政治・経済

知事職への固執は「自民党へのリベンジ」

 舛添要一・東京都知事がついに辞任した。一連の騒動では、舛添氏は絶対的な「悪」や「ケチ」としてとらえられ、その「心情」を読み解くような報道はほとんどなかったが、辞任劇の中で、どんな「心情」が交錯していたのかを取材した。

 そもそも舛添氏が、徹底して知事職に固執したのはなぜなのか。世論は高額の海外渡航費用も、政治資金の家族宿泊や美術品購入などもすべて「不適切」であるとして、そこに怒っていた。ところが、舛添氏は第三者の元検事らの調査結果を盾にして「不適切」かもしれないが、「違法ではない」という部分にこだわっていたのだ。

 「これこそ彼らしい。自分自身や論理に絶対的自信を持っているから、最後まで、違法でないのになぜオレが辞めなきゃならないのかと本気で思っていただろう」(舛添氏と勉強会でずっと一緒だった自民党ベテラン議員)

 知事職への執着は恐ろしいほどだった。

 「1999年に初めて東京都知事選に挑戦して落選したが、そのとき80万票を獲り、舛添氏にとっては大きな自信につながった。そのあと国会議員になったが、心の半分は常に知事への思いだった。石原慎太郎氏が再選を目指すたびに、密かに知事選出馬の可能性も図っていた。そうしてようやく手にした以上絶対に放したくないという執念でしょう」(都庁OB)

 さらに、舛添氏を古くから知るシンクタンク代表は、知事職で力を発揮することは、舛添氏にとっては「根深い自民党へのリベンジ」というのだ。

20160719NAGATACHO_CATCH

イラスト/のり

 「自民党幹部から『将来の総理候補』などと言われて国政に行ったが、自民党では厚労大臣どまり。それでも大臣までやれたと思うのが普通だが、自分に自信があるからそれでは満足できず冷遇されたと恨んだのだろう。今の東京都知事は絶大な権力者。オリンピックなども主導権をこちらが握り、永田町や自民党へリベンジという思いだ。それが再び永田町から辞めろと圧力がかかってきて、徹底して戦うというモードだ」

問われる自公の責任

 ところが、そんな一歩も引かない舛添氏の心を唯一動かしたのが、自民党東京都議団で舛添問題に対処してきた長老の内田茂氏。東京自民党の最高実力者。都議会議長や東京都連幹事長も務めその力は「国会議員もしのぐ」(自民党東京選出国会議員)と言われている存在だ。

 内田氏は先月半ば、舛添氏に「自民党としてはしばらく様子を見る」旨をいったん伝えた。

 「今辞めると参院選の最中でとても出直し知事選が戦えない。橋下徹・前大阪市長らが出てきて当選でもされたら都政は大混乱。それに選挙で応援して誕生させた“製造物責任”があるから、何かあるからすぐおろすというのでは有権者に説明がつかない」(自民党都議団幹部)ためだ。

 ただ、内田氏の読みは甘かった。連日のメディアや世論の批判は尋常ではなく、官邸や自民党本部からも「舛添知事への対応が甘いという批判が全国で起き、参院選へ影響が出始めている。切れ」との圧力がかかり、方向転換を余儀なくされたのだ。

 内田氏は、不信任案が出される都議会最終日前夜から当日の早朝にかけて舛添氏に接触した。

 関係者によると、内田氏は舛添氏にこう言ったそうだ。

 「何とかしようとやってきたが足並みがそろわず難しい。(自分=自民党に)不信任を出させるようなことはさせないでくれ。これまであなたを一生懸命守ってきたつもりだ。その恩返しをしてくれないか」

 唯一親身に接してきた内田氏の言葉に舛添氏は「もっと早くから内田さんと話をしてくればよかった」と礼を言って、身を引くことを決めたという。

 前出シンクタンク代表は「理論先行、理屈が先の舛添氏が、最後に政治の情のようなやり取りに心を動かした。それほど本音のところでは一連の攻防に疲れ切っていたのかもしれない」と舛添氏の心情を想像する。

 ただ、最終日の舛添氏の言動を見る限り、本会議でわずか2分ちょっとの説明しかしなかったこと、そして「最後の定例会見も、登庁もしないと都庁事務方に非公式に伝えてきた」(都庁幹部)ことなどから、本人は「決して納得していないぞという意思表示。内田さんへの信義を通しただけ」(同代表)なのだ。

 しかし、こうした「心情」をもって舛添氏の正当性が担保されるわけでもなければ、舛添問題が解決したわけでもない。ザル法の政治資金規正法の改正は待ったなしだろう。また、舛添氏を選挙で抱えて知事にした自公は、知らん顔で出直し選に血眼を上げているが、その前に都民に舛添氏を誕生させた責任を謝罪し頭を下げたか。この大騒動、まだまだやるべきことはある。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る