広告掲載
経営者に愛読される雑誌に記事を掲載しませんか?

辻範明・長谷工コーポレーション社長に聞く「建設業界トップの高収益体質はなぜ生まれたか」

長谷工コーポレーション社長 辻範明氏

辻範明・長谷工コーポレーション社長プロフィール

辻範明氏

(つじ・のりあき)1952年岡山県生まれ。75年に関西大学法学部卒業後、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2005年専務執行役員、10年副社長兼長谷工アネシス社長を経て、14年に社長に就任した。

 

高収益を生む長谷工の強みとは

 

営業と技術の両輪が生んだ高収益

―― 前3月期決算は、売上高が前年比22・6%増の7873億円、営業利益は同61・0%増の687億円と、大幅な増収増益決算となりました。そして今期予想ではさらに伸びて、売上高8千億円、営業利益800億円を見込んでいます。建設業界で営業利益率10%とは信じられない数字です。

 利益率が伸びているのにはいくつか要因がありますが、いちばん大きいのは市場環境が変わったこと。自民党政権になってから官庁工事が増えただけでなく、オリンピック誘致が決まったことでその関連工事が加わった。さらには復興関連の工事も続いています。そのため大手ゼネコンの仕事量が膨大になり、マンション工事を手掛ける余裕がなくなった。そこでマンション専業の当社に発注が集中したことで業績が伸びています。

―― ゼネコンが他の工事を優先したのはマンション工事では利益が出ないからではないですか。それなのに長谷工はマンション専業で稼いでいる。

 利益率だけではなく、マンション工事にはアフターの問題があります、発注者の向こうにマンションを購入する多数の真のオーナーがいる。そこがむずかしい。その点、当社は昔からマンションに特化しています。自分たちで土地を手当てして設計・建設を行い、管理までやる。その一気通貫のグループ体制が出来上がっているのが他社との違いです。

 しかも、長谷工は土地を見つけ、それをデベロッパーに持ち込み受注するという、営業力が強い会社とのイメージがありました。しかし大栗育夫前社長(現会長)が技術出身ということもあり、技術力を外に向かってPRしたところ、技術の長谷工として評価してもらえるようになった。つまり営業と技術の両輪で受注できるようになったことが、今の状況につながっています。

成長のカギを握るストック事業

―― マンション工事に関しては盤石の体制が出来上がったわけですね。

 でも将来にわたってこの業績を維持できる保証はどこにもありません。確かに決算的にはここ1、2年は大丈夫ですが、2020年以降、今のままで生き残れるかというとそう簡単ではありません。少子化もあり、国内のマンション建設戸数は間違いなく減っていきます。その環境下で事業を伸ばしていくには、工事受注というフローだけでなく、サービス・管理といったストックの仕事をどれだけ伸ばすかが課題です。

 私が社長になる直前の14年3月期決算の営業利益は288億円、利益率は4・9%にすぎませんでした。そこで当時、3年後をメドにフローで230億円、ストックで120億円、全体で350億円の経常利益を安定的にあげる体制をつくる目標を立てました。ところが、フローがどんどん伸びて、利益目標を大きく超えました。でもストックはというと、少しずつ伸びてきてはいますが、まだ100億円程度で目標に到達していない。ここをもっと伸ばす必要があります。そこでM&Aなども組み合わせながら伸ばそうと考えています。

―― 先ほどおっしゃったように、長谷工の強みは土地情報から管理までの一気通貫体制にあります。マンション工事の受注が増えれば管理戸数もそれに伴って増えるのではないですか。

 そう簡単ではありません。というのも、当社の受注先の構成が大きく変わったためです。リーマンショック以前は大手デベロッパーが20%程度、中堅・中小デベが残りの80%でした。ところがリーマンショック以降は大手が増えて今は50%以上です。中堅・中小は自社で販売や管理部門を持たないため、ストック業務を請け負うことができました。ところが大手デベは自社に販売も管理も抱えている。ですから当社で扱うことは容易ではありません。

 そのため管理の戸数を増やそうとすると、他の管理会社をM&Aで買うか、他社が管理している物件をリプレースするしかない。ただしリプレースの場合は管理費を安くせざるを得ないため、収益にはつながらない。ですからストック事業を伸ばすのはそう簡単ではないのです。

―― 自社で開発までやれば、ストック事業を伸ばすことができます。

 そのとおりです。でも当社はバブル時代にデベロッパー事業に肩入れしすぎて大きな痛手を負いました。そのためデベ事業をほとんでやっていません。それに自分たちでデベ事業をやっていないからこそ、大手のデベロッパーの信頼を得て工事を発注していただいている。ですから単純に自社開発を行うわけにはいかない。

 ただし地方なら話は別です。当社は東京、名古屋、大阪の3大都市圏でしかマンション工事を行っていません。これは大手デベも同じで、地方ではほとんどマンション開発はしていない。そこで地方都市にあるグループ会社を拠点として、地元の工事会社と協力する形で開発できるのではないかと考えています。

 今「マンションのことなら長谷工」のテレビCMを全国で流しています。3年前にCMをつくった当初は3大都市圏でしか放映していなかった。しかし地方での知名度を上げる必要があると考え、2年前から地方でも流すようにした結果、知名度は随分上がったように思います。

 

高収益でも長谷工が「売上1兆円」を掲げない理由

 

海外でも目指す「マンションの長谷工」

―― 海外についてはいかがですか。

 バブル時代は海外事業にも積極的でしたが、その後、ハワイなど一部を除いて撤退しました。でも今はベトナムのハノイで110戸のサービスアパートメントの施工を行っています。これはローカルの工事会社を使いながら、日本国内の長谷工品質のマンションをどこまで追求できるかの検証の場でもあります。

 ASEAN各国は戦後の日本のような状況です。人口が増え、所得水準が上がり、中流層に対する住宅供給が増え始めた。この機をとらえ、商社や大手デベロッパーもマンション開発を検討しています。そこで「一緒にやらないか」と声を掛けられるケースが出てきました。これは先ほども申し上げたように、技術面でも長谷工のイメージが浸透してきたお陰です。

 ですからハノイの検証を経て、海外事業も今後増やしていく。海外でも「マンションの長谷工」と言われる存在を目指します。20年までを準備期間とし、20年以降に収益に貢献してくれればと期待しています。

マンション以外も準備だけは怠らず

―― 海外でも「マンションの長谷工」ですか。バブル期にマンション以外で大きなダメージを負ったのは分かりますが、極端な一本足打法は怖くないですか。

 確かに一本足打法ですが、マンション専業の強みを最大限発揮していこうと考えています。前期の首都圏のマンション供給戸数は3万8千戸でしたが、長谷工はそのうちの33%、1万2千戸の工事を施工しました。今後、マンション供給が減ったとしても、施工件数は維持していきます。例えば総戸数が3万戸になれば当社の施工シェアは40%になる。このほか高齢者施設なども今後伸ばしていきますが、それもあくまで住宅の枠の範囲内のことです。

 その一方で、本当にこれだけで大丈夫なのか、という思いは持っています。当社にはマンション以外に手を出して失敗したトラウマもあります。だけど、過去の歴史の尺度だけでものごとを見ていたのでは、世の中の変化についていけないことも事実です。

 ですから準備だけは進めています。それほど大きな金額ではありませんが、物流センターの工事も受注しました。ここで、どれだけ長谷工の力を発揮できるかを検証します。ただし、物流施設にはゼネコンなど、既に多くの事業者が参入しています。そこに今から入っていけるのかどうか、見極めなければなりません。

 新しいことへのチャレンジはリスクもあります。でも知らないからやらないというわけにはいかない。ですから備えだけは怠らず、新しい波が来たときにそれに対応できるだけの自己資本の充実を、今のうちにしておこうと考えています。

―― 今期売り上げ8千億円を達成すれば、次は1兆円ですね。

 過去に2度、1兆円という目標を立てました。一度はバブル時代、もう一度は10年ほど前のことです。

 しかしバブル崩壊とリーマンショックによってともに断念せざるを得なかったし、傷も負った。だから1兆円の目標は2度と立てないと決めています。気がついたら1兆円になっていた、となればいいと願っています。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る