マネジメント

会社組織が小さいうちは、自らの背中を見せてリーダーシップを発揮してきたトッテン氏だが、規模が拡大するにつれ、社内コミュニケーションの仕組みづくりの重要性に気付いたという。今回も引き続き、アシストの非上場企業ならではの知恵と、経営哲学について聞いた。構成=本誌/吉田 浩 写真=幸田 森

自分が死んでも何も変わらない仕組みづくり

牛島 社内コミュニケーションの重要性を考えたときに、東芝の不正会計事件を思い出します。上司から「目標を達成しろ」という圧力があり、部下はそれに応えるために誤魔化しを行った。ものすごく簡略化するとそういう構図ですが、ある程度の規模を超えると一人一人の部下まで上司の目が届かなくなると思います。

トッテン だからこそ、目が届く範囲でコミュニケーションが取れる仕組みづくりが大事です。例えば、部長が5人、課長がそれぞれに5人、そして課長それぞれに5人の部下がいる。そういう5-5-5の体制だと100人以上の組織でも、きちんと目が行き届きますよね。この5人というのは、江戸時代の五人組から得た発想です。

牛島 そう考えていくと、5人の部長の上には取締役なり執行役員がいて、その上にCEOがいる。なんとなく、私が考えるリーダーたる経営者とフォロワーという関係性とはニュアンスが違うようにも感じますね。

トッテン 少なくともアシストでは違います。リーダーとフォロワーの話だと、リーダーが変わると会社も変わってしまう。そうではなく、僕がいなくなっても、会社が変わらず継続していくことを考えています。アシスト本舗という会社をつくってホールディングス化したのもそれが理由の1つです。例えば、突然僕が死んでしまうと、かつて持っていた当社の株式の相続税を妻は払うことができない。すると外部の誰かに株式を売却する必要がある。それを避けるために、持ち株会社をつくりました。そしてこの持ち株会社は、アシストのことをよく知る、アシストの人で運営しています。これにより、たとえ私がいなくなったとしても、アシストの理念は継続されるようになったと思います。

従業員のためのショートターミズム

牛島 話は変わりますが、歴史的に見ると17世紀に東インド会社ができて、株主が取締役を選任し、取締役が経営者を選ぶという仕組みができた。その仕組みは今も続いていて、世界的なスタンダードになっています。これはとても興味深いことで、株主には経営はできないんです。でも、例えばウォールストリートあたりの株主は「自分に利益をもたらせ」と大きな声を出す。従業員でも取引先でもなく、株主を一番大事にしろというわけです。今コーポレートガバナンスを論じる人の中で、こういった傾向を歓迎している人は少ないですが、ショートターミズムに偏向した動きは確実にあります。

トッテン 1980年代頃まで、日本の上場企業の資本のうち8割くらいは、銀行からの借り入れでした。それがアメリカ式になったら、四半期の決算が重要で、極論すると秒単位で株が売買されている。そんな環境では、上場企業に長期的視点を持てというのは難しくて当たり前です。

牛島 会社が一所懸命に会社を継続させるために活動していくと、おのずと中長期的視点で行動するはずですが、なぜ多くの企業はショートターミズムに走ってしまうのか。この理由は、株主中心主義にあるように思えてなりません。

トッテン そうとは言いきれないかもしれません。例えば、当社は四半期決算ではなく、4カ月ごとの三半期決算です。その理由は、年3回のボーナスを支払うと、最も法人税率が低かったから。そのボーナスは業績に連動しますから、三半期のショートタームで業績を追い掛けることになります。株主のためではなく、自分のボーナスのために、ショートターミニズムになっているんです。だから、利益を上げることはとても重要です。ただ、トップダウンでノルマを課さない。基本的には各事業部が「必要な経費」「使いたい経費」を申告するわけです。すると自然とそれに応じたノルマが計算できる。経費からノルマが決まるんです。ノルマを上回れば、ボーナスが増えます。

牛島 その仕組みで、社会への貢献は意識されているのでしょうか。

トッテン 当社は上場こそしていませんが、ガバナンスはとても大事だと思っています。ただ、意識的に社会のために何かを為そうとしているかというと、その点は弱いかもしれません。お客さま、社員と取引先はとても大事にしていますが、それと同等に社会に貢献しているかといえば疑問はあります。例えば、そこで社外取締役がいると違ってくるかもしれません。

牛島 現在、社外取締役はいないんですよね。

トッテン 過去にお招きしようという話が出たことはありますが、実現しませんでした。ただ、今回の対談で興味は出て来ましたね。

牛島 トッテンさんの過去の発言を読んでいると、とても人を大事にしておられる。社員一人一人が顧客に信頼してもらえれば、会社が信頼してもらえる。会社が信頼してもらえれば、その会社が扱う商品も信頼してもらえる。だからこそ、商品を買ってもらえるんだと。

トッテン それは昔、大きな間違いをしたからです。会社のノルマは経費から決めると言いましたが、かつてはトップダウンでノルマを決めていました。当然、社員はノルマを見るし、それを達成できなかったときの上司の顔色を気にします。お客さまよりもノルマ、上司を気にするようになるんです。結果、売るために商品の欠点をお客さまに言わなくなる。つまり、誠実ではなくなります。だからノルマの考え方を根本的に改めました。

 また、株主の方を見ているとショートターミズムになるという話がありましたが、株主は株を手放したら縁が切れますが、従業員はそうではない。会社が永続的に続くことを考えれば、株主よりも、雇用のほうが大事だと思えますね。雇用を守るために、お客さまを大事にするのかもしれません。

社外取締役が社内情報を外部の目にさらす窓口に

牛島 日本としては、アメリカからやって来たコーポレートガバナンスとも上手く付きあわないといけない。例えば社外取締役制度は導入しておきましょうというあたりに落ちつきそうなんですが、こういう流れはどう見ていますか。

トッテン 社外取締役も、ただ導入すれば良いというものではないでしょう。例えばEUではオンブズマン制度が役に立っていますが、これは見ようによっては社外取締役制度に似ているとも言えますよね。

牛島 オンブズマンと社外取締役ですか。おっしゃるとおり、似ている点はありますね。

トッテン 社外取締役も、取締役全体の一部ですから、発言の重さは他の取締役とは変わらない。ただ、取締役会でも社内の枠にとらわれない発言ができる。もう1つ、その会社で何が起こっているのか、社員に対しても、他の取締役に対しても、もっと言うと会社の外に発言をしていくことができる。この役割は大きいと思います。

牛島 意思決定に携わるだけではなく、外部への公正な情報発信の窓口にもなるんですね。

トッテン 僕個人は自己管理を徹底していて、恥ずかしいことをすると必ずバレると思っています。取締役会や会社の中を開かれたものにする、そこで何が行われていて、誰がどんな発言をしているのか、おかしいと思ったら外部に発信される、バレるという認識が必要です。僕は昔儒教を学びましたが、孔子はある王に「あなたが病に倒れず、誰かに殺されることもなく今、王であること、その運命に感謝しなさい」と言いました。同じことは経営者にも言える。社長になれたのも運命だから、社長であることに感謝しなさい。ガバナンスの根底にはこういう意識があると思っているんです。

牛島 それは哲学ですね。そういうお話になることが意外であると同時に、納得できました。その運命を受けいれた上で、やるべきことをやっていくんだということですね。

トッテン 経営者も、取締役も、社員もすべて同じです。やるべきことをきちんとやっていく、それが天命なんです。

(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

社員の「納得」で動く会社 ビル・トッテン×牛島信(後編)

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