政治・経済

9月10日、広島東洋カープは読売ジャイアンツに勝利し、優勝を決めた。25年ぶりの優勝とあって広島は大騒ぎ。ところがスポンサー企業であるマツダはこの優勝に便乗できずに、昨年10月からほぼ1年にわたり販売台数が減り続けている。一体、何が起きているのか。文=本誌/関 慎夫

新車ゼロ、値引なしで販売台数は大幅減少

 広島カープが25年ぶりのリーグ優勝を果たした。投打で他チームを圧倒したことに加え、勝ち試合のほぼ半分が逆転勝ちという粘り強さも併せ持っている。今季は絶対的エースの前田健太がメジャーリーグに移籍、戦力ダウンが危惧されたが、その下馬評を覆す優勝劇だった。

 カープの快進撃は社会現象にまでなった。多くの新聞・雑誌、テレビが優勝への道のりを特集し、カープファンの女性=カープ女子がグラビアを飾った。相次ぐ逆転勝ちに緒方孝市監督が言った「神ってる」は今年の流行語大賞の有力候補でもある。

 カープと言えば赤ヘルだ。それまで紺色だった帽子・ヘルメットの色を赤に変えたのは1975年のこと。この年、広島カープは初優勝を遂げ、赤ヘル旋風を巻き起こした。

 現在、その赤いヘルメットには「be a driver MAZDA」の文字がある。地元・広島に本社を置くマツダの広告だ。関西大学の宮本勝浩教授によれば、カープ優勝の経済効果は331億円にのぼるという。カープの快進撃は、マツダにも好影響を与えているに違いない。赤ヘルの色はマツダ車のボディカラー「ソウルレッド」を採用している。カープの選手が活躍すればするほど、マツダ車が想起される。さぞかし、マツダ車の販売につながったに違いない、と思いきや――。

 マイナス23%。これは今年1~8月のマツダ車(登録車)の販売台数の対前年比だ。

 マツダの不振は他社と比較するとよく分かる。トヨタだけがプラス5・1%で、他の乗用車メーカーは軒並み前年比マイナスなのだが、その落ち込み幅は、日産3%、ホンダ3・4%、三菱5・1%、富士重工6・5%といずれも一ケタ。マツダの減少幅だけが際立っている。

 販売減の理由ははっきりしている。ひとつは昨年の反動だ。マツダは一昨年9月、新型「デミオ」を発売する。デミオは日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を獲得、販売台数を大きく伸ばした。さらに昨年2月に発売したSUV「CX-5」もヒット。この新車効果もあり、昨年の販売台数は、対前年比20%増と大きく伸びた。他の乗用車メーカーはすべてマイナスであり、マツダの一人勝ちだった。その反動が今、起きている。

 しかも、CX-5以降にマツダは国内で出した新車は、それほど販売台数の稼げない軽量スポーツカーの「ロードスター」(昨年5月発売)だけ。さらに言えば、通常、新車効果が薄れる2年目以降は、販売台数を維持するために値引きをするものだが、マツダはほとんど行っておらず、競合車種に比べ割高となっている。新車もなく、価格競争力もないのだから、販売台数が減少するのは当然といえるだろう。

 マツダはこれまで何度も危機を乗り切ってきた。バブルの頃は販売戦線を無理に拡大したため経営危機に陥り、米ビッグ3の一角、フォードの支援を受けることになる。ところがリーマンショックでフォードが資本を引き揚げ、マツダは後ろ盾を失う。その危機のさなかにあって、マツダはメーカーとしての原点への回帰を決断する。それがスカイアクティブエンジンなどを生み出した。昨年の販売台数の激増は、そうしたマツダの姿勢が評価されたためだ。

 同時にマツダは販売施策の見直しを行い、正価販売方針を打ち出した。これは「価格ではなくマツダの価値を認めた人に買ってもらいたい」との考えに基づくものだ。そのほうが将来的にマツダのブランド価値を維持・向上できるとの判断がそこにはある。つまり今年に入ってからの販売減少は覚悟の上だった。

 しかも、これだけの販売が減っても、マツダの経営に与える影響は限定的だ。というものマツダの海外売上比率は85%で、国内は15%にすぎないためだ。

1ドル=1円の円高で13億円の減益要因

 ではマツダを支える海外販売はというと、第1四半期までは極めて順調で、グローバル販売台数は前年対比1%増の37万5千台と過去最高を記録した。もともと人気の高いヨーロッパに加え、今年、新車を投入した中国市場が好調だった。通期のグローバル販売台数は前期より1万6千台増の155万台を見込む。販売不振は日本国内だけで、世界においてはマツダの勢いは衰えていない。

 懸念があるとすれば、為替変動リスクの大きさだ。海外販売比率が大きいのに、その一方で国内生産比率が60%と高いため、円高が業績を直撃する構造となっている。ドルに対し1円円高になると、13億円の減益要因となる。マツダは今期の為替レートを1ドル=110円と見ているが、これは前期実績より10円円高、しかも実際のレートはさらに円高に振れている。

 今年7月、イギリスがEU離脱で1ドル=100円を切るまで円高が進んだ時にマツダの株価が1700円から1200円に急落したのも、為替に対する脆弱性が嫌われたためだ。その後株価は1600円台に戻したが、為替の行方次第という体質はそう簡単に改まりそうにない。

 国内販売の低迷に加え円高不安。赤ヘル軍団と違ってマツダの快進撃が「神ってる」とはいかないようだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る