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シャープ再建で早くも見え始めた「鴻海流経営」

鴻海精密工業からの出資が完了し、シャープは新たに戴正呉社長の下で再建のスタートを切った。給与削減中止など従業員の士気を考慮する一方で、大胆な組織改革に着手。組織をスリム化し迅速な経営判断が可能な鴻海流の手法を持ち込もうとしている。文=本誌/村田晋一郎

 

鴻海・戴正呉流の社員への「アメとムチ」

 

台湾の鴻海精密工業によるシャープ支援が決定してから4カ月、契約期限の10月5日までに得られるかが怪しくなっていた出資がようやく8月12日に完了した。シャープの第三者割当増資における3888億円の払い込みを完了し、鴻海はシャープの議決権の66%を取得。これにより鴻海傘下になったとはいえ、ひとまずシャープの経営危機は過ぎ去ったと言ってよい。

債務超過が解消し、シャープの財務状況は改善したと判断され、格付投資情報センター(R&I)の格付けも「トリプルCプラス」から「シングルB」に2段階引き上げられた。また米格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も格付けを「トリプルCプラス」から「シングルBマイナス」に1段階引き上げた。

出資完了後に予定されていたトップ交代も速やかに行われた。髙橋興三・前社長は8月12日に退任。翌13日に事前の発表のとおり、鴻海副総裁の戴正呉氏が社長に就任した。

戴社長の最初の仕事として、シャープの夏季休暇が明けた8月22日、全社員に向けて社長メッセージを発信。そこでは短期的な目標として早期の黒字化と成長軌道への転換、長期的目標として次期社長の育成・抜擢、企業文化の創造を掲げた。

「早期の黒字化を実現し、輝けるグローバルブランドを目指す」と題したメッセージは、まずは社員のモチベーション向上に努め、鴻海流の「アメとムチ」を提示した印象を受ける。

メッセージ冒頭で、今回の鴻海からの出資が買収ではなく、あくまで「投資」であることを強調。そして一般社員については、これまで実施してきた給与減額を実質的に廃止。9月23日給与より給与減額分を手当として支給する。なお、管理職については、信賞必罰に基づき、成果を上げている人を対象に給与減額分の手当を支給するという。6月の鴻海の株主総会では、7千人規模の人員削減の可能性について言及していたが、まずは人員削減よりも士気を高めることを優先するようだ。

 

鴻海のスピード経営にシャープはついていけるか

 

再スタートを切るシャープの現状はどうか。鴻海の出資決定至近の2016年4~6月期の決算は決して芳しいものとは言えなかった。

売上高は前年同期比31・5%減の4233億円、営業利益は25億円の赤字、純利益は274億円の赤字となった。売上高はすべてのセグメントで大きく減少。液晶や電子部品については、「大型顧客の需要が低迷した」としており、米アップルの「iPhone」の需要低迷の影響を受けたという。その一方でコストダウンと固定費削減効果により、営業利益は前年同期の287億円の赤字から赤字幅が縮小。ソーラーとディスプレーデバイスが足を引っ張ったほかは、黒字となっており、「ここがボトム」(野村勝明・シャープ副社長)という認識だ。

では、戴社長は、どう成長へ舵を切っていくのか。社長メッセージでは、構造改革について、「ビジネスプロセスを抜本的に見直す」「コスト意識を大幅に高める」「信賞必罰の人事を徹底する」の3つの方針を掲げた。

この社長メッセージ発表の4日後、大規模な組織改革を実行。まず、経営企画本部や経営管理本部、東京支社などを解消し、社長室と管理統括本部に再編。戴社長への権限を集中させる。22人いた執行役員については1人に削減。品質・環境本部長の谷口信之氏だけが残り、組織のスリム化を図る。

昨年10月に導入されたばかりの社内カンパニーを見直し、5つのカンパニーに分かれていた事業を10の事業本部に再編。重点事業であるディスプレイカンパニーはカンパニーを存続させた上で、傘下に3つの事業本部を新設させる。各事業本部で迅速な意思決定を行う「分社化経営」を展開する。

また、社長メッセージで掲げたグローバルブランドに関しては、主導的にシャープブランドの価値を高めるため、海外展開も見直す。新たに海外事業統括を設置し、鴻海との連携も強化していく。

既に海外事業では動きを見せており、香港・マカオ市場に参入する当初の目的は果たしたとし、香港の代理店Roxy Electronic Company社との合弁契約を解消する。Roxy社との合弁会社Sharp-Roxy社については、Roxy社の保有株式を取得し、完全子会社化する。今後は香港の電子機器販売大手S・A・S・Dragon Holdingsグループと販売代理店契約を締結し、収益拡大を図る。

鴻海とシャープが共同運営する堺ディスプレイプロダクツ(SDP)で鴻海流の経営を経験した野村副社長は、「鴻海の一番良いところはスピード経営。変化に機敏に対応できる」と語る。ここまでは、鴻海流の迅速な意思決定を遂行できる体制の構築と、それを生かした動きを見せている。

鴻海流でこれからシャープがどこまでやれるか。秋に発表を予定している中期経営計画は改革の状況とシナジーを盛り込むものとなる。これが再建の全体像の判断材料の一つになるだろう。

 
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