政治・経済

2016年3月期の連結決算で2403億円の最終利益を出し、初の首位となった伊藤忠商事。一方、最終赤字からの巻き返しを狙う三菱商事、三井物産。丸紅、住友商事の加えた5大商社の中で、幸先良いスタートを切ったのは、どの商社だったのか。文=本誌/古賀寛明

巻き返しを狙う三菱商事、三井物産

 国際会計基準を導入する商社業界で、2016年4~6月期(1Q)連結決算が発表された。5大商社の中で、予想をもっとも良い意味で裏切ったのが三菱商事。16年3月期の決算では最終赤字に転落し、16年振りに業界首位を明け渡したが、期が変わり、さっそく想定以上の数字を出している。

 三菱商事の1Q純利益は1008億円。通期計画の2500億円に向けて、進捗状況でも既に40%を超えるなど幸先のいいスタートとなった。傘下の伊藤ハムと米久の経営統合による株式売却益やシェールガス事業の再編といった320億円の一過性の利益はあるものの、ノルウェーやチリで行っているサケ・マス養殖事業の市況回復や、豪州石炭事業の生産コスト改善などによる増益で、今も続く資源価格の低迷といったマイナス要因を吹き飛ばす原動力となった。中でも、豪州の石炭事業は5四半期ぶりに黒字へ転換。原料炭市況も堅調であることから、通期計画の上方修正も十分あり得そうだ。今年4月に垣内威彦社長に変わり非資源分野へのさらなる強化もすすむ。何より社長自身が買収を主導したサケ・マス養殖事業のセルマックがけん引していることが商事復活を印象付けている。

 一方、同じく前年度に最終赤字に転落した三井物産も三菱商事ほどではないものの、証券各社が予想していた想定以上の滑り出しを見せた。例えば、JPモルガン証券は、連結の純利益を310億円と予想していたが、実際は、611億円とほぼ2倍。内容も、これまで三井物産の利益は、資源がほとんどを稼ぐ一本足打法と言われてきたが、今年5月に行われた事業計画の説明会においても、ボラティリティーの高いこれまでの収益モデルから安定収益が見込める事業へ転換していくとしていた。

 さっそくその成果が現れたのか、非資源分野の機械・インフラ部門が186億円、化学品部門が52億円とそれぞれ稼ぎ出している。また、価格低迷の続く資源分野でも、金属部門が167億円の利益を創出。これは、物産の長年にわたる資源ビジネスの賜物である競争力のある資産のおかげだといえる。金属資源は通期でも約600億円の利益を見込んでおり、原油市況が50ドルを割るなど、価格が低迷するなか、資源分野を支えている。

 資源分野のエース級人材を安定的な収益事業へと投入していく話もあり、通期の会社計画2千億円の達成も見えてきたのではないだろうか。

空売りファンドに引っ張られた伊藤忠商事

 思わぬ問題に巻き込まれたのが、ほかからの追い上げを迎え撃つ形の伊藤忠商事。決算発表を控えた7月27日に、米投資ファンドのグラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠商事の過去の会計処理において問題ありとし、想定株価を631円に設定するレポートを出した。このレポートで27日は、前日比126円安の1135円まで株価が急落する場面もあったが、伊藤忠側もすぐに「会計処理に不正はない」と反論。8月5日現在、株価は1100円台後半で推移し、グラウカスの思惑は外れた格好だ。空売りした後にレポートを出すグラウカスの手法は、海外では珍しくはないそうだが、証券取引所は懸念を示しており、今なお物議を醸している。

 その伊藤忠商事の1Q純利益は昨年同期比39・8%減の731億円。その内、95%を非資源分野が稼ぐ。医療機器事業売却益など一過性のものを除けば、強みである食料部門が中心で、中国のCITIC、タイのCPとの共同事業関連でも126億円の利益を計上している。共同事業は通期でも700億円と見込んでおり、この事業如何が、商社トップの座を左右しそうだ。

 そして、一昨年は最終赤字、昨年はなんとか745億円の最終利益を出した住友商事だが、今期も資源で苦しんでいる。1Qの純利益は227億円。南米で税金に絡む損失が出たこと、マダガスカルのニッケル鉱山の減収で赤字となった。屋台骨を支えるJCOMや航空機リースといった非資源部門が堅調に推移したものの、全体としては振るわなかった。

 5大商社の中で一番遅い8月5日に決算発表を行った丸紅も苦しい状況が続く。1Q純利益は484億円。通期予想1300億円に対し37%の進捗率と悪くはないが、米穀物大手のガビロンは減益、今回も期待外れに終わった。また、これまで好調だった農業肥料などを扱うヘレナも円高による影響で減益を余儀なくされた。一方、強みである電力・プラント事業は引き続き好調で前年同期に比べても44億円増益の135億円。北米自動車事業の売却益もあり、輸送機部門と2部門で引っ張る格好となった。

 ほんの数年前、資源価格の高騰でこの世の春を謳歌していた商社業界だが、その勢いで手にした資産が今、重荷となっている。今後の行方も、競争力のある資産と、市況と為替も含めた舵取りがカギを握る。

 17年3月期のレースも、まだ第一コーナーをまわったばかり、ゴール地点で笑うのはどこの商社だろうか。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る