政治・経済

ポイントは選挙権年齢の引き下げだけではない

 「今回の参院選から適用される改正公選法は、選挙権年齢が18歳に引き下げられるだけではありません。でも、そこばかり注目されているのが、残念でなりません」

 こう語るのは、選挙プランナーの三浦博史氏だ。三浦氏は国会議員秘書を経験した後、米国で政治・選挙事情を視察・研修するとともに、選挙プランニングについての知識を習得し、日本初の選挙プランニング会社を設立した、選挙プランナーの草分け的存在である。

 今年4月に可決成立した改正公選法は、20歳以上の選挙権年齢を18歳以上に引き下げるもの。18歳、19歳の人口は約240万人で、有権者の約2%にしかすぎないが、彼ら若者に各政党がどう訴え、若者がどう判断するのか。大きな注目点であるのは間違いない。しかし、三浦氏が指摘する通り、今回の改正公選法はそれだけではない。

 特筆される大きなポイントは、2点ある。その1つが、各々の自治体で、有権者が投票できる「共通投票所」を駅などに設置可能になったということ。

 これまでの制度では、選挙管理委員会が指定した投票所でしか投票できなかった。しかし、改正法では、駅やショッピングモールなど利便性が高い場所や大学などに、自治体の判断で共通投票所を設置でき、その自治体に住む人は投票可能になるというもの。

 もう1つが、期日前投票は最大2時間、開始時刻の前倒しや終了時間の延長が可能というものだ。

 従来、原則として午前8時半から午後8時までだった投票時間。これについては、各自治体の判断で、最長で午前6時半から午後10時まで可能となった。

 投票率の低下を何とか食い止めようというもので、現役世代の生活実態を考えれば、かなりの有効策といえるだろう。例えば、地元の駅の一角に共通投票所を設置すれば、日曜も仕事の人も気軽に投票できるだろうし、家族で出掛ける前に済ませることも可能になる。この共通投票所が、期日前投票の場にもなれば、日々の生活動線に即したものとなり、大幅な投票率アップが期待される。

 しかし、複数の自治体でショッピングモールに期日前投票所ができたものの、あまり広がりを見せていない。島根県浜田市は、投票所8カ所の統廃合に合わせ、最寄りの投票所が遠くなる有権者の投票機会確保のため、ワゴン車を利用した「移動期日前投票所」を導入したが、こうした試みは、稀有な例として取り上げられるだけだ。

投票したいと思わせる仕組みづくりが必要

 三浦氏は、広がりを見せない理由は2つあると、解説する。

 「改正公選法成立から、時間があまりなかったことが原因の1つです。共通投票所を設置するにも選定から実施までの準備期間がかなり必要です。その意味では、タイムオーバー」

20160802NAGATACHO_Ph

イラスト/のり

 事務的な問題に加えて、もう1つが一番の原因だと指摘する。

 「法律ができても、予算措置も必要だからです。それぞれ、自治体の裁量に任せられる法律ですが、実施するには首長の決断が不可欠。投票率を上げるという目標を掲げた法律なのですから、実施するための予算、体制も敷かなければ絵に描いた餅になってしまいます」

 とはいえ、予算が増えるというのでは、時流に逆行するのでは、との疑問も出てくる。仮設の共通投票所を設置する費用などすべてタダというわけにもいかない。その知恵についても、三浦氏はこう授けてくれた。

 「三位一体改革ではありませんが、まず有権者が自治体に要望の声を届けること。『この駅に投票所があれば助かる』と。また、地方議会も身を切る改革で予算を捻出するようにすればいい。そして、メディアもこういった地味な問題を汲み上げて、報じるべきではないでしょうか」

 現場で選挙を見続けてきたからこそ、言える金言だろう。

 これまで、国政選挙で50%台、地方議会の選挙だと20%台の自治体もあった。投票権は、民主主義の根幹を成すもので、有権者に与えられた重要な権利だ。しかし、それを居丈高に訴えても、有権者には届かない。せめて、身近な部分で「ちょっと今回は投票してみようかな」と思わせる“仕組み”が必要なのだ。

 そのためには、三浦氏のように、それぞれの立場の人たちが知恵を持ち寄って、新たな制度をうまく活用できる仕組みを考えるべきだろう。それこそ、18歳にアイディアを出させてもいいのではないか。

 誰が出馬するのか、どの政党が勝つのか。そればかり報じるメディアもそろそろ変わるべき時にきているのかもしれない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年8月号
[特集]
パナソニック新世紀

  • ・総論 家電事業でもB2Bでも根底に流れる「お役立ち」
  • ・樋口泰行(コネクティッドソリューションズ社社長)
  • ・B2Bに舵を切るパナソニック
  • ・パナソニックのDNA 家電事業の次の100年
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・パナソニックの家電を支えた“街の電気屋”の昨日・今日・明日
  • ・テスラ向け電池は量産へ 成長のカギ握る自動車事業
  • ・パナソニックとオリンピック・パラリンピック

[Special Interview]

 津賀一宏(パナソニック社長)

 変化し進化し続けることでパナソニックの未来を創る

[NEWS REPORT]

◆商品開発に続き環境対策で競い合うコンビニチェーン

◆サムスンを追撃できるか? ようやく船出する東芝メモリの前途

◆スバル・吉永泰之社長はなぜ「裸の王様」になったのか

◆「ニーハオトイレ」は遠い昔 中国を席巻するトイレ革命

[政知巡礼]

 木原誠二(衆議院議員)

 「政治が気合を持って、今のやり方を変えていく覚悟を」

ページ上部へ戻る