マネジメント

イギリスのメディア大手がJリーグの放映権料を年間210億円で獲得したと聞いた時、多くの人が「どうやって採算が取れるのか」といぶかしんだ。しかしこの提携は大きな可能性を秘めている。スポーツビジネス後進国の日本が大きく変わろうとしている。文=本誌/関 慎夫

NTTがしかけるスマートスタジアム

 イギリスのメディア大手、パフォームグループが、サッカーJリーグと来年度以降の放映権契約を結んだ。金額は10年間で2100億円、つまり年額210億円と、現在、今年度までスカパーが結んでいた契約に比べ4倍以上だ。

 パフォームは来年から、同社の展開するネットサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」で、J1、J2、J3の全カテゴリーの全試合をネット中継する予定だ。

 1993年にJリーグがスタートした当初は地上波でも数多くの試合が中継されていた。しかしJリーグブームが終わると視聴率は低迷、徐々に地上波中継は減り、今ではCS放送のスカパーが中心になっている。これはプロ野球も同様で、かつては巨人戦は全試合が中継されていたが、今では数えるほど。熱心なファンはスカパーを契約し、自分の贔屓チームを応援する。

 サッカーの日本代表戦など、国を代表して戦う試合は視聴率が稼げるが、日常行われるゲームは視聴率が取れない。今ではそれが常識となっている。それなのにパフォームは、従来よりもはるかに高値でJリーグと契約した。果たして採算が取れるのだろうか。

 実はこの契約は、日本のスポーツビジネスおよびスポーツ観戦の在り方を一変する可能性を秘めている。

 Jリーグはパフォームだけでなく、NTTグループとも契約を結んでいる。これがミソだ。その狙いは「スマートスタジアム」を実現することにある。

 スマートスタジアムとはWi-Fi環境を整備することで、インターネットを通じてさまざまな情報サービスやコンテンツを提供できる競技場のこと。例えばゲームを見ながら手元のスマートフォンで、ゴールシーンを何度もリプレイで見ることができるだけでなく、チームスタッツや選手の成績、過去の名シーンを振り返ることもできる。つまり目の前のゲームに加え、自分の見たいデータをすぐに呼び出すことができる。

 サッカー観戦といえば、試合中にはそれに集中し、ゴールが決まると喜びを爆発させる。熱狂的なサポーターならそれでもかまわないが、初心者にとっては、点のなかなか入らない試合は退屈極まりない。どこに注目して見ればいいかも分からないという人も多いに違いない。

日本のスポーツは「道」から「エンタメ」に

 プロ野球やJリーグ、それに大相撲などのプロスポーツにはそれぞれファンがいる。またフィギュアスケートやバレーボールの国際試合などは人気で、テレビの視聴率も高い。しかし日本のスポーツ市場は、それほど大きなものではない。スポーツ大国アメリカの市場規模は58兆円。それに対して日本の市場はわずか2兆5千億円。アメリカの20分の1以下。人口比で考えても10分の1だ。

 アメリカで行われるスポーツイベントは、マイナーの種目であっても多くの観客を集めている。それは、スタジアムが徹底してエンターテインメントを追求し、競技を知らなくても、家族で1日楽しめるよう工夫を凝らしているからだ。ところが日本のスタジアムは、前述のようにファン以外にはとっつきにくい。

 スマートスタジアムならその心配はいらない。例えば反則が起きた場合、何の反則なのか、すぐに教えてくれる。サッカーの場合、ルールが簡単だが、これがラグビーともなれば、初心者にとってルール解説は必須だ。これまでにもスタジアム内でFM放送による初心者向け解説を行った例があるが、インターネットならはるかに大量のデータを提供することができる。

 初心者にとって優しいだけではない。熱狂的なファンにしても、よりディープな情報をスマホを通じて得ることができる。さらには場内のプロジェクターを活用した新たなサービスもお目見えする。

 スタジアムに足を運ぶ人が増えればファンが増える。一度ファンになれば、贔屓チームのゲームの行方が気になるため、有料であってもネット放送を見ようという人も増える。また、パフォームからの契約金で各チームが潤えば、海外から有力選手を招く動きも出てくる。それによってゲームの質が上がればアジア各国で人気が出る可能性がある。これは海外での放送・配信につながる。

 今年の秋にはバスケットボールの新リーグ、Bリーグが始まるが、ソフトバンクが120億円で契約、ネット中継を行うことが決まっている。Bリーグの前身のひとつbjリーグは、会場のエンタメ化に力を注いできただけに、ここでも新しい楽しみ方が生まれるかもしれない。

 さらには2019年にはラグビーW杯が、その翌年には東京オリンピックが開催される。それに合わせて新国立競技場を筆頭に、各スタジアムもICT化を進めようとしている。NTTがJリーグでやろうとしていることは、恐らくW杯でもオリンピックでも試みられるはずだ。

三菱自の日産傘下入りで浦和レッズはどうなるのか

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
この夏飲みたい日本の酒

  • ・総論 量から質へ“こだわり”が求められる時代へ
  • ・埼玉・秩父から世界一へ イチローズモルトの奇跡
  • ・家庭でも酒場でもレモンサワーが飲まれる理由
  • ・幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港酒造
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・伊豆で愉しむ野趣なワインと夏の富士
  • ・トップが薦めるこの夏のビール

[Special Interview]

 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 「トップの器以上に会社は大きくならない」

[NEWS REPORT]

◆ヨーロッパに続け! 動き始めた日本の再エネ事業

◆東芝のPC事業を買収し8年ぶりに参入するシャープの勝算

◆日産―ルノー経営統合問題に苦慮するカルロス・ゴーン

◆大阪がエンタメで仕掛けるインバウンドと夜の経済

働きがいのある会社を総力取材

 人材育成企業20

 企業の成長戦略をクローズアップ

ページ上部へ戻る