政治・経済

舵取りを誤れば政権崩壊の可能性も

 「猛暑日が続く夏の東京で、冷水をかけられ鳥肌が立つ思いをしたことだろう」

 ある元自民党古参秘書は、安倍晋三首相の心境をこう語った。意味することは3つ。7月31日の都知事選の結果と、8月8日に発表された天皇陛下のビデオメッセージ。そして経済問題。古参秘書はこう続ける。

 「小池百合子氏が都知事に当選したこと自体、安倍首相はさほど気にしていない。問題は得票数だ。291万票はあまりにも大きい。裏返せば、既成政党はノーを突きつけられたのと同じだからだ。今後、小池新党ができれば、自民党東京都連は、自民党大阪府連と同じ道を歩むことが予想される」

 大阪府連は、おおさか維新の会(現・日本維新の会)と激烈な争いを繰り返しているが、昨年の都構想を問う住民投票では勝利した。ところが、このところ連戦連敗だという。

 「昨年10月、竹本直一氏に代わり中山泰秀氏が府連会長に就いたのですが、その後、首長選や補欠選などで維新に連戦連敗。実に10連敗しています。もはや、府民は自民党に期待していないことの表れでしょう」(在阪ジャーナリスト)

 都知事選では、都議会のドン、内田茂幹事長が矢面に立たされ、都政の暗部が抉り出された格好で、石原伸晃会長ら都連幹部は揃って辞任した。しかし、それで手打ちになるとは思えず、今後も自民党都連と都庁の闇は暴き出されることとなるだろう、と古参秘書は指摘する。となれば、都民の自民党離れは進み、第3勢力が台頭してくることは火を見るより明らかだという。来年の都議選で、都連が壊滅的なダメージを受ければ、安倍政権自体の存在意義が問われかねないとの指摘である。

 加えて、陛下のビデオメッセージについてはこう語る。

20161004NAGATACHO_P01

イラスト/のり

 「陛下がそこまで悩んでおられたのかと思うと、心が痛い。ご高齢で満足に務められなくなる恐れは、責任感が強いことの証し。これまで皇室典範改正などの議論を放置してきた政治家の責任の大きさを感じる」(前出・古参秘書)

 このことは、安倍政権に強烈なダメージがあると、政治ジャーナリストは指摘する。

 「安倍首相を支持する保守団体や保守層には、生前退位に反対する声が強い。ましてや、女系天皇を認める皇室典範改正の議論など、もってのほかと考えているからです。しかし、陛下のビデオメッセージ以降、国民世論としては生前退位に賛成する声も多くあります。この舵取り如何では、政権が崩壊する恐れすらあるのです」

 本来、保守層を語るのであれば、陛下が思うところを理解し、今以上に天皇制がスムーズに存続可能にするのが道理だろう。しかし、彼らの議論はそうではない。そうした支持層の顔色を窺いながら物事を進め、特例措置でお茶を濁すようなことになると、一気に政権崩壊につながるとの指摘である。

経済政策でも手詰まり感漂う

 最後に、問題として取り上げられたのが、経済についてだ。安倍首相は先の参院選で、経済重視を打ち出し、アベノミクスは道半ばと訴え、勝利した。しかし、世界経済の低迷に加え、日本経済も完全復調の兆しは見えてこない。経済ジャーナリストは、こう言ってため息をつく。

 「アベノミクスの3本の矢は、途中で頓挫した状態ですから当然です。第1の『大胆な金融政策』こそ、うまくいったかに見えたものの、第2の『機動的な財政政策』は前進どころか後退傾向にあります。年金運用で、15年度は5兆円の損失が生じたことでも明らかです。第3の『民間投資を喚起する成長戦略』に至っては、何もしていないような状態。これで景気浮揚なんてあり得ない」

 それを拭うためなのか、昨年は1億総活躍担当相を設置し、8月3日の内閣改造では新たに働き方改革担当相も設置した。加藤勝信氏が兼任している。

 「女性の活躍にしろ、1億総活躍にしろ、指針すら見えてこない。加えて、働き方改革なんて持ち出されても、何を言い出すか分かったものではない。それより、政権発足時に掲げた旗をきちんと遂行するようでないと、“第2のバブル崩壊”のような壊滅的な経済ショックが訪れることになりかねません」(前出・経済ジャーナリスト)

 参院選を難なく勝ち上がり、リオ五輪の閉幕式ではスーパーマリオの格好で喝采を浴びた安倍首相。自民党総裁任期延長も現実味を帯び、2020年東京五輪まで、歴代で最長期間首相の座にいようとしている。しかし、それもまた国民の幸せがあってこその話だ。安倍首相に襲い掛かる“逆3本の矢”をどうさばいていくのか。その手腕が試される。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る