マネジメント

2014年度の売上高1兆円達成後、大きな買収案件がなかった日本電産だが、ここに来て過去最大規模の買収を成立させた。M&Aで高値掴みしない同社だけに「適正価格で買収できた」と永守重信会長兼社長は胸を張る。これを機に中期計画の重点事業を大きく飛躍させる構えだ。文=本誌/村田晋一郎

欧州景況悪化と円高が引き寄せたタイミング

 日本電産が米エマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ事業と発電事業の買収を発表した。具体的にはエマソン傘下の仏ルロア・ソマー(LS)社と英コントロール・テクニクス(CT)社などで、買収事業の2015年9月期の売上高は16億7400万ドル。買収額は1200億円で、日本電産にとっては過去最大規模の買収となる。なお、日本電産は10年にエマソンからモータ事業(EMC事業)を買収している。

 日本電産の成長戦略は、既存事業の自律成長と企業買収が車の両輪となっている。14年度には売上高1兆円を達成。事業規模が1兆円になると、売上高3千億~5千億円規模の会社が買えるようになるため、大型買収を匂わせる発言をしていた。しかし、翌15年度は大きな買収案件はなかった。

20160906NIHONDENSAN_P01

永守重信・日本電産会長兼社長CEO

 15年度は小規模の会社を7社買収した一方で、8社の買収を見送ったという。永守重信会長兼社長CEOは「M&Aで失敗しない」と語るが、その秘訣は決して高値掴みをしないこと。同社はすべての事業において営業利益率15%を達成することが経営のノルマになっているが、M&Aにおいても判断材料になっている。買収後にのれんの減損を計上した上で、いかに早期に営業利益率15%を達成できるかが決め手となる。「15%の利益が出せない事業には近づかない」と永守会長は強調する。そして、買収価格が高いと判断すれば、適正価格に下がるまで我慢して待つ。

 今回買収した事業も以前から買収したいと思っていたが、昨年は円安基調で、なおかつ事業も好調で買収価格が高く、見送っていたという。それが今年に入って、欧州の景況感の悪化で事業が低迷し、さらに為替が円高に振れて条件が好転してきた。

 今回の事業は、既に10%以上の営業利益率を達成している。日本電産の見立てでは、エマソンの事業売却は短期的に事業環境が悪化していたからであり、事業環境が回復すれば、さらなる成長が期待できるという。

 「こういう時期にこういう会社を買わなければならない。会社を買うタイミングが絶妙だった」と永守会長は語る。

過去最大規模の買収に死角はないか

 日本電産は中期戦略目標「Vision2020」を掲げ、20年度に売上高2兆円を目指している。従来の柱である精密小型モータに加え、車載用と家電・商業・産業用を重点2事業と位置付け、20年には車載用で7千億~1兆円、家電・商業・産業用で4千億~6千億円の売り上げを見込んでいる。今回の買収は、そのうち産業用・商業用を強化するもの。具体的にはLS社の発電機事業とモータ&ドライブ事業、CT社のドライブ事業が加わる。

 今回の買収で20年度目標の下限の4千億円はクリア、自律成長と合わせ20年までに目標上限の6千億円を達成できるめどが立った。全社売上高2兆円の達成も早まる可能性が高い。

 世界のマーケットおよび製品の観点から、今回の買収で家電・商業・産業用の事業のパズルはだいたい埋まったという。これまで日本電産の産業用モータは米NEDA規格が中心で北米地域に強いが、買収事業は欧州・アジアに強いIEC規格に準拠しており、欧州・アジアでのプレゼンスをさらに拡大できる。また、日本電産は10メガワット以上の中圧発電機に強みを有するが、買収事業は10メガワット未満の低圧・中圧発電機に強みを有しており、発電機の製品ラインアップを拡充する。これにより、ポートフォリオは一通り揃った格好で、今後は規模の拡大を図っていく。世界シェアナンバーワンを目指すため、永守会長はあと3社買収する考えを明らかにしている。

 あえて懸念材料を挙げるとすれば、過去最大規模の買収となっただけに、抱える人材も9703人と過去最大規模となる。もともと利益率の高い事業体とはいえ、期待どおりのオペレーションができるかは、やってみなければ分からない部分がある。特に今回の事業会社はフランスの会社が中心となるが、日本電産は過去にフランス企業の経営で苦労した経験がある。永守会長としても多少の不安は感じているようで、既に外部からマネジメントの人材を招聘する予定だという。

 一方で、オペレーションの懸念を払拭するかのように、今回の買収発表の会見で、事業責任者である日本電産モータCEO/家電産業事業本部リーダーのケイ・パン氏が強調したのが「Nidec Way」だ。

 パン氏はエマソンのEMC事業出身で、13年から日本電産モータCEOを務めている。パン氏自身、EMC事業が買収された直後は、Nidec Wayと称される日本電産の経営手法を理解できなかったが、2~3年かけて理解できるようになり、今では実践し利益を上げているという。「EMC事業は、営業利益率を4%から10%に引き上げるのに6年かかったが、今回買収する事業では2~3年で達成できる」と今後のオペレーションに自信を見せる。

 Nidec Wayの徹底と遂行が今回の買収成功の鍵になるだろう。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る