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孫正義社長が続投を決めた本当の理由

孫正義・ソフトバンクグループ社長の後継者として有力視されていたニケシュ・アローラ氏が副社長を退任した。折しも株主総会前日の発表で、議案の変更など異例の事態となり、混乱ぶりがうかがえた。孫社長は後継者問題も含め体制を仕切り直すことになる。文=本誌/村田晋一郎

孫正義・ソフトバンクグループ社長

孫正義・ソフトバンクグループ社長

孫社長の発言に疑問

ソフトバンクグループ(SBG)は株主総会を翌日に控えた6月21日、ニケシュ・アローラ氏が代表取締役副社長(President&COO)を退任し、顧問に就任することを発表した。

SBGの株主総会では、アローラ氏の取締役再任も議案に挙がっていた。招集通知に記載された取締役候補が、総会前日に退任を発表するのは、異例の事態である。ましてアローラ氏は孫正義社長が自身の後継候補であることを公言していただけになおさらだ。

また、アローラ氏はヤフーの会長も兼任していたが、6月21日のヤフーの株主総会で選任された後、翌22日のソフトバンクの株主総会当日に辞任。ヤフーの会長職だけを考えても、株式会社の役員が株主総会で承認を受けた翌日に辞任するのは極めて異例の事態だ。ヤフーの件も合わせて考えると、今回のアローラ氏の退任は6月20日前後に急転直下決まったと見るのが妥当だろう。

SBGは、株主総会当日の朝に取締役人事に関する議案の一部取り下げ・変更を発表するなど、混乱ぶりがうかがえた。株主総会はその混乱の収拾に努めた格好だった。

株主総会の冒頭、孫社長は今回の人事の経緯を説明。要約すると、来年迎える60歳の誕生日で社長を退きアローラ氏に引き継ぐつもりだったが、まだまだやりたいことがあり、社長業への欲が出て、少なくともあと5~10年は社長をやりたいと思うようになった。一方それだけ自らが社長を続けることになると、後継候補として招いたアローラ氏を待たせることになる。それは申し訳ないということから、アローラ氏が退任することになったという。

ただし、この孫社長の発言を額面通りに受け入れることはできない。「60歳での引退」は、今回孫社長が初めて公にしたことだが、それ自体、懐疑的にならざるを得ない。

確かに孫社長には19歳の時に立てた「人生50年計画」があり、50代で事業を完成させ、60代で継承することを公言していた。しかし60代で引退すると言っても、60歳を迎える来年8月で退くことは、今のSBGの状況を考えると無理がある。昨年、「ソフトバンク2.0」なるグローバル新体制がスタートしたばかりであり、米スプリントの再建もようやく糸口が見えてきたところ。さらにSBGは、グループ全体で10兆円以上の有利子負債を抱えている。この状態で誰かに社長を引き継ぐことは難しいだろう。60代での引退と言っても、69歳までのいずれかでと考えるのが妥当だ。

そもそも、アローラ氏を後継候補に指名したと言っても、禅譲は2~3年の話ではなく、もう少し長期的スパンで考えていたはずだ。「私はまだ引退するつもりはないし、若いつもりでいますので、これまでどおり経営の第一線にいる」と語ったのは昨年5月の決算発表会でのこと。それだけに孫社長の「社長継続」という心変わりを美談に仕立てた印象を受ける。

アローラ氏自身に問題

今回の退任が急転直下決まったものと考えると、孫社長よりは、アローラ氏自身による問題が大きいのではないか。

ソフトバンクの強みは、孫社長の構想力と経営手腕もさることながら、その求心力にある。孫社長の理念に賛同するロイヤリティーの高い人材が集まっているからこそ、孫社長の思い描くことが実行でき、事業をワールドワイドに拡大してきている。

そうした求心力の高い組織に、アローラ氏と彼に連なる「チーム・ニケシュ」は異質な存在だっただろう。こういう異質な存在は組織の活性化に一役買うものであり、確かにチーム・ニケシュはさまざまな投資案件で成果を上げた。その一方で、アローラ氏の桁外れに高い報酬を問題視する見方があったのも事実。不協和音の源にもなっていた。

さらに今年に入って、アローラ氏が投資ファンドの米シルバーレイクの上級顧問として報酬を得ており、新興企業に投資するSBGとの間で利益の相反があると指摘された。また、過去に不正に関与した疑惑や、複数の懐疑的な取引も指摘されていた。これに対して、SBGとしては第三者による内部調査で問題ないと結論付けたが、この声明を出したのが、退任発表前日の6月20日。SBGとしては問題ないとしながらも、今後の訴訟リスクや余罪の可能性を嫌ったと考えられる。

では、今後のSBGはどうなるか。孫社長のリーダーシップが継続することについて、短期的には好意的な見方が強い。アローラ氏の副社長のポストには、ソフトバンク社長の宮内謙氏が就く。ある意味でアローラ氏参画前の体制に戻ったと言える。ただし、宮内氏の年齢を考えると、短期的な人事と見るのが妥当だ。

孫社長は、後継者問題はしばらく考えずに社長業に邁進する旨を語ったが、これだけの事業規模のトップの発言として後継者問題を考えないのは違和感がある。孫社長自身もまだ状況の整理が付いていないのではないか。後継者問題も含めて、グループ全体の体制を早急に再編する必要があるだろう。

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