マネジメント

 経営に必要な「ヒト・モノ・カネ」の中で筆頭にあがる「人」。誰もがその重要さを認めつつも、直近の業績には結び付かないため、ついつい後回しとなり、大胆な施策がとれないでいる。一昨年、京都市内に金融大学校桂川キャンパスをつくり、人材育成に注力する京都銀行の髙﨑秀夫会長に、人材育成に必要な「トップの覚悟」について聞いた。

 

髙﨑秀夫・京都銀行会長プロフィール

 

髙﨑秀夫・京都銀行会長

(たかさき・ひでお)1944年、京都府出身。67年、立命館大学法学部を卒業後、京都銀行入行。審査部長、常務、専務を経て2010年頭取就任。15年より現職。(写真=北田正明)

京都銀行に育まれた進取の気質

 

―― 京都銀行はベンチャー企業の育成に定評がありますが昔からそういった行風ですか。

髙﨑 京都は、京セラやオムロン、日本電産といったベンチャーから世界的規模に発展した企業の発祥の地です。それを京都銀行が支えてきたとおっしゃっていただくことも多いですが、それには銀行の歴史が大きく関係しています。

 当行は京都府北部の丹波・丹後で誕生し、戦後、京都に地元銀行がなかったので、産業界や行政からのお声が掛かり、京都市内に出てきました。

 同じ京都といっても丹波・丹後と京都市内では別世界みたいなものです。当時は、繊維産業が華やかな時代で、丹後はちりめんの産地ですからご縁もあったのですが、市内は都市銀行が強く、ちっぽけな当行は残念ながら知名度も低く、正直「どこの銀行や」と言われるようなことも多々ありました。そこで失礼ながら、当時はまだ創業間もないベンチャー企業さんたちとの取引を進めていったわけです。見方によっては行く道が限られていたともいえるんですね。

 お陰さまで、結果的にそういったベンチャー企業が世界的な企業となり、私どもの先輩たちの苦労が大きく実を結んだわけです。

―― そうした進取の気風はどのように残っていますか。

髙﨑 もともと丹波・丹後から京都市内に出てきた経験もありますから、新たな土地への進出に抵抗がないということはいえます。

 まだ銀行の規模が小さく他府県に進出するほどの体力もなかった1960年代に、大阪の藤井寺、門真、大東や名古屋、神戸に支店を出しているんです。その後、足下を固めるために一度撤退しましたが、2000年から広域型地方銀行戦略を進め、2府3県に店舗拡大を図るようになってからも年平均4カ店ペースで出店し、それが今日の170店舗体制になっています。進取の気風はもちろん、経営判断の速さ、果敢さは今もありますね。

 

銀行にとって大きい「人」の存在

 

20161004KYOTO_P01

(たかさき・ひでお)1944年、京都府出身。67年、立命館大学法学部を卒業後、京都銀行入行。審査部長、常務、専務を経て2010年頭取就任。15年より現職。(写真=北田正明)

―― 桂川に大きな研修施設を造られ人材育成には特に注力されていますね。

髙﨑 桂川のキャンパスは、一昨年完成したのですが、金融大学校については2010年からスタートしています。

 今は、どこの企業でも人材育成が大事だといいます。銀行というところは、財産といえば、「お客さまと行員」しかないんです。ところが、当行は行員が増えているにもかかわらず、研修に使う会議室などのハード面が手狭になっていたため、行える研修も限られていました。そこで、掛け声だけではよくない、人づくりを徹底するためには、ハード面もしっかりした施設を造ろうと考え、桂川キャンパスを造ったんです。

 教育というのは50年、100年かかるものです。銀行は人が財産なんですから、そうした決意を伝えたい、経営側の熱い思いを具現化したいとの思いから、皆が話し合い、学び合う、学びの殿堂ができたと思っています。

―― どんなことを学ぶのですか。

髙﨑 例えば、現在の中期経営計画でも「いい銀行」というスローガンを標榜しているんですが、「いい銀行」とは何か、それについて話し合っています。

―― いい銀行とはどんな銀行をいうのでしょうか。

髙﨑 実は、「いい銀行」とはこれだというのを明示していません。それぞれの立場で、やっている仕事から考えてほしい。自分がどんな行動をとれば、いい銀行につながるのかを自分で考え行動してもらうことが重要だといった考え方です。そうしたことをこのキャンパスで語り合ってほしいのです。銀行は、金融知識も大事ですが、それよりもお客さまに人格的なものを受け入れてもらわなければ、何の意味もなさないわけです。

 お客さまにも「京都銀行と取引している」とおっしゃっていただきますが、私のような役員がお付き合いしているわけではないですし、支店長が行っているわけでもありません。つまり担当者がお付き合いをしているわけです。それを言葉では京都銀行とお付き合いしているとおっしゃるのです。つまり、信頼は個人に帰結している。それだけ、銀行にとって人の存在は大きいのです。

 

人材育成に対する髙﨑会長の信念

 

―― 人が成長する上で大切なことをあげるとすれば。

髙﨑 よく、「他行に学べ、他産業に学べ」と口酸っぱく言っています。机に座って悩んでも、思案しても出てくる知恵なんかたかがしれています。そうであれば、よその銀行や企業が行っていることを聞いてくる、考え方を学んでこいということです。学ぶ心で接し、そこから何らかの教えを得ようとする「謙虚さ」これも大事でしょうね。

 学びを得ようとするとややもすれば大きな銀行や企業から学ぼうとします。最先端のITなどについては、それも正しいとは思いますが、こと現場の仕事に関しては、規模の大小にかかわらず、努力されている銀行や企業の方は知恵や工夫を凝らしているんです。そういったところにこそ知恵があるのですから、学ぶべきことは多いと思います。

―― もう一つあげるとしたら、どんなところでしょうか。

髙﨑 違う概念かもしれませんが「継続」でしょうね。仕事がありますから毎日2時間、3時間と学ぶ時間をとれるものではありません。ですから、毎日15分であっても続け、積み重ねることが、やがて大きな差になっていくのです。

 経営側にも継続は必要です。人材育成というのは、当たり前ですがカネと時間がかかるものです。決算がいいとか悪いとか関係なく間断なく続けなければいけません。

 当行も以前、人件費を抑えるべく大幅に採用を削減したことがありました。そして、その影響が20年近くたってから出てきて苦労した苦い経験があります。

 ですから、辛抱してでも、ほかを倹約してでも、トップは信念をもって採用も含めた人材育成を続けなければならないのです。これが、トップの重要な役割の一つなんだと思っています。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る