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ついにドライブスルーまで登場した葬儀ビジネス

「暑さ寒さも彼岸まで」というように、彼岸は季節の節目である。「彼岸に墓参り」という文化は、仏教徒が多い他の国と比べても日本だけの独特の風習のようだ。そして、近年は墓地や葬式に対する考え方が大きく変わってきた。

文=ジャーナリスト/横山 渉

葬式の登場は僧侶の経済的事情

財団法人日本消費者協会の「葬儀についてのアンケート調査」によれば、「葬儀の形式」は毎回「仏式」が9割前後であり、現在もなお中心だ。1件当たりの葬儀費用が231万円と諸外国に比べてかなり高額なのも特徴。しかし、近年は都市部を中心に葬式の簡略化が進んでいる。

長らく日本人の死生観や葬儀に深く根付いてきた仏教の歴史を振り返っておく。まず、日本に仏教が伝来したとされるのは538年。それ以前、時の権力者が大きさを競った古墳時代もあったが、あくまで権力者の話で、庶民は河原や道端に遺棄されていたと考えられる。宗教学者の島田裕巳氏はこう話す。

「古代の人は信仰心が厚いとわれわれは考えがちだが、必ずしもそうではない。それは仏教が入ってきて以降の話。仏教が火葬を導入したが、すぐに広まったわけではない」

庶民にも仏教が広まったのは、平安時代に浄土教が広まったことによる。浄土教は、念仏を唱えることによって死後極楽浄土に往生できると説く教えだ。鎌倉時代は浄土宗、浄土真宗、禅宗、日蓮宗などが登場した。

現在のような葬式が出てきたのは室町時代で、曹洞宗から始まった。「もともと仏教では葬式をやらなかった。しかし、雲水がいくら修行してもお金が入ってこないから、経済活動が必要だということで葬式仏教化したようだ」と島田氏は説明する。

江戸時代になると村社会へと移行し、個人はすべて寺の檀家となり、寺請制度が確立した。冠婚葬祭は地域社会のイベントだった。農村に進出した伝道者たちは、村の「座」や「講」の組織を利用して、葬祭を中心とした寺檀の関係を組織化していった。

明治になって家督相続制度が明確になり、同時に先祖を祀る祭祀権も家を継ぐ人が継承した。

現在、日本の火葬率は99.99%で世界一。しかし、火葬が急速に普及したのも戦後である。

「地方出身者が東京で亡くなるケースも増えたが、新しく檀家にはなれない。民間霊園だと宗派を問われないし、葬られる人は檀家関係がない。仏教式葬儀の簡素化・崩壊だ。火葬は葬儀運営の中心が葬祭業者になったことも大きい」(島田氏)

都市部では、火葬場に直行して済ませる「直葬」や、家族だけで営む「家族葬」がかなり増えているが、島田氏は0(ゼロ)葬を提唱している。0葬とは、火葬場に遺骨を全部置いて帰るという考え方だ。もはや、葬儀が大きな意味を持つ時代は終わったと言えるのかもしれない。

多死社会で葬儀ビジネスはどう変わる

現在、1年間の死亡者数は約130万人。団塊の世代が80歳代を迎える30年には160万人に達するとされる。都市部で深刻な問題となっているのは、火葬場不足だ。

霊園・墓石等の企画、開発、販売を行うニチリョクはそんな状況に対応すべく、遺体を安置するための「ガラス張り冷柩車」を開発した。これは“遺体1人分の「冷蔵庫」”。少ないスペースでも安置しておくことができ、故人の様子を外からうかがうこともできる。同社は2010年6月には家族葬・直葬専門の式場として神奈川県に「ラステル久保山」を開業し、「遺体安置サービス」を始めた。12年には「ラステル新横浜」をオープンした。

「病院で亡くなっても、遺体を自宅には運べません。家族・親戚が遠方に住んでいるとすぐに駆け付けられない。火葬まで遺体をどこに置くかは切実な問題です」(ラステル新横浜の横田直彦支配人)

交通の便が良い都市部と違い、葬儀場まで車を使うのが普通である地方の事情を考慮したサービスも登場した。長野県上田市のD&Aコンサルティングは「ドライブスルー型葬儀システム」で特許を取得している。

このシステムは「ドライブスルー&アテンドスタイルホール」という。葬儀場の専用通路に入ったら、専用受付の横に車をつける。受付にはタッチパネルがあり、車から降りずに窓から手を出して氏名・住所等を入力する。次に焼香ゾーンに進む。焼香は、抹香を指でつまむのではなく、焼香台に置かれた「焼香ボタン」を押す。すると、葬儀場内の祭壇の遺影下に置かれた花型ランプに明かりがともり、ドライバーから焼香があったことを知らせる。それと同時に、カメラが車内で手を合わせて拝礼している様子を撮影し、その画像が遺影近くに配置されたスクリーンに映し出される。焼香が済んでゲート用押しボタンをタッチすると前方の自動ゲートが上がり、前進して通路を抜けるだけ。なお、現金で持参した香典は、タッチパネルのところにいる係員に手渡ししてもらうようにする。

竹原健二社長はこの葬儀システムを着想から5年かけてつくりあげた。

「これで高齢者や体が不自由な人、多忙な方でも参列できるようになります。また、車なので悪天候でも大丈夫。喪主にすれば、仕出しや飲み物などの予算を縮小することができます」

システムは新築の葬儀場だけでなく、既存の施設にも設置可能で、今のところ1つの葬儀場に最大2台まで設置することを想定しているという。来年4月にこの葬儀システムを備えた葬儀場が開設される予定だ。

 
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