テクノロジー

 活況を呈し始めた創薬ベンチャー業界。その経営者は個性派ぞろい。果たしてどんな経営者がいるのか。その個性は経営判断にどのような影響を与えているのか。

◎そーせいグループ

 創薬ベンチャー1・0世代と呼ばれる古い世代で出色の成功を収めているのが、そーせいグループだ。創業者の田村眞一氏は、藤沢薬品(現アステラス製薬)、米ジェネンテックの日本法人社長を経て、1990年6月にそーせいを設立した。

 2004年7月に東証マザーズへの上場を果たし、翌05年には約200億円で英国の創薬ベンチャーであるアラキス社を買収。有望な慢性閉塞性肺疾患治療薬「シーブリ」と「ウルティブロ」を手に入れた。これがスイスのノバルティスを通じて欧米での製品化にこぎ着け、15年2月には再び、200億円の巨費を銀行借入で調達し、独自の創薬基盤技術を持つ英へプタレスの買収に踏み切っている。

 今年6月には、CEOの椅子を、英グラクソ・スミスクライン出身者に譲渡。2度の大型買収を経て、創薬ベンチャーからの脱却を図っている。

◎メディシノバ

 創業者の岩城裕一社長は、札幌医科大学出身の外科医。70年代に渡米。移植医として免疫抑制のメカニズム解明に携わるうちに、自らの手で新薬創出を手掛けることを志したという。

 メディシノバは、多発性硬化症や筋委縮性側索硬化症(ALS)、気管支喘息といった、自己免疫疾患に対する治療薬の開発に特化している。現状ではまだ売り上げはなく、900万ドル弱の損失を計上(15年12月期実績)している段階。開発品のライセンスアウト成功が成長のカギだ。

◎シンバイオ製薬

 05年3月にシンバイオ製薬を立ち上げた吉田文紀氏のキャッチフレーズは、「業界のイチローを目指す」というものだった。

 市場規模1千億円以上の大型新薬(ブロックバスター)は、当たれば大きいが、そのぶん開発費も嵩むし、成功確率は著しく低い。大手のような資金力がないベンチャーは、ホームラン狙いではなく打率で勝負すべきというのが、吉田氏の持論だ。

 最初に開発を手掛けた医薬品が、抗がん剤「ベンダムスチン」。日本のアステラス製薬のドイツ子会社が保有していた化合物で、臨床開発を経て、エーザイへと導出に成功。上市にこぎ着け、公約通りの単打を放った。

 現在は骨髄異形成症候群治療薬「リゴサチブ」などの製品化で、次なるヒットを狙う。

◎ノーベルファーマ

 業界で異彩を放つ存在が、ノーベルファーマである。同社の事業ターゲットは、主に海外では標準的な治療薬と位置付けられながら、日本では医薬品としての許認可を得ていない「未承認医薬品」の製品化。

 創業者の塩村仁氏は、旧三菱化成で、気管支喘息治療薬「テオドール」などの製品化を成功させた実績を持つ。ベンチャー経営者に転じてからは、許認可権などを握る医薬品当局に対しても歯に衣着せぬ苦言を厭わない直言居士としても知られる。

 ノーベルファーマは、IPOによる資金調達や出口戦略とは距離を置いている。立ち上げ時の出資も、化学系専門商社である稲畑産業に仰いでおり、本稿で紹介する10社のうち、唯一上場していないが、小規模かつ非上場という特性も生かしながら、採算性が低く、大手企業が日本で手掛けなかった希少疾患向け医薬品の製品化にフォーカス。04年に米ヤンセンファーマから導入、創業5年目の08年に承認を得た月経困難症治療薬「ルナベル」を皮切りに、既に10品目の医薬品を日本の難病患者らに届けることに成功している。

◎ペプチドリーム

 東京大学先端科学技術研究センターの菅裕明教授と窪田規一現社長らが06年7月に設立したのがペプチドリームだ。創薬ベンチャーでは当たり前の赤字経営を潔しとせず、ベンチャーキャピタルからの投資も最小限に抑え、自律的に黒字をめざせる体制を志して立ち上げた。

 13年に東証マザーズに上場を果たし、以降、ノバルティスや米メルクといった名だたるグローバルメガファーマが、独自の創薬基盤である「PDPS」などの有用性を認め、技術移転契約や共同研究契約を勝ち取ってきた。

◎リボミック

 核酸医薬の一種であるアプタマー医薬の研究開発を手掛けるのが、03年に東大医科学研究所所属の分子生物学者であった中村義一教授(当時)が創業したリボミック。アプタマーとは、RNAが持つたんぱく質の立体構造を形成する機能を応用した医薬品。病因たんぱく質に直接結合して、その働きを阻害したり和らげたりすることができる。

 現在は自社で持続性の疼痛治療薬の創製を目指しつつ、大塚製薬や大正製薬などとアプタマー創薬の共同研究を進めている。

◎免疫生物研究所

 抗体医薬の開発に取り組んでいるのが、群馬県高崎市に本社を置く免疫生物研究所である。

 1982年9月創業と、30年以上の歴史を持つ同社だが、もともとは研究用の抗体製造や体外診断用医薬品の販売などを手掛けてきた。清藤勉氏は、国立がんセンター研究所(当時)病理学部技官、日本抗体研究所などを経て免疫生物研究所を立ち上げたという生粋の「抗体屋」。

 北海道大学との共同研究で見いだしたがんの骨転移などに関与するとされる「オステオポンチン」は打ち切りになるが、遺伝子組み換えカイコから、手術時の止血剤などに用いる血漿成分フィブリノゲンを人工的に創り出す技術でアステラス製薬と共同研究にこぎ着けた。目下の最注力事業は、遺伝子組み換えフィブリノゲン製剤の製品化だ。

◎アキュセラ・インク

 創業者の窪田良氏は、慶応義塾大学出身の元眼科医。米ワシントン大学で研究中に、シアトルでアキュセラを立ち上げた。

 失明の原因にもなる、萎縮型加齢黄斑変性症の治療薬「エミクススタト」の開発からスタート。一度、社長を解任され、会社乗っ取りの瀬戸際に立たされながらもSBIの支援を受け、返り咲いた。

 しかし、アキュセラは現在、再びの苦境に立たされている。5月末に判明したエミクススタトの試験結果が芳しくなく、研究開発費を負担していた大塚製薬が契約を解消した。同剤については糖尿病性網膜症などの適応症で開発を継続するほか、新規導入した白内障治療薬「ラノステロール」で再浮揚をめざす。

◎オンコリスバイオファーマ

 小野薬品工業、JTでの研究者生活を経て、04年にオンコリスバイオファーマを創業したのが浦田泰生社長だ。総額約290億円のマイルストーン契約という、抗エイズ薬の大型導出契約を10年に米ブリストル・マイヤーズスクイブと結ぶまで、資金繰りに追われる生活を送った。

 浦田氏は、カードローンの個人借り入れで従業員の給与を賄いつつ、自身の夕食は毎晩、週末に作り置きしたカレーライス、昼はもっぱら握り飯という生活を続けながら、抗エイズ薬「センサブジン」や腫瘍溶解ウイルスと呼ばれる新タイプの抗がん剤「テロメライシン」の開発やライセンス交渉を続けたという。

 その努力が実り、10年のセンサブジンの大型契約にこぎ着けた。この契約は14年に白紙になったが、その後も臨床後期段階まで何とか開発を進め、現在は新たな提携パートナー獲得に向けた交渉を進めている。

◎ラクオリア創薬

 大手製薬企業の研究部門が、EBO(エンプロイー・バイアウト)方式で独立した、日本では珍しいケースが、ラクオリア創薬だ。米大手ファイザーが愛知県の工場内に構えていた中央研究所を閉鎖したのを機に、研究スタッフや設備を譲り受け、08年2月に旗揚げした。

 創業者の長久厚氏(12年に退任)は、84年に米ファイザーの研究所で製薬研究者として歩みをスタート99年にファイザー日本法人の中央研究所長、05年には常務まで務めた人物だ。

 ラクオリアの特色は、スペシャリスト人材と、豊富な開発パイプラインだ。通常のベンチャーでは望むべくもない開発資産の厚みがVCの投資を呼び込み、統合失調症治療薬「ジプラシドン」などのライセンス導出を早期にまとめたことで、創業からわずか3年半後の11年、ジャスダックへの上場を実現した。

文=ジャーナリスト/吉岡一宏

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