文化・ライフ

初のエントリーでダービーを制す

 NPB歴代7位の通算504本塁打を記録した衣笠祥雄は目を丸くして、こう語った。

 「メジャーのスカウトたちが、日本人には少なくなった体の回転で打つタイプだというからジーッと見ていた。確かに足を大きく上げることなく踏み出してから体が真横に出てきている。きれいなホームランを打つだろうな、そう思っていたら案の定ですよ」

 衣笠が大谷翔平(北海道日本ハム)の成長ぶりに目を引かれたのは、今年のオールスターゲームのホームランダービーだ。

 大谷は山田哲人(東京ヤクルト)、柳田悠岐(福岡ソフトバンク)という昨季のトリプルスリー(3割.30本塁打.30盗塁以上)を相手に、9本の“柵越え”に成功。初のエントリーでダービーを制してみせた。

 いくらアトラクションとはいえ、こうもポンポンと放り込めるものではない。あらためて大谷の怪物性が浮き彫りになった。

 そこで今回は打者・大谷の将来性について論じてみたい。

 大谷の全国区デビューは2012年のセンバツである。エースで4番の大谷率いる花巻東(岩手)は、1回戦で藤浪晋太郎(現阪神)を擁する大阪桐蔭と対戦した。

 試合は大阪桐蔭が9対2と勝利し、そのまま頂点に駆け上がるのだが、2回、大谷が藤浪から放ったライトスタンドへのホームランは今でも語り草だ。

 カウント2ボール2ストライクからの低めの変化球をすくい上げた。懐の深さといい、スイングの速さといい、フォロースルーの大きさといい、とても高校生のそれではなかった。

 早くから大谷をマークしていたスカウトがいる。東京ヤクルト東北・関東担当の八重樫幸雄だ。

 当時、大谷について聞くと、こんな感想を口にした。

 「ここ10年間で、私が見た中では最高のバッター。左右どちらにも打てて飛距離もある。横浜高校からドラフト1位で横浜(現DeNA)に入団した筒香嘉智もよく飛ばしましたが、それ以上と言っていいでしょう。

 しかも、彼の場合、金属バットの打ち方じゃないんです。ちゃんとバットの軌道の中にボールを入れて打っている。

 まだインサイドの速いボールには対応できないと思いますが、これも時間がたてば十分に克服できるでしょう」

 高校通算56本塁打。八重樫によれば、打者としても“10年にひとりの逸材”だった。

 プロ2年目に11勝、10本塁打をマークした。2桁勝利、2桁本塁打はあのベーブ・ルース以来、96年ぶりだということで随分、話題になった。

“天は二物を与えず”のことわざは当てはまらず

 ピッチャーとしては昨季15勝(5敗)、防御率2.24で最多勝と最優秀防御率に輝いた。

 今季は打者としての才能が一気に開花した。

 5月4日から17日にかけて記録した5試合連続ホームランを含め、8月3日まで14本塁打。打率も3割5分3厘とハイアベレージを記録している。

 14本塁打の打球方向を調べているうちに、またひとつ大谷の非凡さに気付かされた。

 打球方向はレフトに9本、センターに1本、ライトに4本と反対側の方が多いのだ。

 広角ヒットならぬ広角ホームランである。技術とパワー双方を兼ね備えていなければ、こんな芸当はできない。

 「打者に専念すればケン・グリフィーJr.のようになれる」

 衣笠はこう絶賛する。

 グリフィーJr.とはメジャーリーグ通算630本塁打の1990年代を代表するスラッガー。最大級のほめ言葉だ。

 衣笠は語った。

 「大谷は体の回転で打つタイプだと言いましたが、まだそのスピードが遅い。回転が遅いから体がライト方向に向かない。その分だけ差し込まれて、ホームランはレフト方向が多くなっている。バットを振る量、ボールを打つ量を増やしていけば、もっとライトにも大きい打球が飛ぶようになるでしょう」

 そして、続けた。

 「大谷は3千本安打を打てる素質を持っている。でも二刀流を続ければ出場試合が限られる。結果、1500本でプロ生活を終えたときに、周囲の人は納得するのか。もったいない気もしますね」

 天は二物を与えず、というが、大谷に限って言えば、このことわざは当てはまらない。

 加えて甘いマスクに外国人選手と比べても見劣りのしない体格。天が二物どころか三物も四物も与えた希有な例といっていいだろう。

 このところ、二刀流批判もトーンダウンしている印象がある。これだけのピッチングとバッティングを見せつけられれば、黙るしかない。

 誰かが切り拓いた道を進むのではなく、大谷が歩いた荒野が道に変わる――。そんな光景を、今、私たちは目の当たりにしている。(文中敬称略)

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