政治・経済

意外に効果を発揮した野党共闘への危機感

 参院選が終わった翌日の月曜日の朝。選挙では圧倒的な強さを見せる東京の自民党中堅衆議院議員のマイクを握った姿が、選挙区内の駅頭にあった。

 「参院選では自民党候補の支援をありがとうございました」

 話は参院選のお礼で終わらなかった。安倍政権が公約で示した景気対策、子育て支援、介護などを必ず実現して行くとその道筋を訴えていた。

 そして、驚くことにこの議員は2週間が過ぎた今も、毎朝駅頭に立っている。参院選に勝利して多少は気を抜いてもよさそうなこの時期になぜそこまでやるのか――。私がそう問うと、こんな答えが返ってきた。

 「参院選は本当に与党の圧勝だったんでしょうかね。私はむしろ危機感を持ちますね」

 選挙区を常日頃から徹底して回っている彼は世論には鋭敏だ。

 「マスコミは改憲勢力で3分の2、だから圧勝と報じていますが、1人区で11議席も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をなめてはいけないということです。落ちた現職大臣2人も、安倍政権の重要な政策の柱の『沖縄』と『原発』ですからね。緩んでいたらしっぺ返しを食います」

 さらに、今回1人区で見せた野党統一候補について、実は民進党と共産党との間では衆院選の小選挙区でも同じように協力の話が進んでいる。共産党幹部は「295の小選挙区のうち、220でうちは引いても構わない。覚悟はできている」と言う。

 安倍首相周辺も、今回の結果をむしろ厳しく見ているという。選挙を知り尽くしている冒頭の議員や官邸中枢など、選挙を分かっている人間ほど、今回の結果を重く受け止めているのだ。

20160823NAGATACHO_P01

イラスト/のり

 「野党共闘はうまくいかないと甘く見ていましたね。せいぜい落としても4つぐらいだと。しかし11落とし、実を言うと投開票ギリギリまでさらに3つぐらい落としてもおかしくなかった。アベノミクスの恩恵がなかなか降りてこないことや、TPPに反対の地方で野党の受け皿が成功しているのが現実です。その野党共闘が次の衆院選でも水面下で進みつつあるのだから手を打たなければと総理も分かっているはずです」(首相側近)

 一方で、安倍首相にとっては悲願の憲法改正に向けて、残り任期、いよいよ勝負に出ることは間違いないと見ていいだろう。

 参院選は自民党56議席、公明党14議席、おおさか維新7議席、それに非改選の無所属など改憲へ前向きな勢力で、発議に必要な3分の2を確保した。衆議院は既に改憲勢力が3分の2を確保している。

 「環境は一応整った。総理は国対や党幹部に指示し、早ければ秋の臨時国会で憲法審査会の議論に入るでしょう。審議時間や国民投票まで考えればゆうに1年半から2年はかかる。安倍首相の総裁任期は2018年9月までですから、早々に始めるのではないでしょうか」(自民党国対中堅幹部)

憲法改正をめぐり次の政局が始まる

 ところが、ここへきて耳を疑うような「解散」情報が首相周辺から流れてきた。憲法改正へ向けて、既に3分の2という数がある衆議院のほうをわざわざ早期に解散させるのではないかというもの。そしてそこには、安倍首相の「本気度」と「任期ギリギリではなく一気に進めたいという狙い」があるという。

 ある自民党ベテラン議員が、首相に極めて近い側近から聞いた話としてこう語った。

 「衆参で数があっても最後に決まるのは国民投票だと首相は強く意識し始めた。衆参それぞれで3分の2で発議しても、国民投票で過半数の賛成がなければ達成できない。そこで、支持率も高い今解散して圧勝し、憲法改正のプレ国民投票として最初にお墨付きをもらう。そうすれば、今後やや慎重な公明党や改憲論議に応じない姿勢の民進党などに対しても、『総選挙で国民の改憲の支持は得ている』という口実でねじり伏せてどんどん進められる。最後の国民投票も当然そのままの流れで過半数は確保できるというシナリオをイメージしているらしい」

 その場合の解散日程は……。

 「その側近は、早ければ今年12月の可能性を話していた。この秋にかつてない大規模景気対策を打ち出し、北方領土問題でプーチン大統領の来日などで成果を得て選挙を有利に戦う。そもそもこれまで2回の総選挙はいずれも12月で大勝。暮れの忙しいときの投票率は上がらないから組織票がある自公が強い。12月なら再び改憲勢力3分の2を確保できると自信を持っているんだろう」(同ベテラン)

 ただ冒頭のように、参院選で一歩進んだ野党共闘が衆院選で進化する可能性も出てきた。緊迫の憲法改正をめぐる次の政局が始まろうとしている。

現実味を帯びてきた時間差ダブル選挙

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る