マネジメント

営業と技術の両輪が生んだ高収益

―― 前3月期決算は、売上高が前年比22・6%増の7873億円、営業利益は同61・0%増の687億円と、大幅な増収増益決算となりました。そして今期予想ではさらに伸びて、売上高8千億円、営業利益800億円を見込んでいます。建設業界で営業利益率10%とは信じられない数字です。

 利益率が伸びているのにはいくつか要因がありますが、いちばん大きいのは市場環境が変わったこと。自民党政権になってから官庁工事が増えただけでなく、オリンピック誘致が決まったことでその関連工事が加わった。さらには復興関連の工事も続いています。そのため大手ゼネコンの仕事量が膨大になり、マンション工事を手掛ける余裕がなくなった。そこでマンション専業の当社に発注が集中したことで業績が伸びています。

―― ゼネコンが他の工事を優先したのはマンション工事では利益が出ないからではないですか。それなのに長谷工はマンション専業で稼いでいる。

 利益率だけではなく、マンション工事にはアフターの問題があります、発注者の向こうにマンションを購入する多数の真のオーナーがいる。そこがむずかしい。その点、当社は昔からマンションに特化しています。自分たちで土地を手当てして設計・建設を行い、管理までやる。その一気通貫のグループ体制が出来上がっているのが他社との違いです。

 しかも、長谷工は土地を見つけ、それをデベロッパーに持ち込み受注するという、営業力が強い会社とのイメージがありました。しかし大栗育夫前社長(現会長)が技術出身ということもあり、技術力を外に向かってPRしたところ、技術の長谷工として評価してもらえるようになった。つまり営業と技術の両輪で受注できるようになったことが、今の状況につながっています。

成長のカギを握るストック事業

20160823HASEKO_P01

(つじ・のりあき)1952年岡山県生まれ。75年に関西大学法学部卒業後、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2005年専務執行役員、10年副社長兼長谷工アネシス社長を経て、14年に社長に就任した。

―― マンション工事に関しては盤石の体制が出来上がったわけですね。

 でも将来にわたってこの業績を維持できる保証はどこにもありません。確かに決算的にはここ1、2年は大丈夫ですが、2020年以降、今のままで生き残れるかというとそう簡単ではありません。少子化もあり、国内のマンション建設戸数は間違いなく減っていきます。その環境下で事業を伸ばしていくには、工事受注というフローだけでなく、サービス・管理といったストックの仕事をどれだけ伸ばすかが課題です。

 私が社長になる直前の14年3月期決算の営業利益は288億円、利益率は4・9%にすぎませんでした。そこで当時、3年後をメドにフローで230億円、ストックで120億円、全体で350億円の経常利益を安定的にあげる体制をつくる目標を立てました。ところが、フローがどんどん伸びて、利益目標を大きく超えました。でもストックはというと、少しずつ伸びてきてはいますが、まだ100億円程度で目標に到達していない。ここをもっと伸ばす必要があります。そこでM&Aなども組み合わせながら伸ばそうと考えています。

―― 先ほどおっしゃったように、長谷工の強みは土地情報から管理までの一気通貫体制にあります。マンション工事の受注が増えれば管理戸数もそれに伴って増えるのではないですか。

 そう簡単ではありません。というのも、当社の受注先の構成が大きく変わったためです。リーマンショック以前は大手デベロッパーが20%程度、中堅・中小デベが残りの80%でした。ところがリーマンショック以降は大手が増えて今は50%以上です。中堅・中小は自社で販売や管理部門を持たないため、ストック業務を請け負うことができました。ところが大手デベは自社に販売も管理も抱えている。ですから当社で扱うことは容易ではありません。

 そのため管理の戸数を増やそうとすると、他の管理会社をM&Aで買うか、他社が管理している物件をリプレースするしかない。ただしリプレースの場合は管理費を安くせざるを得ないため、収益にはつながらない。ですからストック事業を伸ばすのはそう簡単ではないのです。

―― 自社で開発までやれば、ストック事業を伸ばすことができます。

 そのとおりです。でも当社はバブル時代にデベロッパー事業に肩入れしすぎて大きな痛手を負いました。そのためデベ事業をほとんでやっていません。それに自分たちでデベ事業をやっていないからこそ、大手のデベロッパーの信頼を得て工事を発注していただいている。ですから単純に自社開発を行うわけにはいかない。

 ただし地方なら話は別です。当社は東京、名古屋、大阪の3大都市圏でしかマンション工事を行っていません。これは大手デベも同じで、地方ではほとんどマンション開発はしていない。そこで地方都市にあるグループ会社を拠点として、地元の工事会社と協力する形で開発できるのではないかと考えています。

 今「マンションのことなら長谷工」のテレビCMを全国で流しています。3年前にCMをつくった当初は3大都市圏でしか放映していなかった。しかし地方での知名度を上げる必要があると考え、2年前から地方でも流すようにした結果、知名度は随分上がったように思います。

海外でも目指す「マンションの長谷工」

―― 海外についてはいかがですか。

 バブル時代は海外事業にも積極的でしたが、その後、ハワイなど一部を除いて撤退しました。でも今はベトナムのハノイで110戸のサービスアパートメントの施工を行っています。これはローカルの工事会社を使いながら、日本国内の長谷工品質のマンションをどこまで追求できるかの検証の場でもあります。

 ASEAN各国は戦後の日本のような状況です。人口が増え、所得水準が上がり、中流層に対する住宅供給が増え始めた。この機をとらえ、商社や大手デベロッパーもマンション開発を検討しています。そこで「一緒にやらないか」と声を掛けられるケースが出てきました。これは先ほども申し上げたように、技術面でも長谷工のイメージが浸透してきたお陰です。ですからハノイの検証を経て、海外事業も今後増やしていく。海外でも「マンションの長谷工」と言われる存在を目指します。20年までを準備期間とし、20年以降に収益に貢献してくれればと期待しています。

マンション以外も準備だけは怠らず

―― 海外でも「マンションの長谷工」ですか。バブル期にマンション以外で大きなダメージを負ったのは分かりますが、極端な一本足打法は怖くないですか。

 確かに一本足打法ですが、マンション専業の強みを最大限発揮していこうと考えています。前期の首都圏のマンション供給戸数は3万8千戸でしたが、長谷工はそのうちの33%、1万2千戸の工事を施工しました。今後、マンション供給が減ったとしても、施工件数は維持していきます。例えば総戸数が3万戸になれば当社の施工シェアは40%になる。このほか高齢者施設なども今後伸ばしていきますが、それもあくまで住宅の枠の範囲内のことです。

 その一方で、本当にこれだけで大丈夫なのか、という思いは持っています。当社にはマンション以外に手を出して失敗したトラウマもあります。だけど、過去の歴史の尺度だけでものごとを見ていたのでは、世の中の変化についていけないことも事実です。

 ですから準備だけは進めています。それほど大きな金額ではありませんが、物流センターの工事も受注しました。ここで、どれだけ長谷工の力を発揮できるかを検証します。ただし、物流施設にはゼネコンなど、既に多くの事業者が参入しています。そこに今から入っていけるのかどうか、見極めなければなりません。

 新しいことへのチャレンジはリスクもあります。でも知らないからやらないというわけにはいかない。ですから備えだけは怠らず、新しい波が来たときにそれに対応できるだけの自己資本の充実を、今のうちにしておこうと考えています。

―― 今期売り上げ8千億円を達成すれば、次は1兆円ですね。

 過去に2度、1兆円という目標を立てました。一度はバブル時代、もう一度は10年ほど前のことです。しかしバブル崩壊とリーマンショックによってともに断念せざるを得なかったし、傷も負った。だから1兆円の目標は2度と立てないと決めています。気がついたら1兆円になっていた、となればいいと願っています。

 

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

コエンザイムQ10のCMで知名度向上、売上高1兆円を目指すカネカ--カネカ社長 角倉 護

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
65歳からのハローワーク

  • ・総論 働く上で「年齢」は意味を持たなくなる
  • ・50歳からの15年間の準備が豊かなセカンドライフを保証する
  • ・エグゼクティブのセカンドキャリア最前線
  • ・企業のシニア活用(富士通、ネスレ日本、鹿島)
  • ・副業のすすめ 現役時代の副業は定年以降のパスポート
  • ・島耕作に見るシニアの今後の生き方 弘兼憲史

[Special Interview]

 赤坂祐二(日本航空社長)

 「中長距離LCC事業には挑戦する価値がある」

[NEWS REPORT]

◆社員の3分の1を異動したWOWOWの危機感

◆迷走か、それとも覚醒か B2Cの奇策に出るJDI

◆外国人労働者受け入れ解禁で どうなる日本の労働市場

[特集2]

 開幕まで1年!

 ラグビーワールドカップ2019

ページ上部へ戻る