マネジメント

 日本のメガバンク傘下にある米国の金融機関でCEOを務め、日米双方の企業文化について知り尽くすJPモルガン証券シニアアドバイザーの森口隆宏氏。同氏によれば、「CEO」「コーポレートガバナンス」といった言葉一つを取っても、その概念や役割は両国で大きく異なるという。実体験を通じて肌で感じた違い、そして日本企業の良さとは何か。 構成=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森

支配株主代表に対する社外取締役の厳しい目

牛島 森口さんは日本で32年、アメリカなど海外で17年、金融機関で働いておられた。そのご経験から、今のコーポレートガバナンス論はどう見えるのでしょうか。

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(もりぐち・たかひろ)1944年生まれ、兵庫県出身。67年神戸大学経済学部卒業後、東京銀行入行。バンク・オブ・トウキョウ・キャピタル・マーケッツ社長、ユニオンバンク・オブ・カリフォルニアCEOなどを務める。その後、東京三菱銀行副頭取、三菱東京UFJ銀行常任顧問などを経て、2006年JPモルガン証券会長兼社長兼CEO。07年より会長。16年7月よりシニアアドバイザー。

森口 ユニオンバンクに8年いたのですが、前半はCFO、後半はCEOを務めました。CEO時代には、もともとNASDAQに上場していたユニオンバンクを株の流動性改善のため親会社の持ち分を引き下げることを目的にNY証券取引所に上場させました。結果として、持ち分売却益は親会社に予定どおり還元されました。

 当時のユニオンバンクは社外取締役が15人くらいいました。一方、執行役員はCEOの僕とCFOだけ。この2人だけが日本人で、あとはアメリカ人でした。ユニオンバンクのCEOですから、当然ユニオンバンクの利害を最優先しなければなりませんが、親会社である東京三菱銀行の利害もあります。そこで問題になるのが、マイノリティーをどうするか。CEOとしては全株主の利益を代表しているが、僕は親会社の人間でもあるのでマジョリティーの代表でもある。そこを社外取締役は突いてくるわけです。

牛島 森口さんが、まさに支配株主の代表なんですね。

森口 ええ。社外取締役たちは、マジョリティーだけではなく、マイノリティーも大事にしろと追及してきます。親会社は日本企業ですから、ほかの会社以上に厳しかったかもしれません。

牛島 そういった環境で後継者を選ぶとき、社外取締役も意見があるでしょうから、必ずしも支配株主である親会社のメンバーがCEOやディレクターになるとは限らないですよね。

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森口 ですから、自分の後任を選ぶ時も苦労しました。一方、彼らも日本の銀行の伝統、歴史を知っています。当時の東京銀行が1953年には現地法人をつくって、現地の日系2世、3世に出資を仰いで頑張ったことを知っている。そのつながりや背景を知っているので、チェックは厳しいけれど理解すべきところはしてくれました。

牛島 そのころの苦労はどのようなものでしたか。

森口 ユニオンバンクの形態から考えると、日本からCEOを送ったほうがうまくいくと思ったんです。しかし、現地の社外取締役は私とのコミュニケーションが取れてくると、「森口のような人間が来るなら良いが、いつもそんな人間が来るとは限らない」と言うわけです。ですから僕の後任選びは大変でした。何度もやり取りをして、彼らも東京に来て人選に加わっていました。

牛島 日本からトップが来ることは納得しているけれど、その人選には口を出すと言うことですね。その人選委員会、ノミネーションコミッティーは何人くらいだったのでしょうか。

森口 僕と社外取締役5人で、計6人だったでしょうか。ノミネーションコミッティーのチェアマンは、カリフォルニアの大手ガス会社のCEOをされていた方で、彼が引っ張っていた。彼とはかなり密なコミュニケーションを取っていました。やはりそういう信頼関係がなければやっていけなかったでしょう。

給料の安さを理由に意欲を疑われる

牛島 その信頼関係は、どのように築かれたのでしょうか。

森口 NY市場に上場した時の話ですが、現地のスタッフ8人と3週間かけて世界中の投資家を回ったんです。そこで投資家から出た質問が意外なものでした。僕の給与は安過ぎるが、それでどれだけの結果を出せるんだと聞かれるんです。

牛島 「そんなに安くてちゃんと働くのか」ということですね。

森口 何とも答えようがないんです。そこでノミネーションコミッティーの名前で、「森口は給与こそ低いが、十分なモチベーションを持って、インセンティブもあって、会社のために努力する人間だ」と言ってもらいました。ここでも信頼関係が生きました。

牛島 ちなみに当時、ユニオンバンクと同程度の企業を比べて、CEOの給与はどれくらい差があったのでしょうか。

森口 サンフランシスコクロニクルという新聞で、ユニオンバンクは業績も上がっているのに、CEOの給与はワーストだと記事にされました。そういうことから鑑みるに、当時の米国のCEOの平均的給与の4分の1くらいだったようです。

日本的経営の良さは残すべき

牛島 話は変わりますが、森口さんは以前、決断力のある米CEOを見ていると、3~4割の情報で直観的に決定する。それだけ優秀な人間がなっているんだとおっしゃっていましたね。

森口 日本の社長のまわりには経営企画室があったり、社長室があったり、優秀なスタッフがいる。ところがアメリカでは、CEOのスタッフは数人です。それだけアメリカのCEOはより高い能力が求められているということです。限られた情報で判断を繰り返して、それを何年も続けて結果を出している。

 取締役会は英訳すれば「ボードオブディレクターズ」ですが、翻訳して同じ言葉だと言っても、中身は違う。同じようにCEOという言葉の中身も、アメリカと日本では違うのでしょうね。このあたりが、理解されないままに、コーポレートガバナンスが語られている気がします。

牛島 今、日本では社外取締役を2人にしなさい、いや3人だというレベルの話をしていますが、森口さんは15人の社外取締役がいる環境を経験しておられる。社外取締役が15人もいる場合と2人しかいない場合では、何が変わってくるんでしょうか。

森口 15人もいると、キャリアも考え方も異なる人ばかりです。元CEOがいたり、現職の弁護士がいたり、大学の先生がいたり、バラエティーに富んでいる。そういうメンバーで議論すると、偏ることはありません。

 あとは、社外取締役の重みが違います。2人しかいないからこそ、そのたった2人の発言力が高まる。その人がライトパーソンならよいのですが、そうでなかったら大変です。たった2人でバランスが取れた構成にするというのは、正直無理があると思います。一般的に社外取締役がマイナーな存在で、社内取締役がメジャーという日本での構造だとなかなか難しい。

牛島 日本でも社外取締役が取締役の中でマジョリティーになるべきだとお考えでしょうか。

森口 コーポレートガバナンスの歴史も企業文化も、アメリカと日本では違います。今、日本がコーポレートガバナンスコードを入れて、ゆっくり取り組もうというアプローチは良いと思います。当然、アメリカとのギャップはあるし、あるべき姿と現実のギャップも大きいかもしれません。グローバル企業で世界の投資家に対している日本企業は、早くギャップを埋める努力をしなければならない。長い目で経営を見ていくなど、そういう日本的な良さは大事にしないといけない。欧米では株主主体で考え過ぎて、短期的な利益にとらわれて、業績が悪いとすぐにCEOが交代してしまう。

牛島 長期的視点、経営の連続性という意味では、確かに目先の利益を追って、結果が出なければすぐに交代するというのは良くないですね。

森口 先ほど、日本企業にはよくある社長室や経営企画室が欧米ではないという話をしましたが、これも経営の連続性では大きなポイントです。日本では社長が交代しても、周囲のスタッフは残っているので、前はこういう意図でこうしていたということが残る。その中で駄目なものはやめて、良いものは残すという判断ができるような日本的なシステムは残すべきだと思いますね。

牛島 まさに日米の経営を経験されたからこその視点だと感じます。(後編に続く)

アメリカでも進む「株主至上主義」からの脱却――森口隆宏×牛島信(後編)

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