政治・経済

2%の物価上昇を達成するまで続く超低金利。しかし実効が上がらない一方で、さまざまな歪みが生まれている。その典型的な例ともいえるのが、極端な低利不動産融資と超長期の社債の登場だ。投機的と格付けされた会社の超長期の社債が、将来に禍根を残すことはないのだろうか。文=ジャーナリスト/森永真一

金利1%を下回る不動産向け貸し出し

 あまりに長期化する超低金利局面の下で、銀行や証券会社が将来に禍根を残しかねないようなビジネスに邁進し始めている。金融関係者の間からも「やばい」という声が出始めているほどなのだ。

 9月15日、金融庁は例年通り「金融レポート」を発表した。同レポートは直近1年間における金融分野の問題点を分析したもの。その中で、金融庁が取り上げたのが不動産向け貸出の拡大である。中でも、地銀など地域銀行について「アパートローンを含む不動産向け貸出が、特に拡大している」と指摘し、「今後動向について注視が必要である」と警鐘を鳴らした。

 不動産向け貸出の拡大を牽引しているのは、やはり、アパート・賃貸マンションの建設資金貸出である。相続税が引き上げられたことを背景にして、都心の土地所有者に対して「相続対策」の一環とするアパート・賃貸マンション経営とそのための資金借り入れを提案するケースが激増している。

 中でも、地銀が首都圏に進出し、不動産デベロッパーとの提携方式で貸出を伸ばし続けている。貸出金利も記録的な低さであり、例えば、新宿区で提案を受けた不動産所有者は「長期のローンで1%を大きく割り込んだ金利のローンを提示された」と驚いている。

 一方、メガバンクなど大手銀行は、大手・中堅企業向けに期間20年を超える超長期ローンを提案している。中には、30年ローンも売り込んでおり、やはり、金利水準は変動金利を前提として1%台という話も聞くようになった。これについて、ある大手銀行の役員は「貸出難とマイナス金利のダブルパンチを受けて、これしかやりようがなくなった」と弁明しながら「やはり、問題があることは否定できない」と苦虫をかみ潰したような表情でこう語る。

 「企業にとって、今、資金が必要であるというわけではない。ただ、金利が安いから借りてくれと、こちらがお願いセールスしているにすぎない」

叩き売りの後始末はどうなるか

 証券分野でも異変が起きている。満期償還まで60年というようなスーパー長期の社債が発行されて、一部の証券会社が売り込んでいるからだ。それらの社債はハイブリッド債券と呼ばれて、償還期限がきわめて長いことに加えて、途中で会社側の判断で前倒し償還できるという商品に仕立てられている。

 「期限60年とすれば、金利は決して良くないが、恐らく、5年で発行会社が期限前の前倒し償還に出る。そうであれば、金利水準は悪くはない」

 本来、国債など安全資産で運用していた資産運用会社のファンドマネジャーは、マイナス金利に陥った国債の代替手段として、それらの社債を購入したと言う。しかし、「万が一、前倒し償還がなければ、とんでもない債券に投資したということになってしまう」と苦笑いを浮かべている。

 そんなファンドマネジャーですら、「あの社債は買えない」と断言するハイブリッド債が売り出されたのは9月だった。ソフトバンクグループが発行した満期25年、27年のハイブリッド債がそれだ。金利は年3%という条件設定である。しかし、ソフトバンクグループは英国の半導体設計会社を3・3兆円で買収したばかりで、それ以前の段階で約12兆円の大借金企業となっている。日本の格付会社の格付はトリプルBにとどまっているものの、ムーディーズ、S&Pという国際的な有力格付会社は「投機的」という厳しい格付をソフトバンクグループに与えている。

 そんな同社が発行した25年、27年という超ロングの社債であり、「5年目以降」に前倒し償還の条項が盛り込まれているとはいえ、「本当に前倒し償還できるとは見込みにくい」と言う。

 こうした格付問題を別にしても、償還期限が異様に長い債券や銀行貸出が横行する現状について、ある大手証券の幹部は「本来、そんな長い資金の調達については、企業は株式発行(エクイティ)で実現すべきだ」と指摘する。だが、ここで株式発行すると、株式総数の増加によって株価が下がる懸念があることや、資本の増加によってROE(資本収益率)が低下する恐れがある。そこで、社債や銀行借り入れというデットで資金調達に動いているわけだが、もうひとつ、その背景にあったのは「この先も長く、金利は上昇しない」という見通しだったと言える。

 ところが、日銀は9月21日の政策決定会合において、長期金利(長期国債金利)を現状よりも引き上げるように誘導して、金利カーブ(イールドカーブ)を立たせることを決定した。「いつまでも上がらない金利」が上がる事態となった。償還期限30年前後の社債の金利は「もっと高くてよい」という場面が到来したことになる。「マイナス金利、超低金利で利ザヤが悪化した」と被害者の立場に徹してきた銀行には、経営環境が少しでも改善するかもしれないが、この間、叩き売りした極安レートの貸出はどう処理していくのか。

 「常軌を逸脱したようなビジネスは後始末に苦労する」。あるベテラン銀行マンは、自戒を込めて先行きを憂いている。

 
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