マネジメント

安倍首相が踏み込む同一賃金同一労働

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(なんぶ・やすゆき)1952年生まれ、神戸市出身。関西大学工学部卒業1カ月前に人材派遣業のテンポラリーセンター(現パソナ)を設立。87年に米国に移住するが、95年、阪神大震災を機に帰国。復興事業にあたる。現在、パソナ代表取締役グループ代表兼社長を務める。

―― パソナの前身であるテンポラリーセンターが誕生して今年で40年です。この40年を振り返った感想は。

南部 一番うれしかったのは、安倍晋三首相が今年の施政方針演説で働き方改革について触れ、「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」と述べたことです。これこそ、僕が40年前に会社を立ち上げた時に錦の御旗として掲げたものだからです。

 当時、女性は結婚や出産によって会社を辞めてしまうと、その後、働こうと思っても、パートかアルバイトしか選べなかった。せっかく高いスキルを持っていても、それを生かす場所がなかった。その悩みを解決するために立ち上げたのがパソナです。その基本的な考えがまさに、同一労働同一賃金で、1日の労働時間が4時間であったとしても、時給換算したら正社員と同じ賃金を得ることを目指していました。

 ですから安倍首相が国会でこの言葉を口にしたことで、時代が大きく動きつつあることを実感しました。

―― 安倍首相の掲げる1億総活躍社会そのものが、パソナが目指してきたものですね。

南部 1億総活躍のためには、女性と中高年が活躍することが不可欠です。

 女性については先ほど言ったように、パソナ創業のきっかけですし、パソナ自身も女性を積極的に登用してきました。そして今年4月、女性活躍推進法が施行されました。われわれがずっと進めてきたことが法律になった意味は非常に大きいと考えています。これまで遅々として進まなかったことが、総理が方向性を示してくれたことで、加速していくのではないかと期待しています。

 中高年の活躍についても、パソナでは定年のない社会づくりを目指してきました。「豊かな知識や経験を持つ中高年こそ企業はもっと活用すべき」と考え、業界初となる中高年専門の人材派遣会社を設立し、中高年の再就職支援にも積極的に取り組んできましたが、こうした活動を評価されたように思います。

予兆を見極めるにはよく聞きよく見ること

―― 40年前は、人材派遣そのものに対してネガティブにとらえる人も多かった。それが今では職種も拡大し、働き方としてスタンダードになってきました。その意味で南部さんは社会の先取りを行ってきたことになりますが、その先見性はどこで培われたのですか。

南部 僕に先見性はありませんよ。あるとしたら、いろんな人から話を聞いて、その声を吸収することと、一度始めたら途中で諦めない。そうした力はあると思います。

 世の中の先行きを見通していたわけではありませんが、主婦の方の多くが、育児もひと段落したので働きたいけれど、スーパーのレジの仕事ぐらいしかなく、自分のスキルが生かせない、と困っていた。この悩みに応えようとして始めたのが、たまたま人材派遣だったのです。そしてこれを40年間、ずっと続けてきました。

 パソナが始めた日本初、というのはたくさんあります。一例をあげれば、1990年代、内外価格差の問題に取り組んだこともあります。

 当時は化粧品にしてもブランド品にしても、日本で買うのと海外で買うのとでは値段が大きく違った。そこで複雑な流通機構を改革することで、価格差を是正しようと考えたのです。その結果、内外価格差は縮小し、アウトレットなどの新しい業態も誕生した。その先鞭をつけたのはパソナです。

 あるいは確定拠出型年金、いわゆる401kを最初に導入した企業もパソナです。海外では当たり前だった制度を日本にも持ち込んだ。パソナグループの社員を対象に始めたものですが、今では国の制度となっています。

 いずれも、僕のひらめきによって始めたものではありません。社会に問題があって、その問題に多くの人が気付いていた。僕はそれをつかみ、その問題解決を手伝ってきただけです。それが世の中の流れになっていった。今の状況をよく見て、人の話をよく聞く。そうすることでこれから必要なものが見えてくる。その意味で、兆しは今にあるのです。

淡路島プロジェクトは地方創生のモデルケース

―― 南部さんが力を注いでいる農業プロジェクトも、株式会社の農業参入が認められる前から始めていますね。

南部 農業を言い始めたのは2001年のことで、03年から八郎潟(秋田県)でプロジェクトを始めました。ただし農業そのものに興味があったわけではありません。当時、若者のフリーターが問題になっていました。その一方で団塊世代が定年を迎える「2007年問題」が迫りつつあった。こうした問題を解決するには雇用の場をつくらなければなりません。その一つの方法が農業だったのです。

 ですから最初は農地法のことも分からないから、農地を買ったり借りるのが難しいことだとは知らなかった。でも諦めずに続けていたところ、あとに続く企業も増えてきたし、農地法も改正され、農地の所有も以前に比べればはるかにたやすくなりました。

―― 今は淡路島に広大な農地を持ち、多くの若者たちが働いています。

南部 淡路島の「チャレンジファーム」の農地は約9ヘクタールに及びます。これまで約40人がプログラムに参加、ファームで働いてきました。同時に、現地の雇用も相当数、生んでいます。彼らは農業だけでなく、「食・農・学・芸」の活動を行い、それを全国に発信しています。さらに地域のベンチャーを創出するなど、淡路島を基点にさまざまなチャレンジを行っています。

―― 地方創生ですね。

南部 そのひとつのモデルケースをつくりたいと考えています。地方の企業誘致というと、よくあるのがコールセンターです。でもこれでは、東京で稼いだお金を地方に回しているようなもので、地方で何かを生んでいるわけではありません。地方で産業を興し、そこで売り上げをつくり、雇用も生む。そこに自治体も一緒になって、官民一体で地方創生を行っていくことが必要です。今パソナが淡路島でやっていることはまさにこれで、ここをモデルケースとして、全国各地で産業を興していく。

 地方創生はパソナ1社でできることではありません。ただし、パソナがやることで、こういうやり方があることに気付いてもらう。さらにはノウハウも学んでもらう。そうした人たちが全国に散らばり、それぞれの地方を活性化させていけば、日本経済は今よりも元気になるはずです。

日本が直面する課題を雇用によって解決する

 

―― 40年の間には苦しかった時代もあったでしょう。

南部 創業時は人材派遣に対する理解もなく、登録者を募集する広告を新聞に掲載させてもらえなかった。振り返ると、これがいちばんきつかった。あとは、それほど苦しかったという思い出はありません。

 というのも、すべて人に恵まれたからです。僕は経営数字にタッチしたことはありません。全部仲間、社員がやってくれている。創業した時の仲間は、いまでもみな仲がよく、監査役や関連会社の社長を務めています。また創業からしばらくは私の父、上場時には中山さん(隼雄・セガ元社長)、そしていまは竹中さん(平蔵会長)と軍師にも恵まれた。すべて、こうした人たちの出会いがあったからこそ、今日を迎えることができたのです。20160906PASONA_P03

―― 50周年や60周年を迎えるとき、パソナはどんな姿になっているのでしょう。

南部 創業40周年を迎えるにあたり、パソナの事業のすべてを「Smart life Initiative」と位置付けました。そしてそのためには、一人ひとりが自分のライフスタイルにあわせて働くことのできる「Independent Work System」を確立する必要があります。

 日本は待機児童やシングルマザー、介護離職や中高年の貧困、地方創生など、さまざまな問題を抱えています。これらの問題を「Independent Work System」によって解決していきます。

 待機児童問題の本質は、保育園が足りないことより、出産・育児のため退職すると、再就職がむずかしいことにあります。同様に、中高年の貧困も、介護離職も、シングルマザーも、地方創生も、すべて、雇用に関わります。働きたいときだけ働ける仕組みや、長期的に自分の能力を高めてキャリアアップを図れる仕組みがあれば、こうした問題は解決できるのです。

聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐藤元樹

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