年には『Ernst&Young ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011』モナコ世界大会に日本代表として出場。13年東証1部に上場。

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